閑話Ⅳ 雨夜の星は美しい

 現在は寒夜月かんやづき(11月)の終わり頃。既にレイがこの村にやって来てから1ヶ月以上が経った。


「家にはいない……ってことは、あそこしかないな」


 陽がまだ昇っていない時間帯に、誰かを探す素振りを見せるソルデウス。弟たちが起きないように慎重に行動したため、家の中を探すのに時間がかかってしまった。また、この家は村長宅というだけあって広い。それも時間がかかった要因の一つだろう。


 そんな家の中を捜索し終わったので、ソルデウスは家の外に出ていつもの訓練場所の反対方向に向かう。


 歩いて5分ほど経つと、川のせせらぎが聞こえてきた。目的地まではそう遠くないようである。


 林の中を抜けると小川が見えた。美しく透き通った水が流れている。その水は気温の影響があってか、とても冷たいので触れるのはやめた方がいい。勿論、飲むのは論外だ。


「そろそろだな……」


 それから2分ほど川沿いを歩き、奥へ進んでいく。すると、ソルデウスは川を飛び越え、川の奥にある森へと入っていった。……なお、小川なので簡単に飛び越えられる。


 更に1分ほど進むと、開けた場所に到着した。そこで見たものは――美少女が、一人佇んでいる姿。


 語彙力が吹き飛んでしまうくらいの筆舌し難い美しさ。圧倒的存在感を放つ者がそこにいた。その少女は普段のおとなしい姿からは想像ができないほど、輝いている。


 ウェーブのかかったロングヘアは金色に輝いており、広大な蒼穹を連想させるような淡い青の瞳は、あの小川よりも透き通っていた。


「おはよう、ステラ」


 ソルデウスはその少女――ステラの姿に見惚れるわけでもなく、平常心を保って挨拶をした。普段から接しているので、今更という感じなのだろう。


「……おはよう、ございます」


 ソルデウスの挨拶に対する返事は大体がこんな風だ。少しだけ間が空き、小さいが透き通った柔らかい声で挨拶を返す。


「こんな早朝に悪いんだが――いつもの、頼めるか?」


「いいですよ。いつものことですし」


 二人は挨拶を交わした後に、そんなやりとりをしながら木剣を取り出した。そして、両者とも木剣を構える。


 この状況でやることと言ったら一つしかないだろう。――そう、模擬戦だ。


 二人の模擬戦を見たことがない人は、「一方的な試合になってしまう」と言うだろう。また、見たことがある人も「一方的な試合になる」と言う。


 だが、それぞれは指す人物が異なっている。この試合で優位なのは――実は、ステラの方なのだ。


 大抵の初見の人はソルデウスが優位だと思うが、見たことのある人はステラが優位だとわかっている。


 そして、これだけは言おうと思う。……ソルデウスが弱いのではなく、ステラが強いだけなのだ。


 それはさておき、両者は試合開始からは動かずに視線を交わし合っていた。そんな状態が数十秒続くと、一方が仕掛けた。ソルデウスがステラのいる場所に向かって一直線に駆け抜ける。それは目を見張るような速度だったが、ステラには通用せず、簡単に躱されてしまう。しかも、横へ滑らかに避けた際、ソルデウスが木剣を握っている箇所を目に留まらぬ速度で突いた。


 見事な反撃カウンターが決まってしまい、木剣を手放してしまうソルデウス。しかし、すぐに木剣を拾って立ち直そうとした。


 だが、ステラはソルデウスを超える速度であっという間に、飛ばされた木剣を上空に送って反撃の灯火を消し去る。


 それから流れる水のような動きでソルデウスの喉に木剣を突きつけた。


「ありがとうございました」


 この一連は、試合開始から僅か10秒にも満たなかった。ちなみに、最後の「ありがとうございました」は試合終了の合図でもある。


「くっ、今回も負けたか……」


 同年齢の、それも異性女子に負けたという事実に悔しそうに顔を歪ませるソルデウス。


 今回の敗北で通算1800連敗ほどだろうか。それでも、悔しいものは悔しいようだ。




 隠れているが、実はとても明るく輝いている少女、それがステラ。彼女の実力は、未だに片鱗しか覗かせていない――




――――――――――――――――――


 次回の『閑話Ⅴ 勇気ある者』は木曜日、または金曜日に更新する予定です。

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