第22話 何も無かった
後片付けを終えた後、私とレイ、
「なあ、お前は何をどこまで変えた?」
レイはそんな質問をしてきた。何でそんなことを聞いたのか分からない。答える義理なんてないし、意図も不明な質問。だけど、一応答えてあげた。
「区別するのが面倒くさいから、今回は貴方と器は同一人物として扱って話す」
「分かったから早くしてくれ」
私に「早くしろ」と言ってくるのは、レイや
「貴方が誕生してから、貴方に関わった人や動物。貴方の正体に勘付いた人もいたから、そこを。あと、【導き】に関することとか、私たちに関すること」
「本当にそれだけか?」
ちゃんと話してあげたのに、レイは懐疑的な目で私を見てきた。解せない。
「あ、そういえば『月』もあった。貴方が散々なことをしてたから、あんまり弄らなかったけど」
本当に大して弄ってない。レイがやらかしてたからね。
「月? ……ああ、アイツか」
レイも思い当たる節があるようね。
「自然な感じに埋めておいたし、穴はない。あの人達からしたら、何も無かったように思うはず」
ただ、あの人達は気分転換に散歩をして、帰ってきただけ。その散歩をしている間には、特に何も無かった。……そうなるように、変えた。
「そこまでしたら、奴らに気付かれると思うけど、そこは大丈夫なの?」
次は、
「そこは大丈夫。奴らにも干渉したから」
そんなことを思ったけど、口に出すのはやめておいた。
「……お前が奴らにすら干渉できる力を持っているのは知っている。だからこそ、疑問に思うことがあるんだ」
レイは今まで、これに触れてくることはなかった。その理由は、彼自身が一番分かっているはず。なのに、このタイミングで聞いてきた。
「お前の正体はどうでもいい。協力してくれる理由もどうでもいい。……何で、お前一人で――」
「それ以上はいけない」
圧を掛けるように、そう言った。それだけで、レイも
レイが聞こうとしたこと。
***
散歩を終えて、僕たち4人は家に帰ってきた。特に何かあったわけでもなかったが、のんびりと歩いた時間は心地良かったな。ソルデウスは「ステラがいたら……」とか、少し不満そうに呟いていたが。
「いやぁ〜。良い気分転換になったぜ! やっぱり散歩はいいな!」
「提案した甲斐があったわ。……さて、勉強をしましょう」
それを聞いたゼルシスは目を見張っている。勉強のことを忘れていたのだろうか? 元々勉強をしていて、その気分転換に散歩をしたのだから、家に帰ってきてから勉強をするのは何もおかしなことではないが。
「折角の良い天気なのに、勉強だって⁉︎ 俺は外で遊びたいんだけどなぁ……」
「今日は朝からずっと曇ってるから良い天気とは言いづらくないか? ゼルシスはただ単に勉強から逃げたいだけだろ?」
「そ、そんなことはないっ! そう言うソルデウスこそ、勉強がしたくないんじゃないか?」
ゼルシスは必死に抵抗(?)をしているようだが、勉強からは逃げることができなさそうだ。さて、僕は先に勉強部屋に行って、ゼルシスを待つとしよう。
……その数分後には勉強部屋でシェンシアに監視……ではなく、つきっきりで教えられながら勉強をするゼルシスの姿があった。
***
何だかんだで、もう午後の4時になった。ゼルシスとシェンシアは帰るそうだ。遅くなると大変になる、とのこと。
「今日も楽しかったわ。また会いましょう」
「じゃあな! 今日は楽しかったぜ……」
「最後に声が小さくなってるぞ」
ソルデウスにそう指摘されるゼルシス。
「べ、別に楽しくなかったわけじゃないって。ただ、勉強がなぁ……」
「そうか。なら家でも勉強を頑張れよ。じゃあな」
「また会おう」
愚痴が長くなりそうだったので、ソルデウスと僕はそう言って話を切った。
「また会いましょうね」
ルシールとジルベールのお世話があったため、あまり皆と一緒にいられる時間が少なかったステラだが、見送りには来れたようだ。
「次会うときは試験の時になると思うわ。その時に、後悔しないようにお互い頑張りましょう。ゼルシスの勉強は私が見るから、ゼルシスが落ちる心配はしなくても良いわ。最優先なのは自分のことだし――」
「シェンシア、その辺にしておこうぜ。遅れたら困るからな」
……そう言って帰っていったゼルシスは、きっと長い話が苦手だったんだろう。そんな気がする。
こうして、大して疲れるような事は無かったのに、異様に疲れた一日は幕を閉じた。
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