メタフィクション実験世界

ポロポロ五月雨

第1話メタoフィクwaraショseンte


ある時、中世風ファンタジー世界の住人たちの頭に突如として流れ込んだのは「ここがストーリーの中である」という確かな実感であった。それは抗いようのないもので瞬く間に人々を絶望、虚無、唖然、あるいはある種の啓蒙的なハッピーに駆り立てた。

何故ある時、突如そんなことになったのか。それは誰にも何時までも分からないし、知る必要もない。ただそういうネタだっただけである。


2011年11月15日 メインキャラクター狩り発生から6日後

『主人公容疑者Mの日記』

 あれから6日経った。あの最悪な『お知らせ』が来てから全てがゴミで滅茶苦茶だ。

人が狂っちまうのは、気付いちゃいけないことに気付いちまったときだ。あぁクソだ、もう奴らがそこにまで来てる。ドアを叩いてる、今。駄目だダメ、こんなことになるなら、探偵なんてやるんじゃなかった。ゴミクズが、全部上手くいってた、11月に入るその時まで、俺は世界一の名探偵で、助手と共に数多くの難事件を解き明かしてきた。だけどそれが駄目だった。飛ぶ鳥を落とす勢いで、まさにミステリー小説の主人公だった。だから今こうなってる。

奴らは物語を終わらせようとしている。ストーリーから解放されたがってる。それには主人公を殺しちまうのが一番だ。メインキャラクターがいなくなれば、物語は回らない。役者のいない劇は無い。ああぁ今、鍵が壊れた。助手は殺された。細やかな視点を持っていて、俺にさえ気付けないこともスンナリ見つけた。とぼけた奴で、事件の鍵をひょいひょい持ってくることもあった。アイツのおかげで、いや今となってはアイツのせいで俺は難事件を解きまくった。そんなアイツは死んだ。サブキャラクターでさえ、生きていればアンソロジーが始まる可能性があるだとか、もう奴らは正気じゃない。

階段を上がって来る音がする。最後に、1つだけ もし仮に俺が本当に主人公だったときのために念のためここに。親愛なる読者諸君へ告ぐ

『ご愛読ありがとうございました。次回作には期待するな』



2021年7月某日 夏。ハッピーエンド協会集落にて

「おぅい、クズマン」

「…」

「へへっ、相も変わらず冷たいね」

「…煙草、隣じゃ吸わないで」

「はッ、喋ったと思ったら小言かよ。ヤダねぇ、副流煙ったって紙のシミにしかなんねぇよ」

「…」

「この世界が壊れてもう10年だ。あれから色んなことがあって、その度に派閥が出来た。未だにメインキャラクター狩りしてる奴らもいりゃ、逆に神格化しておこぼれ貰おうとしてる奴ら。実はとっくに主人公は死んでて物語は既に終わってるとする奴ら。あるいは俺たちみてぇに主人公を立てようとしてる奴ら」

「あくまで目指すのはハッピーエンド。メインキャラ狩りしてバットエンドになったらその後の世界の責任は誰がとる?エンディングってのは物語の固着だ。バットエンドがエンドロール後にハッピーエンドになる可能性は極めて稀。だからといって神格化もダメだ、そもそも肝心のキャラが見つからん」

「もう終わってる説は…?」

「さぁね、でも考えうる限りでそれが一番絶望的だ。なにせ」

「いや待て」

「?」

「何で俺は急に、今までのことを話し始めたんだ?まるで序盤のチュートリアルだ。世界観の説明、概要。こんなことお前だって分かってるはずなのに」

「…」

「どうやら終わってはないみたいね」



2017年11月1日 魔王出現、声明を発表

午後2時頃、世界中の国町村の映像機器が突如としてハイジャックされる。数分間の砂嵐の後映像が流れる

「描写さえされぬ太陽が照る午後、皆さんいかがお過ごしか」

映像ではマントを羽織り、顔は不明瞭な男性が玉座に腰を下ろしている

「我は魔王。本来この物語のラスボスとなるはずだった、闇の帝王である」

男性は咳払いをした後、足を組み深く息をつく

「結論から言おう。我はこれより世界に対して宣戦布告する。各国、我が軍門に下るか抗うかは自由だ。しかし抗う者達には相応の裁きが待っている。よく考えよ、そして従う国は3日後までに城の城壁に大きな赤いバツを描け、よいな」

6秒間沈黙後、映像が切り替わる。映像では村が焼かれる様子と逃げ惑う人々が流れる

「ハッハッハ!フッーッハッハ!!」

男性の笑い声と思われるものが数秒間流れ、映像は停止された



2017年11月4日 魔王出現、声明を発表

午後2時頃、世界中の国町村の映像機器が突如としてハイジャックされる。数分間の砂嵐の後映像が流れる

「モブの皆さん、ご機嫌はいかがかね」

前回と同じようにして男性が座っている。相変わらず顔は不明瞭である

「約束の日は来た。今や多くの国が我が手中に収まった。しかし、どうやら我が意に背いた愚かな国が一国だけあるらしい」

映像が切り替わる。北の国スノースが映る

「…愚かな国だ、猶予は与えたつもりだったが」

男性が深く息を吐く音が聞こえる。その後4秒沈黙

「我の言うことは絶対だ。愚かな人間どもに今、罰を…」

映像のスノースに子供が映る

「え」

男性の動揺した声が聞こえる

「どッ、は、話が違っ」

これ以降男性の声は聞こえなくなる。映像ではスノースが爆撃され、燃え尽きる様子が流れている



2018年5月28日 魔王討伐隊結成、魔王城の位置を特定。しかし討伐隊は壊滅

2018年6~8月某日 勇者を名乗る人物が南の国サウスウサに現れる

2018年12月18日 勇者、メインキャラクター狩り残党に敗れる

2019年2月10日 南の国サウスウサ、魔王軍に襲撃を受ける。国の半分が焼失

2020年4月頃 サウスウサ襲撃に使われた弾丸がハッピーエンド協会の物と一致。しかし後日デマだと判明、デマを流したとされる出版社は解体



某年某月某日 とある森の奥地

『あるメインキャラクター狩りの遺書』

なぜ今回俺がこんなことをしてしまったのか、同士諸君には伝えておかねばなるまい。なにも最近噂に聞く死ねば読み手の世界に行ける、なんて馬鹿げた妄想を信じた訳じゃない。俺が信じたのはもっと信憑性の高い妄想だ。そう、伝道師から聞いた『オムニバス説』の話だ。

例え主人公を殺したとしても生き残っている人間たちの中から主人公は選ばれ続ける。俺たちが思っているほど主人公って役割は重要じゃない。替えが効くフレキシブルな、流動性の高い役割だって説。この世界をベースとして短い話が淡々と繰り返されている可能性。もしこれが事実なら、俺たちのやってきたメインキャラクター狩りは全くの無意味だ。なにせ殺した瞬間に主人公の役が他人に移るんだから、ストーリーは自分含めた全ての人間、いや全ての主人公になりえる動植物さえ殺し切らないと終わらない。もしそれが出来てストーリーが終わったとして、エンディング後の世界は真っさらだ。ちょうど文を書く前の原稿用紙みたいにな。そう思った瞬間、俺の中で何かが切れたんだ。

お前らを残して死ぬこと、それだけが辛い。1人逃げておいて何様だと思われるだろうが、本当だ。例えここが物語の世界で、全部作り物の嘘っぱちだったとしてもだ。ありがとう、お前らと過ごした日々は確かに現実だった。

願わくば、俺のこの思いが決して、安っぽい文章で描写などされませんように。



2013年11月1日 伝道師会第一次真理報告会の議事録

日時:2013年11月1日10時00分~19時00分

場所:王立権威図書館 第2ホール

出席者(特例につき全員役職のみ提示):議長、副議長、幹部3名A、B、C(計5名)

・議事内容

議題:この世界の媒体、形式について

議長「まず媒体について、挙げられるものとして『小説』『漫画』『アニメーション』『ゲーム』あるいは『ドラマ』。『長編』なのか『短編』なのか『プロ』が作ったものか『素人』が作ったものか

幹部A「待ってください。我々は所詮ストーリー上の生物にすぎません、全ての創作者に敬意を払うべきです。『素人』という言い方は」

幹部B「今はいいでしょう。それよりそもそも媒体を決める必要なんてありますか?この世界が既にゴールの決められたストーリーである以上、もっと先に議論すべきことが」

副議長「いや『ゲーム』ならマルチエンディングの可能性もあるだろう」

幹部C「確かにマルチエンディングなら未来は変えられますな」

幹部A「しかし変えられるのは主人公だけです。それにマルチエンディングはバッドエンドに行く可能性もある。」

議長「まだ『ゲーム』と決まったわけではない」

幹部C「確かに、まだ他の可能性もありますな」

副議長「しかし他の可能性と言ったって、あまりにも情報が少ない」

幹部C「確かに」

幹部A「『アニメーション』か『ドラマ』ではないですか。現に我々は今こうして動いていますし、声も発している」

幹部C「いやそれは我々の主観であって、あくまで読み手からすれば文章として現わされている可能性もあるだろ。声に至ってはカギカッコやフキダシで簡単に文字に起こせるしな」

幹部B「なんなんだアンタ」



2011年11月28日 メインキャラクター狩り発生から19日後

『主人公容疑者Rの音声メッセージ』

『あー、テステス、マイクテスマイクテス。アーハーハー、ははっ。あーあー、喋ってないとな。へへっ、落ち着かねぇやなぁ。ははは。畜生め、なーにが主人公狩りだい。ただの有名人狩りじゃねぇか、ボケが。酒、あー酒。俺だってなぁ、努力したから3つ星シェフになれたんだ、あぁ?才能だけ、運だけ、補正だらけのな、主人公なんかと同じにすんじゃねぇよ。頑張ったんだ。頑張ったんだよ俺は。まぁ外のゴミクズ共が、それを聞いたって、「はいわかりました」とは言わねぇだろうがなぁ』

『皆の頭に、この世界がストーリーで二次元だって流れ込んできたとき。皆絶望してたさ、頭を抱えて、虚無感に殴られて、レストランの予約も全ブッチよ。まぁそりゃそうだわな。俺たちが感じてる味も匂いも感動も、平面だ。ペラペラだ、ははは。けど、けどな。居たんだよ、喜んでる奴らも』

『奴らは外面では怒ってた、でも違ぇ。俺も色んな奴らを見てきたからわかる。内心では喜んでたのさ。今までに何もしてこなかった、出来なかった。そんな自分への肯定。脇役ならしょうがない。脇役だったからしょうがない。そして同時に、今まで見上げてた奴らをぶっ殺せる。そんな大義名分を得た。そりゃ愉快でしたでしょうね、へへへ』

『あぁ、よし、そろそろ効いてきたな。よしよし、俺の人生最後は自分の燻製だ。あぁ眠ぃ、へへ。あんな奴らによ、やられてたまるかってんだ。なぁ?そうだろ、読者さんよ。読んでるんだろ?今。なにせ世紀の大料理人の一世一代のフィナーレだからな。お涙なしには語れんぜ。はは、姿は見えねぇから、少し寂しいが。な、はは…あはは…寂し…いな、あぁ…誰…か』

(後日、部屋から容疑者Rの遺体が見つかった。傍らには容疑者が3つ星を取ったときの写真が丸まって落ちていた)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

メタフィクション実験世界 ポロポロ五月雨 @PURUPURUCHAGAMA

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る