第58話 ベヒーモス6

 スライム防衛隊は、大慌てみたいだ。

 交渉の内容は、ここからでは分からなかったけど、死者が出てしまった。

 武装していたとはいえ、民間人だ。テロ実行犯だけど。


 そして……。


「爆発物は、残っていますよね……」


 ――ドカン


 次の瞬間に、ベヒーモスが爆発四散した。

 最悪だな……。最悪の上ってなんて言うんだろう。


「才羽。呼ばれている」


 ここで、黛さんが来てくれた。


「他の五大モンスターは、どうなっていますか?」


「んっ。厳戒態勢。心配しなくていい」


 4人は大丈夫そうだ。

 歪んだ空間を抜けると、教室だった。

 牧先生が、頭を抱えている。

 それと黛さんは、残ってくれている。この後に、移動もありそうだ。


「どうします? 行きますか? 指示が欲しいです」


「……今はダメ。これから質量が大幅に増えるから。それと……、民間で観察している奴がいるね。『覚醒者』の情報が漏れそうなので、行くのは封鎖が終わってからだね」


「この一ヶ月間の僕の行動は、見られていないのですか?」


「それくらいの科学技術は、スライム防衛隊にもあるんだよ。高尾山から撮影されても、偽の映像しか映らないようになっているんだ。それよりも、ベヒーモスの細胞が散らばった方が、問題だね」


 偽の映像を見せる機械の稼働は、確認されている。

 専用のカメラと通信装置を持ち込まれたので、『覚醒者』が手出し出来なかったのだとか。テロの協力者は、今頃逮捕されていそうだ。


「……数人亡くなっていますけど、身元は分かっていますか? 遺体の回収は、無理そうですし」


「あんなザルな犯行声明だとね。10分かからなかったよ。実行犯の親や親戚は、迷惑だろうね。重罪だ……。資産差し押さえで、懲役だろうね。外部に協力者がいるみたいだけど、ここまでされたら逃がせないね」


 日本でのスライムを使った犯罪は、重罪だったな。身内にも被害が及ぶのか……。

 少なくとも、僕の弟と妹はいないと思う。まあ、中学生にあんな真似は出来ないか。


「それと……、スライムが人を食べました。僕が知っている中では、始めてです。この後の変化予測って、出来ていますか? 例のAIです」


「……人間の体にも炭素が含まれているだろう? スライムも飢えれば、油以外でも食べるんだよ。そして、人間は、油と水の塊だ。普通は、干からびるのを待つのだけど、動物に襲いかかった事例は報告されているよ。それと、植物に襲いかかったのが、雨会婆アメーバ島ね。変異種の中の、変異種だ。二体目が現れたら……、人類が滅びるかもね」


 言われてみればそうだ。

 スライムを追い詰めれば、そんな行動をも起こすんだな。


「人を襲わない安全な生物……。そんなのは、幻想か」





 その後は、テレビ画面を見ることしか、することがなかった。

 第五のモンスターは、黛さんが担当してくれている。


「元の倍くらいになりそうですね……。一年の予定だったけど、二年になりそうだ」


「……才羽の成果は、政府のお偉いさんにも届いているんだよ。政治家が言って来るのは、効率と利益だよ……。期間は、変えられないんだよ」


 迷惑な話だ。


「今からでも行って来ますか?」


「手負いの獣が、一番危ないんだよ……」


 質量が増えている。巻き込まれて、踏み潰されそうだ。スライム防衛隊もいる。焦ることはないか。

 倒す手順は確立されているんだし。



 その日は、僕だけ帰ることになった。

 4人は、引き続き厳戒態勢なんだとか。

 平屋で待っていると、怜奈さんが帰って来た。この空間だけは、変わらないで欲しいな……。


「ただいま戻りました」


「お帰りなさい」



 夕食時に言われた。


「ベヒーモスって、どうなっているんですか?」


 怜奈さんも心配しているんだな。


「テロの実行犯が、爆弾を爆発させて自殺しましたよね。その後、近寄らない方がいいんだそうです」


 ここまでは、民間にも流れている情報だ。


「その……、被害とか」


「まあ、拡大するでしょうね。研究者が対応中みたいです」


「相馬さんは、行かれないのですか?」


 嘘を言っても意味がないな。


「僕が中心となって、対応することになりそうです」


 怜奈さんは、驚いた表情を見せたけど、予想していたみたいだ。

 反論はして来なかった。


「……危なくは、ないのですよね?」


「危険は、少ないと思います。五大モンスターとか呼ばれていますけど、手を出さなければ一番安全ですし」


「手を……、出すのですよね」


 言い逃れは、出来ないな。


「……倒して来ます。一年くらいかかりそうですけど」


 怜奈さんは、小さく「そうですか」と、呟いた。

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