閑話Ⅲ ゼロは離れ、再び交わる

 この話は複雑……だと思うので、今は・・深く考えずに頭を空っぽにして読むことを推奨します。


※ 今回は布石のようなものなので、ストーリーが進むにつれてこの話の内容が理解できるようになっています。


――――――――――――――――――


 白一色の空間に、その場に似合わない……というより異質と言える漆黒の椅子が2つ、向き合って置いてある。その片方の椅子には、椅子と同じ色の髪以外はレイと瓜二つの容姿をした少年が座っていた。


 一方で、もう片方の椅子の方には、紅い眼以外は容姿がレイと瓜二つの少年が座らずに立っている。


「「……」」


 前者は心ここにあらずといった様子で虚空を見つめ、後者はそんな少年を睨みつけているのが現在の状況だ。


「なあ、お前が俺を呼んだんだから早く話を進めろよ」


 銀髪の少年は警戒心や嫌悪感やらを微塵も隠さずに告げる。


「……すまない。ヴェルガ――」


「その名で俺を呼ぶな。俺のことはゼロと呼べ」


 食い気味にそう言った銀髪の少年――もとい、ゼロ。


「承知した。……ゼロ、君が名乗ったのなら、私も名乗った方が良いか?」


「お前の名なんかに興味はねぇよ。そんな無駄話すんなら早く話を進めやがれ、愚図が」


 ゼロは早く話を進めたがっているようだが、向かいにいる男は何を考えているのかさっぱりわからない。


「……私の名は存在しないのだが、此度はゼーレと名乗っておくとしよう」


 先ほどのゼロの発言をスルーし、男はゼーレと名乗った。


「だから、お前の名なんかに興味は微塵もねぇし、話を早く進めろって言ってんだろうが。お前の顔についている耳は何なんだ? 機能が無いのか? ただの飾りなのか?」


 ゼロは再び吐き捨てるように言う。


 冷静さを欠いた状態のゼロと、対照的に沈着しているゼーレ。ゼロの煽りに対して全く反応を見せていないその胆力は、一抹の恐ろしさすら感じられる……ような気がする。


「私が君を呼んだ理由だが、現在我々が置かれている状況を伝えたかったのが一つ。もう一つは、単純に君と話してみたかったからだ」


 そうゼーレが発言すると、言葉の応酬が途切れた。


(コイツは一体何がしたいんだ? 思考が全く読めない……)


 ゼロは内心で舌を巻きつつも、その様子を一切表に出さずに余裕のある表情を浮かべ続ける。そうしなければ、相手のペースに呑まれてしまう恐れがあるから。


「……お前は……敵なのか?」


 そんな緊迫とした中、思わず口から漏れてしまった一言。それは、先ほど煽り散らかしたばかりのゼーレの耳に捉えられてしまう。 


「私は君の敵であるつもりは全くない。むしろ友好的に接しようと思っている」


「……はあ? 何をほざいてるんだよ。俺とお前が友好的に接することができるわけがあるか? あるわけねぇだろ、たわけ」


 やられた。このままだと相手に主導権が全て渡ってしまう。そんな僅かな焦りを自覚しながらも、強気の姿勢を貫こうとする。


「我々の関係は一先ひとまず置いておくとしよう。今優先すべきはハーディールのことだ」


 ハーディール、その単語を聞いた瞬間、ゼロは嫌悪感を更に滲ませた……苦虫を噛み潰したような顔になる。


「お前……器のことについて、知っているのか……?」


 だが、嫌悪感を滲ませつつも、これだけは訊くしかなかった。


「私が言っているハーディールは、Disディス-initiumイニティウム-finisフィーニス- 0ゼロのことだ。奴ではないから安心したまえ。あと、君の質問に対してだが、『知っている』というのが答えだ」


 律儀なのか、質問に答えるゼーレ。先ほどの発言スルーのことを加味すれば律儀とは言い難いが。


「そういう問題じゃねぇ。俺としてはその名ハーディールが出てくるだけで不愉快極まりないんだよ。……まあ、被害者じゃないお前が理解できるわけがないのは承知しているけどな」


「……私は……奴の被害者だぞ?」


 そう言ったゼーレの表情もまた、堪えきれない憎しみが込められていた。


「何だと……? なら、今までの行動はどういうことだ!」


 その場からゼーレの間合いに飛び込み、胸倉を掴んだゼロ。それでもなお、ゼーレは動じない。


「それは『分離セパラティオ・エト・統合インテグラティオ』を発動させた君ならわかるはずだ。私という存在がいかにいびつで、ハーディール……Dis-initium-finis-0との共通点が幾つもあるのを」


「くっ……」


 ゼロは言い返すことができなかった。心の奥底ではわかっていたのだ。目の前にいる存在の歪さも、存在させられているという事実の哀しさも。


「このことは君にわからないと思うが、私はこの状態を保つので精一杯なんだよ」


「なに?」


「『分離セパラティオ・エト・統合インテグラティオ』のおかげで一時的に離れさせることができたものの、内側の彼らが離れたわけではないからね」


 ゼーレの口調が変化しているのは、その影響なのだろうか。


「僕はね、この苦しみから解放されたいだけなんだ。奴らは本来なら還るはずだった僕らを無理やり縛りつけているんだよ? 私たちはここにいていい存在ではないというのに。私たちはもう、一度終わっているのだ。なのに……」


「……」


 再び苦しそうに顔を歪めるゼーレを見つめるゼロだが、何かを言うことはなかった。……否、できなかった。


 かつて、似たような存在を幾らか見たことがあり、全員が奴の毒牙にかけられた者で、その点では自身と共通しているから。だからこそ、発言するのは憚られたのだ。


 そんなことを思ったからなのか、、初めは抱いていた嫌悪感やらも既に消え去っている。


「……私はこんな状況だが、Dis-initium-finis-0はそうではない。これが、量産型と完全体……奴らの最高傑作であり、最大の欠陥品でもある存在と、私のような失敗作とも言えるような存在との違いだ」


 少しの沈黙が流れたが、再び口を開いたゼーレ。彼の一言一句には、名状しがたい重みがあった。


「器……最高傑作を使った奴らの計画を阻止したいというのが、お前の望みなのか……?」


「……君からそんな発言が出てくるということは、君もそれを望んでいるということなのかい?」


 これまでとは違った重苦しい雰囲気が蔓延しているが、なぜか澄んだ感じもする。そのことを不思議に思いながらも、重たい口を動かした。


「『君も』と言っているということは、お前もそうなんだな」


 それにゼーレも応じる。


「俺とお前の望みは、同じということでいいよな?」


 二人の視線が交差する。そして、段々と二人は近づいていき、お互いの手と手を握り合った。


 ――こうして、離れたゼロは、再び交わることとなる。


   *


 二人が手を握り合ってから数十秒後、白一色の空間は徐々に端から漆黒に染め上がっていく。


「俺が今の状態でいられるのは短い。だけど、私たちの意志は消えない。僕たちは無理やり存在させられているからね」


 そんな中、ゼーレはそう言い残して空間から去っていった。


「絶対に、叶えてみせる。器は……俺のものだ」


 ゼロ――レイ・ヴェルガリアも同様、そう言って空間から去っていく。漆黒に染め上げられた空間には、二つの椅子だけが残っていた。




――――――――――――――――――


 次回は本編に戻ります。なんと、いよいよ第二章も大詰め。残り1、2話ほどでエピローグに辿り着く予定です。

 また、今回は情報を多めに詰め込んだ結果、重い感じになったので次回は箸休め回になる予定でもあります。さて、ラストスパートを走り抜けて行きますか!

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