第23話 霧の向こうに
……視えたものについては置いておこう。今は歩かなければ……とは言っても、
……そういえば、この霧があると妙に頭が冴えたり、思考に耽る気がする。なぜか変な方向に思考が向かってしまって困るのだが……。
そう思いながら色みのない道を歩いていると、男の頭が目に入った。
あれ? 髪の色がおかしいぞ?
前に見た時は白一色だったはずなのに、現在は白と黒が半々に分かれている。つまり、髪の色が変わったということ。
それを理解した途端、酷い寒気がした。単純な寒さから感じる寒気ではない。僕の根本に響くような、謎の寒気だ。
咄嗟に思考を断ち切ると、その寒気は治った。だが、それからも不可解な現象は続いた。
ぼやけて見えたり、視界が白や黒に染まったりなどの現象が度々発生し、時間が経つにつれ発生する現象が大きな規模になっていく。
そして、恐れていたものがやってきてしまった。急に視界がぼやけ始めると、意識が薄れてきたのだ。
やばい……意識が、遠のいていく……。
***
「あなたは本当に……復讐を果たしたいの? 真実を知ってしまっても! 届くはずがないと分かっていても!」
サファイアのように碧く澄んだ瞳が銀髪の少年を
「その目は……諦めるつもりがないようね」
彼女は少年の目を見て、彼の決意と覚悟を悟る。だが、彼女は引かない。大切な人を、失うわけにはいかないから。
「……あなたの実力は分かってる。それでも、天界の王――
「天王を
少年は背を向けて去っていく。白銀の髪を揺らしながら「待って!」と言って追いかけてくる少女を無視して。
***
「目が覚めたか」
意識が戻ってきたその時、聞こえたのは僕にそっくりな声だった。……そんなことよりも、頭が痛い。
頭痛がするのはおそらく、視てしまったからだろう。あれは相当負荷がかかるようだ。
「意識が戻ったんだろう? 俺の話を聴いてくれ。時間が無いんだ」
再び僕によく似た声が聞こえてくる。僕は起き上がって、その声が聞こえた方を向いた。
僕の視線の先にいるのは――僕と酷似している少年だった。違うところを見つけるのが難しいくらい似ている。ただ、深淵を覗いているような深い紅の瞳だけが僕と違う。ちなみに、僕の瞳は淡い蒼だ。
双子と言われても納得できるくらい似ている少年が、僕の前に立っている。
……って、何で色彩があるんだ!?
少年の瞳は紅い。そう、紅いのだ。つまり、色彩があるということ。また、肌も色彩がある。とはいえ、雪のように白い肌、と言える色だが。
気になるのはそれだけでない。今いる場所のことやあの男のことも気になる。
あの男は消えた上、ここは意識を失う前にいた場所ではないのだ。ここは霧も無く、見渡す限り墓が広がっている。
墓は数えるのが億劫になるほどあり、誰のものかは分からない。……分からないのは、文字が読めないからなのだがな。
……それはさておき、話って何だ?
「その反応は聞いているということでいいんだよな? ……時間が無いから手短に話すぞ」
前置きはいいから早く行ってくれ。
「俺は俺でお前はお前。だが、俺はお前でお前は俺だ」
「……」
この少年は何を言っているんだ?
初めは当たり前のことを言われたが、その後が謎である。この少年が僕で僕がこの少年ってどういうことなのだろう?
「そして!俺とアイツ、お前とアイツは違う。つまり、アイツはレイじゃない。『レイ』は俺とお前だけだ」
訳が分からない。少年は一体何を伝えようとしているのか。
「……ちっ、もう時間か……」
少年がそう呟くと、たちまち濃い霧が立ち込めた。その濃さは、数十cm先しか見えないほど。
「次に会う時は更に――」
声はそこで途絶え、霧があっという間に晴れる。そこにいたはずの少年の姿はなかった。
それを認識した時には僕の視界が白に染まり、再び意識が遠のいていった――
***
「流石に……これは、きついな……」
地面に伏せて動かなくなったはずのレイが起き上がった。だが、その姿は既に
それでも、立ち上がったことに少女は動揺を隠せない。
「信じられないわ……。どうして立ち上がれるのよ……」
少女は自身の切り札が破られたことが信じられないようだ。まあ、それも当然だろう。今までで破られたことなど一度もないのだから。
「これからは奪い、喰らう時間だ!」
少年と少女は再びぶつかり合う。
この時、未だに月白の狐は氷の塔を回り続けていた――
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