第14話 ルシールとジルベール

 昼食をとり終わったので、話し合いを再開する……はずだった。だが、門番をしている人の友人の家に遊びに行っていたルシールとジルベールが帰ってきて、ステラに「ご飯食べたーい!」とねだったので、ステラがルシールとジルベールの面倒を見終わるまで見送りという形となった。


「じゃあ、私は散歩に行ってくるわ」


「それなら俺は勉強するぞ。試験も近いし。……レイはどうだ?」


「僕もソルデウスと同じだ。試験が近いから勉強する」


 試験まで時間がないため、こういった貴重な時間は無駄にできない。それはソルデウスも同じこと。


「俺はシェンシアに『それはダメよ』付いて行く……って、反応早すぎんだろ! 被せ気味に言うくらい俺に付いて来てほしくないってことなのかよ!?」


「はぁ……。そうじゃなくて、私が言いたいのは勉強は大丈夫なの、ってこと。普段はあんまり勉強していないからそんな頭になってるのに、こういう機会に勉強しなかったら一人だけ試験に落ちて、それを後悔しても後の祭りになるわよ」


「むむ……」


 シェンシアの話はまさに的を射ていた。彼女の正論には、流石(?)のゼルシスも唸り、反論する余地がない様子。……時には諦めることも大切だそ、ゼルシス。


 ――結局、ゼルシスは半ば強制的に勉強をすることになった。


   ***


 勉強部屋への移動の最中、僕はルシールとジルベールのことを考えていた。


 同居人だというのに、彼女らにはほとんど接したことがない。食事の時間も勉強の時間も訓練の時間も……それら以外にも、することの時間がずらされているように感じる。


 それが意図的なのか、ただの偶然なのか……そんなことなど、僕にはわからない。だからこそ、気になっていた。


 きっとルシールとジルベールのスケジュールを管理しているのは両親かティグリスなのだろう。そのため、聞けば得られることがあるはずだ。だが、ほぼ確実にはぐらかされる。根拠はないが、そう思う。


 ……そういえば、ルシールとジルベールに接したことがあるのは、自己紹介を除いてあの一件だけだったな。




 それは寒夜月かんやづきの初め頃、僕が素振りをしているときだった。


「その服……汚いし、変。僕は、別の服に着替えた方がいいと思う」


 ジルベールが背後からそう声を掛けてきた。その発言を聞いて、僕は目から鱗が落ちる思いをした。


 今までは違和感を抱くこともなく着ていたこの服だが、黒い燕尾服に白いシャツ、黒い蝶ネクタイに白い手袋、そして裏地が紅い襟がついた黒いマントという格好なのだ。

 それだけでも現代日本の街では見ない服装なのに、服の背中部分とマントに爪痕が残っているため、現代日本の街でよく見る服装をしているジルベールたちからすれば違和感しかないだろう。

 おまけに、数週間ほどこれを着ていたのだから、汚れているのは当たり前だった。着替えた方がいいと言われるのも納得である。


「あっちに向かって。そしたら姉さんがいるから、服を見繕ってもらえばいい」


 そうして、僕はソルデウスから借りてきた服を着ることになったのだが、少し手際が良すぎると思った。まあ、それに関しては気にするほどでもない。



 それ以降は接する機会がないと言っても過言ではなかった。アル村長の妻ルメルシェとはまだ接する機会があるが、それでも少ない。


「ゼルシスは何の科目が苦手なんだ?」


「そりゃあ……全部に決まってる!」


「おいおい……もう不安になってきたぞ」


 気づいたら、勉強部屋にいつの間にか到着していた。……さて、ここからは勉強に専念するか。



 一人で勉強するつもりだったが、ゼルシスが助けを早々に求めてきたため、僕とソルデウスの二人でゼルシスに教える羽目になった。……なぜ僕が教える側になっているのだろう? 不思議である。

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