第17話 訪れるのは生か死か

俺たち・・・を見てビビってんのか? はっ、この程度でビビるなんて世も末だな」


 僕達のことを嘲笑った男は、身長が2mを優に超しており、肩幅も広く貫禄があった。そして……その男の背後には、黒装束を纏った者が十数人いた。集団のリーダーらしきその男も、当然のように黒装束を纏っている。そして、全員が髑髏のような仮面で顔を覆っており、不気味な雰囲気を醸し出していた。


 これは……やばい。人数が多すぎる。僕たちは3人で、身体は満足に動かない満身創痍の状態。勝ち目も打開策もあるわけがなかった。


「おい、黙りこくんな。そんなんじゃつまんねえだろ」


 リーダーの男がズカズカと近づいてきた。地に這いつくばっている僕たちは、逃げることもできず、顔を上げて男が迫ってくるのを黙って見つめるしかない。


 男が僕の正面に来ると、しゃがみ込んで僕と視線を合わせてきた。


「アイツの毒を喰らってんのか。そんなら……おい、七号。DPA529とDNE562をくれ」


 聞き覚えのない単語が出てきた。DPA529とDNE562……何を指しているのだろう? 男の発言から推測するに……毒関連のものだろうか。


「七、号……?」


 DPA529とDNE562、という単語について僕が考えていると、隣から今にも消え入りそうな細い声が聞こえてきた。


「人に、番号をつけて……呼ぶ、なんて……正気の、沙汰じゃ、ない、な……」


 これは……ゼルシスの声か。どうやら、人に番号をつけて呼ぶ男に憤りを感じているよう。確かに、正気の沙汰ではないかもな。七号、という言葉にも何かしらの意味を持っている可能性があるので、一概にそうとは言えないが。


「おい、口を開け。従わねえなら頭蹴るぞ」


 何をされるのだろうか。そう思いつつも、今頭を蹴られたらどうなるかは目に見えているので、大人しく従うしかなかった。


「おい、お前らも早く口を開きやがれ」


 僕が口を開くと、次はゼルシスとソルデウスにそう言い放った。それでも従わないゼルシスを見ると、男は無理矢理口を開かせて、七号と呼ばれた者が持ってきた2本の試験管に入っている怪しげな液体を口内に流し込んだ。そして、男は懐からもう一本の試験管を取り出し、その液体もゼルシスの口内へと流し込む。


「う……ゲホッ、ゲホッ」


 咳き込むゼルシス。大丈夫なのだろうか。明らかにヤバそうな液体を飲まされていたが……。


「次はお前だ」


 男はその次にソルデウスへ謎の液体を口内に流し込み、僕にも同じように口内へ液体を流し込んできた。


「ゲホッ」


 気管へ液体が入りそうになるし、液体は不味いし、咳き込む要素しかなかった。だが、不思議と痛みは引き、身体は楽になっていく。


「そろそろやっちまうか」


 男が僕らを見てそう呟く。その男の目は、獲物を狙う虎のような、狩る側の鋭い目だった。


「リーダー! こっちに向かってきてる奴がいます!」


 その声が聞こえた方に、男は視線を向けた。その目は、僕たちに向けていたものとは違う、比較的鋭さがないものだった。あくまで、だけどな。


「あぁん? あの小娘は抑えたんじゃねぇのかよ。折角いいところだっつーのに。脳みそ沸いてんのか? クズが」


「す、すみません!」


「十四号、お前に言ってるわけじゃねぇ。あの小娘と、小娘を抑える予定だった奴に言ってんだよ。あと、謝る時は『申し訳ございません』って言えって、何回も言ってんのにわかんねぇのか?」


「す――申し訳ございません!」


 一体何を見せられているのだろう? 気付けば身体も動かせるようになっているし、さっさと逃げてしまおうか。


「逃げようとしても無駄だ。解毒薬を飲ませてやったからといって調子に乗んなよ、ボケが」


 僕たちを黒装束を纏った者が囲み、「逃げさせまい」と暗に伝えてきた。


「邪魔が来るまであと幾つだ」


「相当遠いので5分といったところでしょう。ですが、結構速いため、予想が外れる場合は十分あります」


「そんなら急ぐぞ。さ――」


 男の言葉はそこで途切れた。別に男が死んだわけではない。驚いて声が出ていないというのが正しいだろう。ある方向を見つめて固まっている。僕がそこを見ると――


「遅れてすみません。さて、速やかに処理しますので、私にお任せ下さい」


 星の光を集めたような美しい金髪を靡かせ、澄んだ蒼穹のような瞳でこちらを見つめている少女、ステラがいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る