第4話 エナになったモモの告白

 私はモモではなくエナである。

 あの日、あの時、私は洞窟で消えた。

 なぜ、消えたか。

 何が私を消したか。

 それを今からあなたがたに伝える。


 私はあの日、みんなと洞窟に行った。

 何のためか。

 殺すためである。


 入り口の隙間を塞いでしまえば、みんなは外に出ることは出来ない。

 大人も見つけることは出来ない。


 私は、あの村を憎んでいた。


 モモとK子が空き地に残り、コウタたちが地底湖に向かった時、私は三郎の後を付いていくフリをして、通路のすぐ横の窪みに潜んだ。

 しばらくしたら入り口に一人で行き、隙間を塞ぐ。

 そうするつもりだった。

 だがモモに見つかってしまった。

 モモは私を見て、どうしてそんなところにいるのか、そこで何をしているのか、と聞いてきた。

 私は暗闇の中でジッとしていた。

 私はエナではない。

 この洞窟にわだかまる黒いものなのだ。

 モモの目を覗き込みながら、私はそう考えていた。

 

 その時、隣りの通路から黒い影が飛び出てきて、モモに襲いかかった。

 モモはすさまじい悲鳴を上げた。

 私は今でも確信しているが、もしK子がいなかったら、あの影は確実にモモを殺していただろう。モモを殺したあと、他の子供たちも殺したはずだ。


 影はK子がいることに気付いたからか、素早く殺意を消し、俺だよ、三郎だよ、と言っていた。


 そのあと、モモとK子は入り口に戻り、三郎を名乗る者は地底湖に引き返した。

 私は闇の中で一人になった。 

   

 みんなが集合すれば、今まで私はどこにいたのか? そう聞かれるだろう。

 どうすればいいだろう。

 みんなを閉じ込めることが出来なくなった以上、素知らぬふりをして「今まで隠れていた」と言えばいいだろうか。


 私は闇の中で思った。

 私がこのまま隠れていたら、誰か気付いてくれるのではないか。

 誰か探しに来てくれるのではないだろうか。


 その考えは、私をとりこにした。

 誰かが私のことを思い出し、見つけ出して、こんなところにいたのか、探した、心配したぞと言う。

 その瞬間のことを考えると、すべてのことが赦せる。そう思った。


 だから私は、コウタたちも隙間を抜けて空き地に戻る姿を見送ったあと、一人で地底湖に行った。

 地底湖で誰かが、私を探しに来るのを待った。

 

 しかし、誰も来なかった。

 誰も来なかった。

 電灯が消えそうになったたため、私は空き地に戻った。

 しかし、いくら探しても隙間が見つからない。

 ここにあるはずだと思う場所は、硬い岩で塞がれていた。


 


 しばらくして電灯も消え、辺りは真っ暗に、真っ暗になった。

 私は狂ったように壁を探して回り、助けを求め叫び続けた。


 私は出口を求めて岩をかき、渇きと飢えで苦しみながら死んだ。死んだ。


 私は死んで消えた。


 だが、疑問は残る。疑問が残る。

 なぜ、彼らは私を探しに来なかったのか。

 なぜ、彼らは私がいないことに疑問を持たなかったのか。


 私が死んでも消えても、洞窟に立ち入ることを禁じても、この疑問だけはあの暗い場所に残り続けるだろう。


 なぜ。

 なぜ、お前らは。

 あの洞窟を塞いだのだ。


 お前たちは。

 私がいることをのに。


(モモが気絶する)

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