第57話 ベヒーモス5
毎日少しずつ、ベヒーモスを削って行く……。
初日は、1/10としたけど、今は1/100程度の質量を削る。
一気に削ると、ベヒーモスの悲鳴が、五月蠅いのだそうだ。
東京湾は使えなくなったけど、東京は機能している。
こんな巨大なモンスターの近くに住む人も、どうかと思う。
だけど実際のベヒーモスの行動と言えば、廃棄プラスチックを食べて泥炭地を広げるだけだった。
船で近づくことさえしなければ、安全は確保される。
「実際のところ、手を出さなければ、無害なモンスターなんだよな……」
それでも、移動を繰り返し、東京湾を埋めてしまったのだから、恨みのある人は多い。
海岸沿いを破壊しまくった罪過もある。
「才羽。今日はその辺で」
「はい、黛さん。帰りましょう」
初めて連れて来られてから、一ヵ月が過ぎた。
僕の〈崩壊〉の魔力は、ベヒーモスの〈再生〉を阻害した。
その有効性が、確認されている。
毎日、少しずつ――削って行く。
◇
「テロ……、ですか?」
「そっ……。今日は自習にするから」
朝、教室に着いたら、牧先生がいた。
テレビ画面を見る。
ベヒーモスの周囲にバリケードを築いている? ベヒーモスは、移動するんだけど、危なくない? あの質量に押し潰されたら、車なんて意味がない。つまり、逃げ道がなくない?
「……テロリストからの要求とか、ありますか?」
「スライムの独占を止めろだとさ。生産量を上げて、国民全員に配るように、要求しているよ」
アホ過ぎる。需要と供給を考えて今の生産量なんだろうし。
小学生に、スライムを食べさせてどうすんだ?
資金に変えることを認めたら、一気にインフレになるのが思いつかないのか?
犯人の犯行声明を見る。顔を隠しているけど、若い声だ。大学生くらいだな。
「スライムは、寿命を延ばさない……。身内にでも食べさせるつもりかな?」
「もう、身元は割れているんだってさ。裕福な家の大学生みたい。ただし親は、スライム事業関連ではないらしい」
身元が割れているのか……。終わりじゃない?
スライム防衛隊の装備なら、簡単に制圧出来そうだけどな……。
まあ、スライムには戦時特例法が、適用されている。
最悪、撃たれても文句は言えない。
「黛さんたちが見当たりませんけど……。現地にいますか?」
「他のスライム防衛隊の応援に行ったよ。第五は、今日だけは才羽に任せることになる」
「他の……、五大モンスターですかね?」
「そそっ。一応の警戒だね。同調する輩もいるとの判断だ。
他国が、スライム研究を打ち切った理由の一つだな。
『制御出来ない』と判断された島だ。
「政府のスライム方針に、異を唱える人もいるんですね……。特需で国中が、潤っているのに」
「何処にでもいるさ。不満なんて、作ろうと思えば、いくらでも作れる。まあ、五大モンスターに恨みを持つ奴も多いし。ベヒーモスは、攻撃すると質量が増えるっていう特徴も知られているしね。多分だけど、爆発物を持ち込んでいるんだろうね」
何処で折り合いをつけるかだな。
話をしていると、スライム防衛隊が迎えに来た。
僕は、街の中心にある駐屯地に移動なんだとか。まあ、僕がそこにいれば、最短で発生したモンスターに駆けつけられる。妥当な判断だよな。
それと、牧先生は別途やることがあるんだとか……。
◇
駐屯地で、ベヒーモスの特秘回線を見せて貰う。
「……動いているな」
「水を求めているのかもしれないね」
スライム防衛隊員が、答えてくれた。
「川の水を止めた?」
「いや、ベヒーモスは海水でも生きられる。テロリストが持ち込んだプラスチックが口に合わないのかもしれないね。そうなると、水に溶けた二酸化炭素を求めて移動すんだよ」
「海に逃げてくれれば、その方が良くありませんか?」
「……100年後に、大陸を飲み込むほどの大きさになったら? 監視できる今のう内に、情報を集めて倒しておいた方がいいらしい」
いろんな専門家の意見がありそうだ。その結果が今なんだろうな。
ベヒーモスを見る。
あんな、トラック数台分のプラスチックじゃ、時間稼ぎにならないぞ?
それでも、テロリスト側には、勝算があるのか?
テロリストが、交渉途中で銃を空に向けて撃った。徴発の意味なんだろうけど、かなり危ないな。
その一発が、ベヒーモスに当たった……。細胞が飛び散る。
「あっ……」
スライム防衛隊の動きは速かった。逆にテロリストは、何の反応も示していない。
ベヒーモスが、質量を増やし始めた。巨大化だな……。
――グシャ
ベヒモス近くにいたテロリストが、潰された。バリケードとしてた車も潰される。
そして……、見てしまった。
ベヒーモスが……、人を取り込んだ。
「食べ……た?」
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