第7話 仲間

 今日の昼食は、野菜が沢山入っている塩味が全くしないスープに、硬い茶色のパンだ。つまり、朝食とほとんど変わらない。しかし、朝食と明確に違うところがある。それは――スープに肉が入っているということだ。


 肉とは言っても、味がしない兎肉で、美味しくはない。だが、貴重な栄養源なので嬉しくはある。


「「神に感謝を」」


 食す前にする挨拶は、この世界では「いただきます」ではなく「神に感謝を」というもの。その挨拶からは宗教の色が滲み出ているが、僕はそれに既に染まってしまっている。要するに、慣れてしまったのだ。


 それからしばし無言で食事を進めていたが、唐突にゼルシスが口を開いた。


「朝飯を食っている時に話したが、俺には幼馴染の女子がいるんだ」


 内容は、幼馴染の女子がいるということ。確かにそんなことを朝食をとっていた時に話していた気がする。興味がなかったからしっかりと聴いていたわけではないが。


「名前はシェンシアっつうんだが、俺とは違って頭がめちゃくちゃいいんだが、運動ができなくてな……俺もだが、シェンシアも王立人材育成学園に入学できるのか不安なんだよ」


「ゼルシスも王立人材育成学園の入学試験を受けるのか?」


 正直言って、シェンシアの話よりもそちらの方が気になる。


「ああ、そうだよ……って、ティグリスさん、そのことを言ってなかったのか!?」


「そのことも何も、ゼルシスについて何も言ってなかったけどな」


 そう、ティグリスは監視役と言っただけで、年齢も性別も名前もその他諸々も何も話さなかったのだ。


「それは困ったなぁ……。まあ、それに関しては午後の訓練をするときに話すから、一旦置いておこう。そんなことよりも、シェンシアがな――」


 ……この時間でわかったことは、ゼルシスは勉強がとても苦手だが、運動はとても得意ということと、シェンシアのことが好きすぎるということくらいだった。なお、恋愛的な意味で好きなのかは知らん。僕はそういうのに疎いからな。


   ***


 昼食後、家から出ていつも訓練をしている場所へゼルシスを案内する。


 どうやら、僕に稽古をつけるようにティグリスがゼルシスへ指示していたらしい。ティグリスだけでなく、ステラにも稽古をつけてもらうことで、別の人にも稽古をつけてもらう大切さがわかった僕からしたら、ありがたい話である。


「俺は運動が取り柄だからな! その面に関しては安心してくれ。ハイペースでビシビシ稽古をつけるからよ!」


 ……この一言を聞いて不安になってきたし、ステラとの模擬戦後の身体からだの状態がどうだったか鮮明に思い出した。僕の勘が、あの時みたいになるぞ、と訴えてくる。やはり、あの時みたいになりたくない。好き好んでああなる人は滅多にいない……というか、ほぼいないだろう。それくらい身体の状態酷かった。


「手柔らかに頼む。僕の身体を壊さないでくれ」


「だから、心配すんなって! 泥船に乗ったつもりで着いてこいよ!」


 泥船だと沈むだろ。その一言で余計に不安になってきたじゃないか。


「泥船じゃなくて大船な。泥船だと沈むぞ」


「そうだったけ? まあ、どっちでもいいや。とにかく、稽古を始めるぞ!」


「どっちでもよくないだろ……」


 こうなったら僕にできることは、無事を願うことだけだ。


   ***


「はぁっ、はぁっ……」


「よし、一旦休憩するかー」


 や、やっと休憩か……。ティグリスやステラの訓練もつらいが、ゼルシスの訓練はそれらとは違った辛さがある。ゼルシスは、自分のペースで進めていくのだが、そのペースが早い。その上、体力が有り余るくらいあるのか、疲れている様子もない。


 身体能力や体力という面だけを見れば、ステラと張り合えるくらいの実力があると言っても過言ではない。まあ、身体能力や体力という面だけなので、模擬戦をした時に勝つのは十中八九ステラだろう。ゼルシスは技術面に粗があるのだ。


「休憩中に黙ってるのはつまらねえから……昼飯の時の話の続きをするか!」


「それは……学園についてか?」


 ここでまたシェンシアの話をされたらたまったものではない。僕は、ゼルシスが学園について話してくれることを願った。


「そうだ。今後に関わる重要なことだしな」


 今後? それは一体どういうことなのだろうか。学園についてだから、今後に関わるというのは納得できるが、重要なことという箇所がわからない。


「単刀直入に言うと、俺とレイは――仲間・・だ」


 その一言は、疲れを吹き飛ばすほどの衝撃を……与えなかったものの、僕の心を確実に揺さぶった。

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