第8話 任務遂行班
あの世界にいた頃、僕は孤独だった。そう、友人や仲間といえる存在はいなかったのだ。父親も母親も気づいたらいなかった……というか、父親は僕が産まれる前に死に、母親は僕を産んだ直後に死んだ、誰だったかは覚えていないが、そう伝えられたことは覚えている。
そんな僕にゼルシスは突然「仲間だ」と言った。初めて会ってからまだ数時間しか経っていないのに。……当然、そんなことをされたら困惑するに決まっている。発言の真意もまだ見えていない。
「なんで……僕と、ゼルシスが、仲間なんだ?」
なぜか声が僅かに震える。声を出した僕自身すら理解できない。声が少しでも震える理由なんてどこにもない。なのに、声が僅かに震える。
「仲間……? あっ、あれだよ、あれ! っと……そう、任務遂行班のことだ!」
僕の発言を聞いたゼルシスは首を傾げ、それからすぐに早口でそう言う。
僕はそんなゼルシスの様子を見て不審に思った。自分が言ったことを忘れてしまったかのような様子を見せてから、早口に理由を言う……不審に思っても仕方がないだろう。
「任務遂行班……?」
そんなことよりも、この聞き覚えのない言葉の方が重要だ。遂行班は、読んで字の如くだろうが、その「任務」とやらが何を示しているのかは知らない。
――先ほどとは打って変わって、焦りが一切感じられない冷静な雰囲気を出すゼルシス。
「レイも知っているだろ? 『深淵の魔女』を始末する、という任務さ」
「な……」
ゼルシスがなぜこれを知っているんだ!? って、仲間ってもしかして――
「俺が言ったことがわかったか? 俺とレイは、その任務を遂行するための班に所属しているんだよ」
遂行班……ティグリスはそんなことを言っていなかった。言っていたのは、ソルデウスと一緒に始末しろ、ということぐらい。
「遂行班にはな、もちろん俺とレイだけが所属してるわけじゃねえ。レイもそれくらいは知ってるだろ?」
「……いや、知らない。僕には、二人で始末しろ、ということくらいしか知らされてないんだ」
あの時に詳細は一切語られなかった。そして、僕はやる気がなかったので訊く気にもならなかった。
「まじかよ……。ティグリスさんがそんな曖昧な説明っていうか、何というか……詳しく教えないなんてするはずないと思うけどな、俺は」
僕はティグリスに対してそんな印象を抱いたことなど一度もない。ティグリスは肝心なところを曖昧にしたりするからな。
それはさておき、ティグリスが任務のことをゼルシスにどう伝えていたのかが気になる。
「そうなのか……。なら、ティグリスさんは任務について何と言ってたんだ?」
「ティグリスさんが俺に知らせてくれたのは、『深淵の魔女』と任務について、そして遂行班のメンバーは誰か、とかだな。『深淵の魔女』は……あんま覚えてないけど、遂行班のメンバーは覚えてるぞ! なんたって、レイ以外が俺の友達だったからよ!」
「ゼルシスの友達……か。結局、誰がメンバーなんだ?」
ゼルシスの友達と言われても、知るわけがない。ゼルシスとは知り合ってから数時間しか経っていないから当然のことだろう。
「俺、シェンシア、ソルデウス、ステラ、そして、レイだ。レイのことはなんか、ティグリスさんが『新しい人がくるからよろしくね』って言っただけだったから、ほぼ何もわからなかったんだが、今日でようやくわかったぜ」
詳しく教えてないだろ、それ。これで詳しく教えてもらったと思っているのだろうか?
……って、メンバーは僕を入れて5人で、全員は僕が知っている(1人は僕が一方的に知っているだけ)人じゃないか。それならまだやりやすそうではあるが……なぜ、ティグリスはこのことを伝えなかったのだろう。
まあ、ティグリスのことを考えても仕方がない。
「ここでこの話は一旦終わりにして、訓練を続けるぜ。休憩は終わりだ!」
参ったな。もっと情報が欲しいし、休憩をしたいのに終わりなんて。
「ほら、早く来いよ。早く来なかったらランニング3周追加にするぞ!」
「わかったから、3周追加はやめてくれ!」
3周追加は嫌なので、行くしかないか。
――僅かな違和感を抱えたまま、僕は稽古に励んだ。「レイは仲間」という発言をした理由がおかしいと感じたわけではない。だが、僕の勘……みたいなものが、何かを訴えてきている。
それでも所詮は勘に過ぎないもの。そう考え、僅かに抱いた違和感を放置することにした。まあ、放置しても影響は出てこないだろう。
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