第6話 取引
僕はソルデウスと名乗った少年と目が合った。すると、ソルデウスがこちらを睨んできた。
負けじと俺も睨み返す。
「「……」」
それからしばしの沈黙が訪れた。
「名乗りも終わったことだし、早速本題に入ろう!」
その場の何とも言えない雰囲気を無理矢理変えようとしたのか、それとも単に本題とやらに入りたかっただけなのか分からないが、ティグリスがそう発言したことにより睨み合いの応酬は終わった。
「ふんっ! まだ俺はお前のことを認めてはいないからな!」
その直後にソルデウスが負け惜しみ(?)のような言葉を放ち、家の奥に行ってしまう。
「あらら、行っちゃったか……。まあいいや! 別にいなくても話は進むしね」
いなくてもいいのかよ! ……だったら何で俺に会わせたんだ?
「ソルデウスのことは置いておいて、話をはじめるよ。ほら、レイ君。こっちに来て……おっと、歩くのが難しいことを忘れていたよ」
未だに玄関の外で荷車に乗っている僕を見てわざとらしく言う。その言葉に俺はカチンときた。
「いいえ、私はもう歩けますよっ……」
全身が痛むのを我慢して荷車を降りる。ティグリスと会った時より痛みが三分の一以下に和らいでいたため、行動できるようになったのだ。
僕はふらふらとした足取りで玄関に向かう。その時だった、
「ぐあっ!」
くっ! 何、だ、この、痛み、は……!?
一際鋭い痛みが胸の辺りに襲いかかってきた。僕はその痛みに耐えることができたが、その代償に体勢を崩し、地面に向かって倒れこんでいく。……それも顔面から。
「危ないっ!」
頭部に大きな衝撃が走り、意識を失う……ということにはならなかった。
ぼすっ
そんな気が抜けたような音が聞こえ、頭部には軽い衝撃が発生した。
「大丈夫かい?」
倒れ込んだ僕を救ったのはしなやかな大きな腕。そう、ティグリスだったのである。
*
その後、無事に村長宅に入ることができた。
「ティグリスさん、ありがとうございます」
「別にこんなことで感謝しなくてもいいよ」
そんなやり取りをしている中、コツ、コツという音を出しながら歩くアル村長。
家の床は木でできており、
「ティグリスはこの
アル村長はテーブルの
「りょーかいっ!」
アル村長が指した椅子は背もたれも含めて木でできており、脚には翼のようなものがある何かが描かれていた。また、椅子のシートには革のような物が使われたクッションがある。
「レイ君はこの椅子に座ってくれ」
「分かりました」
アル村長に言われた通りの椅子に座るティグリスと僕。当然、僕はティグリスに支えてもらいながら座った。
僕が座っている椅子は、ほとんどがティグリスが座っている椅子と同じだが、描かれている絵だけは異なっていた。この椅子の脚には2本の角のようなものが生えている何かが描かれている。位置はティグリスと反対側だ。
アル村長は僕達を一瞥すると、ティグリスの横の椅子に座る。
それから5秒ほど目を瞑ると、こちらを見つめ、口を開いた。
「単刀直入に言う。レイ君、私と取引をしよう」
「はい?」
その言葉は、僕にとって想定外のものだった。
「取引内容は単純さ。僕らはレイ君の怪我を治せる回復薬を用意する、レイ君は僕らの要求を呑む、これだけだよ」
この話を聞いたとき、誰しもが
なぜなら、回復薬の代償に求めているのは「ティグリスとアル村長の要求を呑む」ということだからだ。
これの恐ろしいところは、「要求」にある。ティグリスは何の「要求」かを述べていない。つまり、後に無茶な要求をされる可能性があるのだ。例えば、「奴隷になれ」など(奴隷があるのかは分からないが)である。
こんな胡散臭い取引は即蹴るべき。僕はそれを実行に移すべく、口を開こうとした。
「断り「おっと、レイ君。君に断るという選択肢はないんだよ」――」
ティグリスに話を言い切る前に遮られてしまう。
「君が断った場合には――そのまま村の外に追い出す」
追い出す……だと……。
……動けないまま外に放置されたら日焼けなどで甚大な被害が出てしまう。また、水や食料不足にも陥って最悪死に至るだろう。
くっ! この手は卑怯と言わざるを得ないが、非常に強力で有効な一手だ。
このまま取引内容を呑んでしまう方が良さそうだな……とはいえ、条件を付けるつもりだが。
「分かりました……。ですが、条件があります」
「条件? 滅茶苦茶なやつじゃなかったらいいよ」
先ほどからティグリスが話を仕切っているのに疑問を抱くが、それどころではない。
「条件は1つだけ……「要求」が何なのかを教えてくれることです」
「いいよ。ただし、内容を聞いてから逃げるのは無しね。まあ、逃げれる身体ではなさそうだけどね」
ふぅ……。「要求」が何なのか分かるだけで大分気持ちが楽になるな。
「その件については私が話そう。ティグリスは下がれ」
「分かったよ。兄さん」
これからはアル村長が話してくれるらしい。
「君に呑んでほしい要求は――」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます