第2話 対ステラの作戦会議

「今回の試合は審判がいませんので、判断基準は曖昧になるかもしれませんが……私に木剣が少しでも掠ったら私の負け、というルールにしましょう」


 ……ステラに木剣が少しでも掠れば僕たちの勝ち。だが、その勝敗の基準はティグリスと全く同じだ。余裕があるのが見て取れる。油断しなくても勝てない、と思わず考えてしまうほど、ステラは堂々としていた。


 僕の隣では、ソルデウスが眉をひそめている。何か不安なのだろうか?


 ……僕自身はソルデウスと比べると大分弱いので、この試合はソルデウスを主軸に置かないと勝機はないと言っても過言ではない。なので、ソルデウスが自信をもって戦ってくれないと困る。


 まあ、他人任せのような考えだが、本当に僕は弱いのだ。なにせ、数ヶ月前は碌に身体を動かせなかったからな。……この世界に来てからはなぜか簡単に動かせたが。


「では、試合を始める前に、ソルとレイさんで作戦会議をして下さい。打ち合わせがないと、上手く立ち回りにくくなると思いますから」


 ソルデウスを「ソル」という愛称で呼んだことが気になったが、今は置いておこう。作戦会議をする時間をもらえたのだから、ありがたく活用させてもらう。


「あっちへ行くぞ」


 そう言って先導するソルデウスに着いていった。


 ステラから数十m、下手したら100mほど離れた位置で作戦会議をする。どうしてそんなに離れるのかというと、ステラとの距離が10、20mほどだと盗聴される恐れがあるらしいからだ。……中々に恐ろしい。


「ソルデウス、作戦はどうする?」


 ソルデウスはこう見えて作戦を立てて行動することが多い。要するに、脳筋ではないということだ。……こんなことを本人に言ったら厄介なことになるので言わない。


「これまでに戦ってきた経験上から気づいたことなんだが、ステラは基本的に後手に回る。だからこそ、裏をかいて先手、つまり開始早々に攻めてくるはずだ。そもそも、この試合は訓練の一環だから、ステラも本気を出さないだろう。初撃に対応してしまえば、こちらが有利に運べる可能性が――僅かにある」


 鋭い分析だな、と途中までは感心していたが、最後の言葉のせいでそんな気持ちは吹き飛んでいた。


「可能性が僅かだと?」


 そう、手加減したステラの初撃に対応できても、こちら側が不利になる可能性が高いと言っているのだ。それなら一体どうすればよいのだろう。


 僕はステラの戦いの様子をよく見ていたわけではないので、分析が困難だ。


「ステラは初撃を入れた後の俺らの様子で行動を変えるんだ。俺らが上手く対応できたら受けに回り、崩れたら攻めを続けて仕留めにくる。それも、途中から立ち回りを変化させるから流石の俺でも行動パターンが掴めない。毎回変わるんだよ……」


 そういうことか。そもそも僕たちが初撃に上手く対応できるかわからないから、有利に運ぶことができず、崩れてしまう。僕は対応しきれる自信がないので、ここも不利な要素になっているだろう。


「僕たちが先手に回ったらいけないのか?」


 これまでは、僕たちが後手、つまり先手を取られてしまった(先手に回れなかった)場合の話。なら、先手に回ることができれば行動は変わってくるはずだ。


「そうすることは悪手、というかできねえ。ステラは速度が半端ないんだよ。距離にもよるが、下手したら俺らが行動しようとした時には接近されてそのまま攻められる。よくても、俺らが仕掛けようとした時に、って感じだ」


 これは……攻撃パターンが決まっており、必ず後手に回るティグリスよりも厄介なのでは?


「さらにな、厄介なことにステラは反撃カウンターが上手く、多用してくる。ここが叔父さんと大きく違う点だ。叔父さんも反撃カウンターが得意だが、使ってないからな」


 反撃カウンターの多用とは困ったな。中途半端な攻撃だと簡単に返される。だから追撃も難しく、攻めていたつもりがいつの間に受けに回っていることもあるかもしれない。


「結局、俺らが受けに回ると崩されて終わる未来しか見えねえから、序盤は受けで、機転を利かせて攻めに回るのが得策……だと思う」


 ――こんな感じで、僕たちの作戦会議は幕を閉じた。


   ***


「それでは、位置について下さい。私が上空に投げた石が地面に接触したら開始です。……それっ」


 ステラが石を上空に投げると、高く飛んでいく。この調子だと、落ちるまでに少し時間がかかりそうだ。



 そして、数秒後に石が落ち、地面に接触。――試合開始だ。

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