第30話 甦る記憶、震える少年

『14歳の少女とその少女を助けようとした16歳の少年が車に轢かれて死亡』


 西暦2018年の12月14日の朝。レイは新聞を読み進めていると、そんな記事が目に入った。


 どうやら昨日、つまり金曜日の午後に起こった事故のようである。下校時刻に起きた痛ましい事故……らしいが読んでいて何も思うことはなかった。


「事故が起きた場所はこの病院の近辺か。気づかなかったな」


 レイは昨日、その時間帯に寝ていたから気づかなかったのだろう。それでなければ流石に気づく……はずだ。


 それほどまでに事故が起きた場所はこの病院から近かった。何せ、この病室の窓から見える場所なのだから。


 それはさておき、新聞を読み終わったレイは、机に置いてある本を手に持って読み始めた。


 ……当時は13歳だったレイは、毎日の朝をこのように過ごしていた。


   ◇


 今日という一日が始まる朝。窓からは爽やかな朝日が――差し込んでくるはずがなかった。窓にはカーテンが掛かっているからだ。


 ……カーテンが掛かっているとはいえ、完全に光を遮断することはできない。なのにこの暗さなのはきっと空が雲に覆われているためだろう。



 朝食をとり終わるとアル村長と一緒に、学習をするための部屋に向かう。ちなみにソルデウスは一緒ではない。ソルデウスは自室で勉学にいそしむようだ。


 ……まだこの家に来てから数日しか経っていないのに、この生活にも割と慣れてきた感じがする。


 そんなことを思いつつ、無言のまま部屋に入る。これから午後になるまでずっと言語の学習をするので、集中力を乱してはならない。


 こうして、僕の多忙な一日が本格的に始まった。



   ***



 面倒くさい。俺は勉強をする度にそう思う。頭を使うよりも身体からだを動かす方が断然好きだから、勉強をする時間は楽しく思うことができなかった。


 将来のために必要なことをしているというのを理解しているからこそ、俺は勉強を何とか頑張ることができている。そうでなければ一日中外で運動や鍛錬をしているはずだ。


 それでも、勉強が好きになることはない。勉強をしている今も、運動や鍛錬をしたい気持ちが頭をよぎっている時点で、好きになるどころか集中すらできていないからな。そんな未来勉強が好きになることは永劫訪れないだろう。



 そんなこんなで勉強をする時間が終わりを迎えようとしていた。視線を手元から離し、別の所を見ていると昨日受けたテスト用紙が視界に入った。


 すると、昨日のテスト用紙が返却された時の記憶がよみがえってきた。……テストの結果が少しヤバかったことが。


 だが、弁明はさせてもらおう。俺はただの脳筋だと思われたくないからな!


 昨日のテストは俺の苦手な学科が多かったのと、難易度が高めだったため、テストの点数があのようになってしまったのだ。それでなければあのような点数はとらない。


 政治学が38点で法学が47点、地理学が44点に薬学が39点、工学は41点。この結果を見たときの親父の顔はヤバかった。いつも俺のことを転がして愉しんでいる叔父さんとは違ったヤバさを感じたのだ。


 あれは「少し話がある。こっちへ来なさい」と言わんばかりの表情だった。まあ、そうは言われなかったけどな。


 流石の俺でもあの顔は恐怖を感じる。震えているのが察知されないように気をつけた。今も思い出すと身体が少し震えてくる。次回はあんな風にならないように頑張らなければ……!



 ――ちなみに、今回のテストは各50点満点だ。100点満点だと思ったか? 100点満点であの点数だったら俺は逃げるぞ。本気で。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る