第76話 その日は確かにやって来る

 クラブ 子鶴があった青野ビルが新築ビルに生まれ変わった。入居したのは青い実というキャバクラであった。健治が洋子に「キャバレーの客層が若くなったのは、いいことだけど、それは景気がいいときだけで後が怖い。景気が悪くなったときは若い人はきっと、キャバクラのような店に行くだろう」と言った通リ、キャバレーに来る若い人は日を追う毎に減っていった。もうバブル景気は終わっていたのだ。


 熱に浮かされたように買いまくった土地も建物も、一気に値下がりして、莫大な借金を抱える人が続出した。一時はハワイのホテルを10軒も買って、世界第三位の大富豪と言われた東麻布の自動車販売店の社長は、一夜にして借金王となった。

 一時は億の単位で取引されていたゴルフ会員権は、あっという間に百万円代にまで値下がりした。


「どうして値上がり確実な土地を売ってしまったんだ。もっと儲けられたのにどうしてくれるんだ、責任をとれ!」と倫太郎を攻め立てた甚弥と順子も、「社長、流石ですね。あの土地がこんなに値下がりしてしまうのを見抜いていたのですね」と、ガラリと態度を豹変させた。


 高弁に至っては「だから俺は借家に住んで、豪邸を買わなかったんだ」と堂々とのたまった。「何を言ってんのよ高弁ちゃん、嘘を言ったって分かるんだからね、あんたに金を貸してくれる銀行がなかっただけでしょ」と、汐未に言われそうだ。


 だが健治が言った通リ、青い実のようなキャバクラと、洋子とフイッシャーズのメンバーが、かって出演していたこともある ディスコ「シャンデリー」には、若い人たちが殺到した。


 これは末広町だけでなく、全国的な現象であった。東京ではバブルが崩壊した年に

 芝浦に「ジュリアナ東京」がオープンして、お立ち台でボディコンのギャルたちが、扇子を持って踊っていた。

 麻布十番では「マハラジャ」に入る客が行列を作って並んでいた。

 80年代に一度閉店した六本木の「キサナドゥ」も、バブル崩壊後に復活している。

 バブルが崩壊して景気が悪くなったと思っても、一方ではこのような事が起きていた。

 これが商売というものだ、と言えばそれまでだが、麟の目グループは着実に末広町の本店の他、キャバレーとはちょっとタイプが違う、チャイナサロン香港、クラブ紫と、立て続けにオープンさせ、末広町に4店の麟の目グループ店ができあがった。


すすき野にも末広町と同じように、旗艦店のクラブエスカイアとはタイプがちがい、キャバクラのような、ツゥルークラブ、月の世界、クラブ雪の精、クラブ橘、と続々とオープンさせて、8店を数えるまでになっていた。これらの店ができたのはいずれもバブル崩壊後のことなので、不動産とか、絵とか、ゴルフ会員権なんかを買って、大損した人と正反対のことが起きていた。

 だが、所詮は水商売。いつ何が起きるか分からない。静かにそして確実に、末広町に終焉の日が迫っていた。

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