第13話 霞を晴らす一言

 シェンシアが戻ってきたので、話し合いを再開する。なお、その前にゼルシスがシェンシアを茶化していたが、全員がそれをスルーした。そして、思考の海へ沈んでいた僕も浮上できたから再び話し合いを始められる。


「これから『深淵の魔女』について話すわよ。まだ不確定で曖昧な情報も含まれているから、そこは注意して」


 話を切り出したのは、案の定シェンシア。


「『深淵の魔女』の基本情報について話そうと思うけど、みんなが知っていることもあると思うわ。『深淵の魔女』は私たちと同じ歳の12歳、そして性別は女、種族は魔女。容姿については情報を入手できていないけど、魔女という種族は性別を問わず、容姿が整っているらしいのよね。あと、魔法の扱いに非常に長けているから、変身ができるかもしれなくて、容姿についての情報はほぼ無意味になるといっても過言ではないわ」


「あのさー、なんで『深淵の魔女』 は12歳なのに魔法を使えるんだ?」


 何気なく言ったであろうゼルシスの一言に、その場が凍りついたように静寂に包まれる。


「……これ、なんかやっちゃったやつ?」


 当の本人も気まずそうだ。誰かと目を合わせようとしているが、みんなは深く考え込んでいて目を合わせてくれていない。


「なんでかしら?」


 長い沈黙を打ち破ったのは、シェンシアのその一言。それを皮切りにして、ソルデウスが話し出した。


「魔法は、天授の儀で天職を授かってから使えるもんだよな。天授の儀はその年の萌月もえづきからその来年の霞月かづきまでに13歳になる人が受けるから、俺たちと同年代なら使えないことになるぞ」


 天授の儀とやらは、あの世界のことで例えると、その年に中学1年生になる人が受けられる儀式のようだ。また、それを受けて天職を授かるらしい。……天職は自分の性質に合う職業のことだが、それをどうやって授かるのだろう?

 そんな疑問を抱いたが、今質問するのはよくない気がする。


「ソルの言う通りですね。天授の儀を受ける前から魔法を使えたなどという話は聞いたことがありませんし、どうやって魔法を使っているのでしょうね」


「そもそも『深淵の魔女』が12歳、という情報が間違ってるかもしんねえぞ」


「その線もありえるわね」


 僕を置いて話がどんどん繰り広げられている。以前になぜか・・・気づかなかった疑問を見つけ、熱くなっているのかもしれない。僕も似たような経験が幾つもある。



 「『深淵の魔女』がなぜ魔法を使えるか」というテーマに変わった話し合いは、数十分ほど続いた。結局、結論は出なかったようだが。


「話が逸れてしまったから、また『深淵の魔女』の話に戻りましょう」


 2回目の話し合いは、1回目と同様にシェンシアの一言から始まった。


「これも知っていると思うけど、『深淵の魔女』は罪を犯したことになっていて、それが理由で始末しなければいけないことになっているわ。そして、肝心のその罪が、カマセーヌ伯爵閣下の暗殺及び、騎士団の中隊を2つ全滅させた罪なのよ」


「あの事件の犯人が『深淵の魔女』なのか!?」


「おい、ゼルシス。シェンシアの話をちゃんと聞いてんのか? シェンシアは、『深淵の魔女』が罪を犯したことになっている・・・・・・・・・・・・・と言ったんだよ。犯人が不明だから、都合の良い人物に擦りつけたっていう何とも胸糞悪い話さ」


 確か、ティグリスが「『深淵の魔女』を始末するというものは、上からの指令なので逆らうことができない」というような感じの発言をしていたな。


「ソル、その話を聞かれたら大変なことになりますよ。ティグリス叔父様の上司、というのは適切ではないかもしれませんが、上からの指令だということをお忘れないでください」


「……すまない、少し熱くなっていた。こんなことで目をつけられたら、たまったもんじゃないし、この手の発言は気をつけよう」


 もしかすると、ティグリスの「上」は相当くらいが高い人物なのではないだろうか。そして、ティグリスも案外位が高かったり……。何の位なのかはわからないが。


「そろそろ昼食をとる時間になるから、ここで一旦話し合いをやめようと思うけど、何か意見はある?」


「俺は大賛成だ! みんなはどう? もちろん賛成だよな、なあ?」


 ゼルシスから謎の圧をかけられたので、みんなが素直に頷いた。

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