第22話 何も無かった

 後片付けを終えた後、私とレイ、ウルフは『ルーム』で話し合っている。


「なあ、お前は何をどこまで変えた?」


 レイはそんな質問をしてきた。何でそんなことを聞いたのか分からない。答える義理なんてないし、意図も不明な質問。だけど、一応答えてあげた。


「区別するのが面倒くさいから、今回は貴方と器は同一人物として扱って話す」


「分かったから早くしてくれ」


 私に「早くしろ」と言ってくるのは、レイやウルフくらいかもしれない。まあ、私が許可したんだけど。


「貴方が誕生してから、貴方に関わった人や動物。貴方の正体に勘付いた人もいたから、そこを。あと、【導き】に関することとか、私たちに関すること」


「本当にそれだけか?」


 ちゃんと話してあげたのに、レイは懐疑的な目で私を見てきた。解せない。


「あ、そういえば『月』もあった。貴方が散々なことをしてたから、あんまり弄らなかったけど」


 本当に大して弄ってない。レイがやらかしてたからね。


「月? ……ああ、アイツか」


 レイも思い当たる節があるようね。ウルフも話は理解できているし、大丈夫そう。


「自然な感じに埋めておいたし、穴はない。あの人達からしたら、何も無かったように思うはず」


 ただ、あの人達は気分転換に散歩をして、帰ってきただけ。その散歩をしている間には、特に何も無かった。……そうなるように、変えた。


「そこまでしたら、奴らに気付かれると思うけど、そこは大丈夫なの?」


 次は、ウルフから質問が飛んできた。


「そこは大丈夫。奴らにも干渉したから」


 ウルフは奴ら側として表で活動している。それを奴らに気付かれていないのは、誰のお陰だと思っているの?

 そんなことを思ったけど、口に出すのはやめておいた。


 ウルフは何かを考えているのか、目を閉じる。それから数十秒の沈黙が続いた。そんな中、レイの口がゆっくりと開く。


「……お前が奴らにすら干渉できる力を持っているのは知っている。だからこそ、疑問に思うことがあるんだ」


 レイは今まで、これに触れてくることはなかった。その理由は、彼自身が一番分かっているはず。なのに、このタイミングで聞いてきた。


「お前の正体はどうでもいい。協力してくれる理由もどうでもいい。……何で、お前一人で――」


「それ以上はいけない」


 圧を掛けるように、そう言った。それだけで、レイもウルフも無言になる。

 レイが聞こうとしたこと。ウルフもその内容は分かっているはず。私も分かってたからこそ、半ば強引に止めた。それの答えは――私だけが知ってればいいから。



   ***



 散歩を終えて、僕たち4人は家に帰ってきた。特に何かあったわけでもなかったが、のんびりと歩いた時間は心地良かったな。ソルデウスは「ステラがいたら……」とか、少し不満そうに呟いていたが。


「いやぁ〜。良い気分転換になったぜ! やっぱり散歩はいいな!」


「提案した甲斐があったわ。……さて、勉強をしましょう」


 それを聞いたゼルシスは目を見張っている。勉強のことを忘れていたのだろうか? 元々勉強をしていて、その気分転換に散歩をしたのだから、家に帰ってきてから勉強をするのは何もおかしなことではないが。


「折角の良い天気なのに、勉強だって⁉︎ 俺は外で遊びたいんだけどなぁ……」


「今日は朝からずっと曇ってるから良い天気とは言いづらくないか? ゼルシスはただ単に勉強から逃げたいだけだろ?」


「そ、そんなことはないっ! そう言うソルデウスこそ、勉強がしたくないんじゃないか?」


 ゼルシスは必死に抵抗(?)をしているようだが、勉強からは逃げることができなさそうだ。さて、僕は先に勉強部屋に行って、ゼルシスを待つとしよう。



 ……その数分後には勉強部屋でシェンシアに監視……ではなく、つきっきりで教えられながら勉強をするゼルシスの姿があった。



   ***



 何だかんだで、もう午後の4時になった。ゼルシスとシェンシアは帰るそうだ。遅くなると大変になる、とのこと。


「今日も楽しかったわ。また会いましょう」


「じゃあな! 今日は楽しかったぜ……」


「最後に声が小さくなってるぞ」


 ソルデウスにそう指摘されるゼルシス。


「べ、別に楽しくなかったわけじゃないって。ただ、勉強がなぁ……」


「そうか。なら家でも勉強を頑張れよ。じゃあな」


「また会おう」


 愚痴が長くなりそうだったので、ソルデウスと僕はそう言って話を切った。


「また会いましょうね」


 ルシールとジルベールのお世話があったため、あまり皆と一緒にいられる時間が少なかったステラだが、見送りには来れたようだ。


「次会うときは試験の時になると思うわ。その時に、後悔しないようにお互い頑張りましょう。ゼルシスの勉強は私が見るから、ゼルシスが落ちる心配はしなくても良いわ。最優先なのは自分のことだし――」


「シェンシア、その辺にしておこうぜ。遅れたら困るからな」


 ……そう言って帰っていったゼルシスは、きっと長い話が苦手だったんだろう。そんな気がする。


 こうして、大して疲れるような事は無かったのに、異様に疲れた一日は幕を閉じた。

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