第10話 好きにしたら
ステータス。
それは地球上にダンジョンが現れてから、人類が可視化できる様になった能力値の事。
個性や得意・不得意で、同じレベルでもその能力値は各々違っている。
攻撃・防御・速度・運、それに
職業によって項目が変わったりもするけれど、ダンジョンに潜る探索者のステータスはそんな感じ。
これらの総称が、ステータスと呼ばれている。
能力値はダンジョンに棲むモンスターを倒したり、何かを経験したり、カードによって得られる経験値で、レベルを上げる事ができる。
総合レベルは数字で表示され、能力値はカードと同じランク表示。Fが最弱でSSSが最強。
総合のレベル限界は、今のところ誰も確認できていない。俺の知っている最高値で、確かレベル201。動画で見た記憶がある。
確かアメリカにいる人だったはず。
俺のレベルは、だいぶ前に確認した時には39だった。初心者・初級者から抜け出した、中級者レベル。
中々上がらないレベルに、変わらない強さにうんざりしてからは、全く確認していない。
意味がないと思ったから。
ステータスを調べるには、お金がかかるってのもあったから。
今とあの頃を比べてもレベルが上がっている感覚はしていないから、上がっていたとしても前回調べた時と大差はないだろう。
中級者レベルは相変わらず、抜け出せていないと思う。
その頃からだろうか。
いつの間にか何事も、本気で臨まなくなってしまったのわ。
ガチャでは良いのが出るかなと期待はするが、どうせダメだろうと考えて精神的ダメージを負わないように、心を最初から自分で折って挑んでいたり。
ダンジョンでは新発見や新種なんて見つからず、真新しい誰も見た事のない発見なんかできなくて。レベルも上がり難くなって、中々強くなれないから。行った事のあるダンジョンを繰り返し攻略して、毎日を無難に惰性で過ごす様になっていた。
ガチャが好きなのも、ダンジョンが好きなのも。何かあるのではと、何かないかと、ワクワクしていたからだ。
それは変わっていないと思ったけど。
俺はいつの間にか、自分には特別な事なんて何もないと。何もかもを知らず知らずに諦めてしまっていたのか。
家に帰ってきた俺達は、俺は。布団の横を少し片付けて空いたスペースで、横になってSSSランクのカードを眺めながら、今迄の自分を振り返っていた。
布団には名前も知らない彼女が、夜になったので眠りについている。
見つけたカードは使用者のステータス、速度を、SSSランクに向上させる事ができる。と、書いてある。
俺が使ってしまっても良いのだろうか。
彼女には。
『見つけたのは貴方なんだから、貴方の好きにしたら良いんじゃない?』
そう言われた。
ダンジョンで手に入れたモノの所有権は、手に入れた人のモノだ。
それは解っているけれど、俺は使う事を躊躇っていた。
世界中でSSSランクのカードが見つかったのは、これで二枚目。
発表すれば、歴史的な大発見として取り上げられるだろう。
50年前。当時の世界はSSランクのカードが、最高のランクだと思っていた。
それ以上のランクのカードはダンジョンが出来てからずっと、一度たりとも見つかっていなかったから。
そんな世の中に。
突如。ポツン、と。イタリアのダンジョン内にSSSランクのカードは落ちていたらしい。
発見者によると。落とし物か?と思って拾ったら、SSSランクのカードで驚愕したとか教科書に載っていた。
偽物かどうか、おもしろ半分で誰かが作ったのではないかとか、様々な噂が流れたようだが。
カードをカードの効果以外で偽造・模造をした場合、死ぬ事件が多数起きていて。天罰を受けるという話は始まりの年の頃からの、有名な話。
結果。それは本物だと世界で認定され、これまでの常識を覆す事になった。
発見者はそれを売り飛ばし、大金を手に入れて優雅な人生を過ごし。それを手に入れた人はカードを使用して、ダンジョン攻略をさらに進展させたとのこと。
それからはずっと、誰も、SSSランクのカードを見つける事ができていない。
それが今、自分の目の前にある。
俺は自問自答する。
売り飛ばして金に換えるか?
金は、必要な分だけあれば良い。金があれば山程のレアカードが買えるけれど、SSSランクのカードは買えない。
有名になりたいか?
はっきり言って、なりたくない。目立つのは嫌いだ。教科書とかに載ったりして、自分の写真がもそこに掲載されているのを想像すると嫌過ぎる。
発表するか?
それをするなら、カードは売り飛ばすしかない。記者や野次馬、大富豪や泥棒が押しかけてくるのは嫌だ。争いは神様に禁止されているから襲われる事はないだろうけど、隙を狙って奪おうとしてくる奴は絶対出てくる。持ってても、売っても、誹謗中傷も避けられない。
それならいっそ、誰にも内緒で使ってしまうか?
それが一番無難だろう。けれど、絶対。ステータスがSSSになったら、問題は起こると思う。隠し通せないと思う。
それに……。
真剣に世の中の為に、誰かの為に、ダンジョン攻略をしている人の事を考えると。俺が使ってしまうのは気が引けてしまう。
どうするか、どうしようか。
堂々巡り。
何時までも。ウジウジと考えているのは、悩んでいるのは、俺の性分じゃない。面倒くさい自分自身が、とてつもなく嫌になる。
「あーっ!」
答えの出させない自分にイライラし、頭を掻きむしる。
そんな時。ふと、彼女が言っていた言葉を強く思い出した。
『貴方の好きにしたら』
「俺の好きに……か」
SSSランクのカードを眺めながら考える。
俺の好きな様に。思う様に。心のままに。周囲の事なんて気にせず、自分自身の為に。どうするか。
夜が明ける頃、俺は一つの決意をした。
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