第14話 世界の歴史

 しばらく続いた沈黙は唐突に終わりを迎えた。


「なあ、親父。始末対象ターゲットについて教えてくれ」


 なんと、顔面蒼白だったソルデウスが復活したのだ。


「ああ、初めからそうするつもりだった」


 そのつもりだったなら沈黙しないで話してほしかった。まあ、僕も黙っていたので人のことを言える立場ではないが。


始末対象ターゲットについて語るのに重要なのは、一つの歴史と逸話だ」


「歴史と逸話ですか? それが始末対象ターゲットにどう関わっているのでしょう?」


 気になったので質問してみる。普通は1人の人物について語るときに歴史や逸話なんてものは必要ないからな。


「それは話し終えた頃にはおのずと分かってくるはずだ」


 話し終えた頃に分かる? ますます謎が深まったな。


「では話していこう。この歴史は非常に有名なもので、試験にも出るだろうからしっかりと聴いて覚えるように」


 そう言ってアル村長は一つの歴史を語り始めた。


   ===


 現在から約1万年前、世界の1割は「魔王」と呼ばれる魔界の王によって支配されていた。その魔王には信頼できる8人の部下――「八枢魔将はっすうましょう」がおり、八枢魔将は魔王に絶対の忠誠を誓っていた。


 八枢魔将は魔王の指示に従い、魔族の大軍をひきいて次々と人族や亜人族、ついには精霊族の土地を奪っていった。その侵攻は約40年続き、時代の終わり頃には世界の7割が支配されていた。これまでの40年間を「起源時代きげんじたい」と言う。


 起源時代が終わり、新たな時代が幕を開ける。魔族の侵攻が落ち着いたことにより、人族たちも行動を起こすことができるようになった。最初に行われたのは「三種族同盟」の制定。三種族同盟とは、元々仲が良好ではなかった人族、亜人族、精霊族の3つの種族が結んだ同盟のことを言う。その同盟の目的は魔族に支配された土地を取り戻すこと。同盟が制定されてから数ヶ月経った時に再び魔族の侵攻が行われたが、三種族同盟が協力して撃退。八枢魔将の一柱を討ち取る大きな戦果を上げた。しかし、三種族同盟の損害も小さいとは言えなかった。この戦争で人族は八枢魔将の一柱と相討ちになった剣聖エーヴァーテルを、亜人族は三種族同盟総指揮官の獣王ガルシアを、精霊族は火を司る大精霊イフリートを失った。この戦争のことを「虚飾戦争きょしょくせんそう」、三種族同盟が制定される少し前からその戦争が終わる時代を「種族同盟時代しゅぞくどうめいじだい」と言う。


 種族同盟時代が終わり、また新たな時代が幕を開けた。重要人物を失った三種族同盟軍に対して魔族軍は猛攻を続け、土地を更に略奪していく。また、高位魔族や八枢魔将の一柱は天界にも進出していった。一方、魔族の天界進出により侵攻が落ち着いた三種族同盟は天界にいる天使族とも同盟を結び、協力する方針を立てた。天界に向かう使者は、激戦に巻き込まれて死者になる者もいた。それでも歩みを止めずに進み続けた使者達。遂に、天界の王に「同盟を結ぼう」という提案を持ちかけ、それを承諾させることに成功。その情報を国に持ち帰った。この同盟を「天地連盟てんちれんめい」、天地同盟が制定する前から行われていた戦争を「天魔戦争てんませんそう」、天魔戦争が終了してから数ヶ月ほど経って人族の王が変わった頃を区切りにした時代を「天翔時代てんしょうじだい」と言う。


 天翔時代が終わると、人族は異界の地から勇者一行を召喚した。勿論これには理由がある。人族が天地連盟に加盟している種族の中で最弱であり、あまり役に立つことができなかったからだ。召喚された勇者一行は略奪された土地を次々と取り戻していき、八枢魔将を三柱も討ち取った。支配されている土地が3割に減ってもなお、勇者一行は戦い続け、4年後には天界にいる八枢魔将を除いた全柱を討ち取り、世界を魔族から開放した。その勢いで天界に侵攻していた魔族と八枢魔将を討ち取ると、勇者一行は魔界に進出する。魔界でも活躍を続け、進出してから5年後には遂に魔王すらも討ち取った。この一連の流れを「勇者之道ブレイブロード」、勇者之道ブレイブロードが終わってから数ヶ月後の勇者召喚記念日を区切りとした時代を「終幕時代」と言う。


 終幕時代が終わった後、天地連盟は解散した。しかし、加盟していた四種族は交流を続けて良好な関係を築いていく。一方、生き残った魔族は猛烈な差別を受ける。過激な者は、「魔族は根絶すべき」という主張をした。結局、魔族が根絶することはなかったが、魔族を差別する風潮は現在でも残っている。


   ===


 アル村長は世界の歴史を語り終え、「質問はないか」と僕たちに尋ねた。


「……この歴史が始末対象ターゲットに関係があることとすれば、魔族の差別くらいですが、流石に魔族というだけで始末にはならないですよね?」


 一応魔族である僕はそう思った。魔族というだけで始末されるのだったら、僕も始末対象になってしまう。


「いい質問だな。勿論この歴史だけが関係しているわけではない上、今から語る逸話の方が関連性が高い。なのにこの歴史を聞かせた理由は、基礎を作るためにある」


「基礎……ですか?」


「ああ。この基礎を理解していないと分からない逸話だからな」


 世界の歴史を理解していないと分からない逸話……一体どのような物なのだろう?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る