第15話 異変、そして……
僕たちが勉強している最中に、コンコン、と扉をノックする音がした。
「私はさっき戻ってきたのだけれど、あなた達も散歩をして気分転換するのはどうかしら? 特に、ゼルシスに長時間の勉強は厳しいでしょうし」
扉越しから告げられたシェンシアの提案に、ゼルシスはサボりたいが故か、真っ先に飛びついた。
「行く行く! 俺は絶対行くぜ! 勉強なんてもう懲り懲り――じゃなくて、少しくらい
「おい、あからさまにサボるための方便ということが見え透いてるぞ。それでも、一理あると言えばそうかもしれないな。まあ、そのくらいでは鈍らないと思うが、気分転換は大切だし、俺もその提案に乗せてもらおう」
ソルデウスも提案に乗ることに賛成な様子。
「それなら僕もそうするか」
「じゃあ、決まりね。あ、そうそう。ステラはまだ忙しいから行けないことと、代わりと言っては何だけれど、私も行くことにしたということは伝えておくわ」
そうして、4人で散歩をすることが決まった。……若干流された感じがしたが、きっと気のせいだろう。まあ、この村やその周辺の地理に関してはまだ疎いので丁度いい。勉強をするのもいいが、身体を動かしたくもあるしな。
***
「風が涼しいな」
雪が僅かに残っている時期なので、当然といえばそう。だか、それすら新鮮に感じる。
「あちらの方に行きましょうよ。私はあまり森の奥に行ったことがないし、行ってみたいわ。少し危険かもしれないけど……」
「今回は4人だし、ホーンラビットやらリトルボアやらが来ても何とかなりそうだから別にいいんじゃね?」
「俺もレイも稽古の時に入ったりしてるし、大丈夫だと思うぞ」
ということなので、家のすぐ近くの森に行く。そこは、いつも行っている時よりも妙に肌寒く、不気味に感じた。いつもなら僕にとって味方のような天気であるはずの曇天が、今は敵のように見える。
そして、僕の頼りになる勘が「今ならまだ引き返せる」と告げていたのが、恐ろしかった。一方で、ソルデウスを先頭に3人は一歩ずつ前へと進んでいく。この中、一人で引き返すなんて、僕には出来るわけがない。結局、森の奥へと足を踏み入れていくこととなってしまった。
***
「この森、何かいつもと違くないか?」
「俺は特にそう思わないが? 何も変わらない、いつも通りの森だろ」
どうやらソルデウスは、この異変に気づいていない様子。……ソルデウスの様子を見ていたら、本当にこの異変が起きているのか疑わしくなってきた。ただの思い込みという線も否めないのだ。
――そう自己完結しようとした、その時だった。
シュッ、と何かが凄まじい速度でこちらに向かってきたような音と共に、僕の髪が風によって靡いた。その風は、僕の右頬辺りから吹いてきたような気がして……。
右頬辺りを確認しようとした時、そこが熱くなっていくのを感じた。この感覚はどこかで――。
「おい……レイ、大丈夫か!? 頬から血が出てるぞ!」
「臨戦態勢! 備えろ! 来るぞ!」
状況を理解しきる前に、状況はどんどんと変わっていく。右頬から出血しているらしいが、そこだけのようなので、取り敢えずソルデウスの言った通りに戦闘へ向けて備える。おそらく、誰かが奇襲を仕掛けてきたのだろう。……こんな状況なのに、恐ろしいほど冷静だった。
再びシュッ、という音がすると共に何かが飛んできた。それは偶然なのか、ソルデウスの服の肩辺りを掠めた。そのおかげで、怪我はない。
「チッ、速くて捉えられなかった……」
ソルデウスは僕と同様で、飛来した物を捉えられなかったよう。速くて見えないというか、僕は掠めたことにすら気付かなかった。だが、血が出たということは刃物だということ。それがわ分かったのがせめてもの救いだ。
「シェンシア、走って逃げろ! お前はステラに連絡を!」
一方、ゼルシスは珍しくシェンシアに指示を出していた。それを受け、シェンシアは来た方へ走り出す。その間、例の物は飛んでくることがなかった。
「見えない所からちょこまかと何かを飛ばしやがって。戦いたいなら正々堂々戦え!」
ゼルシス、それを聞いてのこのこと姿を表し、正々堂々と勝負を始める奴がいたらそれはただの馬鹿だ。そんなことをする人なんてあり得ないと思う。見たことがない。
シュッ、と返事の代わりなのか、またもや例の物を飛ばしてきた。それはゼルシスの
例の物が当たった箇所……それを整理すると、見えてくるものがある。それは……例の物を飛ばしてくる輩は、いつでも僕らを殺せるということ。飛ばした全ての例の物が掠るなんて、偶然にしては考えづらい。ということは、意図的にした、つまり脅していると同義なのではないのだろうか?
一体何をしたいのか。それが見えないまま、僕らと見えぬ敵との戦いの火蓋が落とされた。
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