第60話 エピローグ
◆小鳥遊怜奈視点
あの日から、三ヶ月が過ぎた。
今日は、相馬さんの月命日だ。
相馬さんのお墓は、西洋風の墓地に建てられている。
日本的なお墓ではなく、個人のお墓だ。
日本では、大昔に農民を土地に縛るために、偉い人が墓の仕様を変えてしまったと聞いたことがある。
相馬さんのご両親の本音は、分からない。
何故、引き取らないのか……。住んでいたとはいえ、こんな遠方にお墓を建てるなんて……。
「私以外に、お墓参りする人もいないのは、寂しいな……」
相馬さんのクラスメイトと先生は、姿を見せなくなった。
怪我をしているのかもしれないし、移住してしまったのかもしれない。
私は……、なにも知らない。知らせてくれる人もいなかった。
そう思っていたら、相馬さんのお墓の前で誰かが立っていた。
その人と、視線が合う……。
「あの……、どちら様でしょうか?」
「失礼、スライム防衛隊の者です。やっと、心の整理がついて、ここに来られました」
持っていた、お花を折るほど、強く握ってしまった。
頭に血が上るのが分かった。
相馬さんをいい様に使って、死なせた人たちだ。
私は、相馬さんの死去以来、スライム防衛隊の病棟での応援を断り続けている。とても同じ空間にいられなかった。
「きゅ~!?」
――ポン、ポヨヨン
ここで、目を疑った。
「メタル……ちゃん?」
「あ、こら……」
メタルちゃんが、私の前に現れた。
「どうして……、あなたが?」
「才羽相馬君が、最後に私に託してくれて……、今は私が世話をしています。もっとも、助けられているのは、こちらなのですがね」
驚いてしまう。
メタルちゃんは、私の言うことなんて聞いてくれなかった。相馬さんの話のみ聞いていたと思う。
そっと、メタルちゃんに触れてみる。
「きゅぅ~~……」
「元気を出して欲しいのだそうです」
「あなたは……、メタルちゃんと意思疎通が出来るのですか?」
「……才羽君ほどじゃないですけどね。感情が読める――そんなとこでしょうか」
頭が冷えた。聞きたいことは、たくさんある。
「相馬さんは、どうして死ななければならなかったのですか?」
「……他の『覚醒者』を助けるため。それと、自身の寿命を悟っていたみたいです。それで、あんな遺言書を遺していたかと」
相馬さんの遺言は、自身の持ち物を全て私に譲渡することだった。
家だけでもない……。億を超える資金が、国から私に支払われた。
相馬さんの両親には、お金で家を買い取る形になってしまった。
口止め料とも取れるけど、私の知らないところで、どれだけの貢献をしていたのか……。
「あなたも『覚醒者』なのですか?」
「残念ながら、魔力は持っていません。そのメタルを唯一使役出来るだけです。才羽君の真似ですね」
この話を、信じていいのだろうか。
「才羽君は、とても貴重な存在でした。スライムと、意思疎通出来るなんてね。治療に専念して、研究者になれれば、歴史に名を刻めるほどの人材だったでしょう」
「あなたたちが! 危険な任務に就かせたのでしょうに!」
抑えられない。語気が、強くなってしまった。
分かっている。相馬さんが、自身で選んだ道だったんだ。
牧先生から、治療を拒否した話も聞いた。
こんなのは、八つ当たりだ。
「返す言葉もないです。市民を守らないといけないのに、守られていたのですからね」
「っ……」
「きゅぅ~~」
落ち着こう。
結果だけ見れば、私だけ得をした形なんだ。
嫉妬も受けている。
「……相馬さんの、最後を聞かせてください」
「……本当は、秘密なのですけどね。数匹のスライムが現れて、海に引きずり込もうとしました。私は、それを止めて、スライムたちを引き剥がしました。そして、メタルが伝えて来たんですよ。――死なせたくない……と」
「スライムが? 相馬さんを?」
「人族として、遺体は渡せないと伝えると、才羽君の体内から別なスライムが現れました。そして、スライムたちは海に消えました。才羽君は、体内でスライムを飼っていたのかもしれませんね」
思わず、口を押えてしまう。相馬さんは、そんなことをしていたの?
「ただし、メタルだけは残りました。そして、私に協力を仰いで来ました。他の『覚醒者』を助けるのが、才羽君の願いでもある……と。その後、才羽君の力の一端だけを受け継げました。今は、『覚醒者もどき』として、業務に当たっています。魔物使いならぬ、スライム使いですかね」
分かる……。嘘はついていない。相馬さんの、意思を継いでいるみたいだ。
体中の力が抜けた。
そんな私を見てか、メタルちゃんが、その人の元へ戻った。
「すいません。時間みたいです。私はこれで……」
「相馬さんは、最後に何か言っていましたか? いえ、最後の言葉を教えてください」
「貴女の名前を……」
涙が出てしまった。
止まったと思ったけど、今だに枯れない。
「素敵な看護師になって欲しいと……、メタルが言っています。才羽君は、人助けに喜びを感じていたのかもしれません。そんな貴女を尊敬していたのでしょうね」
正直、看護師の道を諦めようとも思っていた。田舎に帰ろうかと考えている。
この街は、居心地が悪くなってしまったからだ。
相馬さんに頂いたお金は、一生遊んで暮らせるだけの金額でもあった。
「……できるだけ、頑張ってみます」
なんだろう……。やっと、一歩を踏み出せる気がした。私の中のなにかが立ち上がろうとしている。
その後、その人は一礼して、相馬さんのお墓から去って行った。
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