噛み傷
散々迷った末に、私は、彼の葬式へと向かうことにした。 葬儀に参加し、彼を弔うことで、暗い過去を忘れて生きていこう。
そう自分に言い聞かせながら.......
式場に着くと、彼の母親がいた。 あまり顔を合わせたことはなかったが、顔はよく覚えている、なぜなら顔が、[彼]ソックリなのだから。
きちんと覚悟してはきたが、あまり長く見たい顔では無い。
そんなことを考えていると、彼の母親がマイクを持ち、参加者に挨拶を始めた。
「本日はお忙しい中、わざわざお越しいただき誠にありがとうございます」
彼女の挨拶は続いていく。
自分の息子の死にかなりショックを受けたのだろう、彼の死から少し時間の経った今でも、目元が少し腫れていて、声も震えて、今にも泣き出しそうだ。
[彼]は一人っ子で、それはそれは可愛がられて育てられていたみたいで、特に母とは仲がよく、休みの日には、よく2人でいっしょに出かけていたらしい。
私やクラスメイトは、そのことを「マザコン」だの「幼稚園児みたい」などと言ってからかっていたことを覚えている。
こうして実際に息子のことを大切に想っていた母親の姿を見て、私は心を傷ませる。
「これは自殺じゃない、殺人だ。
オマエがオレを殺したんだ」
聞こえるはずのない声が聞こえる。
あの笑顔が頭によぎる。
違う。 そう否定することは私にはもうできない。
無事に葬儀も終わり、彼の母親と少し話をした。
最後まで息子と友達で居てくれてありがとう
彼女は話の最後にそう言い残して去って行った。
彼の牙が残した噛み傷は、今も私の心を蝕み続ける。
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