第6話 活動の方針

 ゼルシスの様子を見て不安を覚える。……監視対象に心配、というか不安に思われる監視役は中々いないだろう。


 まあ、別にゼルシスが監視役としていなくても逃げるつもりはもうないし、別にゼルシスが監視役をしっかりと務めていなくても僕に影響はない。


 さて、勉強を続けるとしよう。


 僕は再び机と向かいあって、政治学の学習に取り組む。今日は政治学が終わったら地理学、そしてその次は歴史学だ。所謂いわゆる「社会科」に該当する学科を今日は学習する。


 この「社会科」の学習は色々と新鮮だし、学んでいて楽しい。きっと時間も早々に流れていくだろう。


   ***


 政治学や地理学、歴史学などを学んで、この国は日本と違い……いや、かつての日本と同じで貴族がおり、政治体制は君主制だということがわかった。日本とは勝手が違うので、生き辛い世界である。


 また、貴族といっても、平安時代とかの日本の貴族というよりはイギリスなどのヨーロッパの貴族に近い。


 そんな身分社会が形成されており、日本……というより、あの世界の国とは大きく異なった点があるのがこの国だが、共通点もあるのだ。


 なんと、道はアスファルトで舗装され、家はコンクリート製のものもあるそう。……パートリア村を始め、この国の辺鄙な場所にはないけどな。


 これは歴史学で学んだのだが、どうやら異界の地から訪れた歴代の勇者が技術者を伝えていったらしい。それがなかったら、この国、この世界の文明はもっと遅れていた可能性もあるという。


「お〜い、昼飯の時間だぞー」


 ……異界の地から訪れた歴代の勇者、か。勇者があの世界から訪れた人であるという可能性は高いな。


「レイ、昼飯がいらないのか? 俺が全部食っちまうぞ……と言いたいところだが、昼飯がまだ用意されてねぇし、俺じゃ用意できねぇんだよなぁ」


 ――今更だが、なぜ僕がこんなことを話しているかというと、これらが僕がこの世界にやってきた理由を探すための手がかりだからだ。入学試験のために学んでいる内容だが、それからわかることは結構ある。


 また、勇者云々うんぬんが手掛かりといったが、僕が勇者というわけではない。なんか勇者はもっとこう……色々あるんだそうだ。色々と。


 ここら辺はまだ詳しくやらないそうなので曖昧だが、十中八九僕が勇者ということはないと睨んでいる。歴史にある勇者像に僕は全く沿っていない。


「このままだと空腹で死ぬ……わけじゃないが、腹が減った。ほら、早く食おうぜ。昼飯が俺を呼んでる。この声が聞こえないのか? 俺を呼ぶ声が!」


 結局のところ、僕がなぜこの世界にやってきたのかはわからなかった。だが、勇者という存在が何かと引っ掛かる。僕と似た境遇だからかもしれない。まあ、文献に記されていたものが100%合っているというわけではないし、脚色されたものであるかもしれないし……そもそも誤った情報なのかもしれない。


 そこはわかるはずがないので置いておくが、僕がこの世界にやってきた理由を探すためにも、学園に通うのは有益なのかもしれない。対象ターゲットを始末することを主軸にし、理由を探すために調査をしていく、という方針で活動するか。


 そのためにも、まずは入学試験に受かり、学園に入学しなければならない。より一層頑張らなければ。


「おい……流石に無視は酷くないか? シェンシアに初めて『バカ』と言われたときぐらい傷付いたぞ……ってこの例えだとあんまり傷付いてないことになるなな……」


 ここでやっと、ゼルシスが何かごちゃごちゃと言っているのを認識した。


「どうしたんだ? ゼルシス」


 先ほどまで集中していたのでゼルシスが何と言っていたのか聞き取れなかったので、失礼とは思いつつも聞いてみる。


「腹減ったから、昼飯を食おうぜ」


「……まだ正午にもなっていないぞ?」


 勉強部屋にあるボロボロな古めかしい時計を見る。……この時計も勇者が伝えた技術によって作られたものなのだろうか。そんなことを考えながら現在の時刻を確認した。


 短針が示していたのは11、長針が示していたのは4と5の間。つまり、現在は午前11時23分ほど。昼食をとる時間としては早い。


「もう少し我慢できないのか?」


「無理だ!」


 ――我慢ができないということなので、一足早く昼食をとることとなった。

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