第13話 機密説明会

「じゃあ早速情報を公開していくよ……あ、これは機密情報だから絶対に漏らさないでね」


 お前はその機密情報を漏らしているけどいいのか?


 そう思ったが、口に出すのは野暮なので黙っておいた。


「試験は闇の日と光の日の2日間で行われるもので、僅かでも試験時間に遅れた者は即失格になるから、時間には厳重注意しなければならないんだ」


 闇の日と光の日はあの世界にいた頃の休日と同じようなもの……らしい。この世界には「火の日・水の日・風の日・土の日・闇の日・光の日」と呼ばれる6つの曜日みたいなものがある。

 光の日が終わると火の日になる……といった具合に曜日(?)は繰り返される。その1周が1週間で、それが5周すると1ヶ月が終了したことになる。つまり、1週間は6日、1ヶ月は30日だ。そして、1日は24時間で1年は12ヶ月。これもあの世界と同じだな。


 ……このことはソルデウスが教えてくれた。「こんなことも知らないのかよ。仕方ねぇな。俺が教えてやる」と上から目線だったが、普通にありがたい。


「今年度の試験は昨年以降よりも難易度が数段跳ね上がった過酷なものだよ。現時点での入学志願者が1529人、募集定員は100人だから、倍率は15.29倍と非常に高く、合格するのは困難だよ」


 入学志願者が1529人って多いな。王立だからなのか人気が高く、合格するのは難しい。それは倍率で考えるとよく分かる。


 現時点で倍率が15.29倍……簡単に考えると15人中1人が合格するということか。


 これは相当難易度が高い。任務云々は置いておいて、普通に試験に落ちそうだ。そうなっては本末転倒なので、なんとか合格しなければならない。

 「学園に入学できませんでした。これでは任務が遂行できないので私は去りますね」と言ったとき、僕の命があるのか分からないし。


「確実に始末対象ターゲットはこの試験に受かって入学するから、君達には死に物狂いで入学してもらわければならないんだ。だけど、今の君達では合格できる可能性が低い。試験内容の一つには劈開水晶へきかいすいしょうの破壊もあるしね」


 劈開水晶? 聞いたことがないな。


「今の俺では試験で不合格になる、ということは悔しいが一理あるな。俺は未に劈開水晶を破壊できたことがない」


 僕は劈開水晶について尋ねようとしたが、ソルデウスの発言の方が早かった。


 ……劈開水晶のことは置いておこう。


「君達はまだ実力が足りないから、僕が本気で指導するよ。だから強くなってもらうからね!」


「ティグリスが武術担当なら、私は学術担当だな。勿論私も本気を出すぞ」


 どうやら、ティグリスが武術を、アル村長が学術を指導してくれるらしい。


 そのことを聞いて、なぜか隣に座っているソルデウスか顔を真っ青にさせていた。


「嘘だろ……。死ぬかもしれないのに本気の指導なんて受けたくねぇ……」


 隣から不穏な言葉が聞こえてきたが、聞こえなかったことにした。


「早速今日から……と言いたいところだけど、今日は用事があるから明日から稽古を始めるね。じゃあ、またね〜」


 立ち上がり、扉に向かうティグリス。


「おい、ティグリス。勝手に話を終わらせるな。まだ試験の内容を聞いてない」


 しかし、アル村長に阻まれてしまい、扉の外に出ることはできなかったようだ。


「あ、忘れてた……。じゃあ、話したら今日の機密説明会は終わりにしよう。僕は早く行かないといけないから……」


「まあ、いいだろう。だが、ディグリスが去った後も説明会は続けるがな。まだ始末対象ターゲットの話をしていない」


「分かったよ。じゃあ、試験内容について教えるね」


 再び椅子に座るティグリスとアル村長。一方、ソルデウスは虚ろな目をしながらぶつぶつと何かを呟いていた。


 ソルデウスのことは放っておこう。僕は試験内容を聞かなければならない。


「試験は「座学」と「実技」の大きな2つに分かれていることは例年通りだけど、実技の試験が今までとは難易度が桁違いなんだ。代表なのは制限時間内で魔物を一定数討伐しなければならない、という試験かな」


 僕には座学も難易度が高いと思う。歴史とか分からないし、そもそも文字が読めない。


 食事中に本の表紙が目に入ったのだが、書いてある文字が全く読めなかった。


「恩恵を授かってから1週間しか経っていない状態で魔物との実戦は危険すぎる。特に今年は双子の第八王子殿下と第五王女殿下もいるんだぞ……」


「詳しい試験内容を決める会議で決まったことだから、覆すことはできないよ。僕も反対したんだけどね……。流石に第三王子殿下の提案を取り下げることは厳しくてできなかった」


 小さい声で呟き合っているため、何を言っているのか聞こえない。


「とにかく、その試験が最難関ってことだけ分かればいいよ。あと、座学の試験は例年よりも少し難易度が上がってるくらいだからそんなに気にしなくても大丈夫だよ」


 ティグリスがこちらにそう言ってきた。僕は分かったが、ソルデウスは分かってないのではないか? 顔を見れば分かる。聞こえていない顔だ。


「これで試験内容の話は終わり。僕は急がないといけないから……」


 ティグリスはそう言うと、あっという間に去っていく。


 これで執務室にいるのは険しい顔をしたアル村長と、ヤバい顔をしているソルデウス、無表情の僕だけになった。


 それからしばらくの間、沈黙が続いた――

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