第56話 ベヒーモス4

「いきなり実戦か……。まあ、検証するたびに、巨大化したモンスターだし、他に方法もないのは理解してるんだけど」


 今、僕の目の前にでっかいスライムがいる。ベヒーモスだ。

 決断から僅か数秒……。地方都市から東京湾だ。コンコルドもビックリの速度だよ。コンコルドは廃止? 今、最速の乗り物ってなんだろう?

 とりあえず、それよりも速いことは確かだ。

 便利な時代になったな~(棒)。


「才羽。速くして」


 後ろには、黛さんと牧先生がいる。まあ、〈転移〉させられたんだ。


「許可は、下りたんですか?」


 一応、聞いてみる。


「とりあえずさ、1/10でいいから試してみて」


 決断はしたけど、許可なしか……。いいのかな?

 ベヒーモスの体積の1/10を〈崩壊〉させるのか……。

 無許可なんだけど、本当にいいのかな? 政府が怒らない? 牧先生は、どれだけの発言力があるの?

 まあ、いいか。考えるだけ、時間の無駄だ。試してみようか。


 僕は、ベヒーモスに触れて魔力を注いで行った。


「……これくらいかな?」


 〈崩壊〉を発動させた。


「きゅうううう~~~~~~~~~!!」


 ベヒーモスが、悲鳴を上げ出した。

 耳を塞ぐ。

 黛さんが、すかさず僕たちを〈転移〉させてくれた。



「うう。耳が痛い」


 今は、ベヒーモスを遠くから見える場所にいる。

 観測所みたいだ。

 牧先生が、データを注意深く観測している。

 僕は、モニターに映ったベヒーモスを見た。


「苦しんでいますね……。スライムが、切られて苦しむ場面は初めて見ました」


 スライムは、人間に食べられる時に逃げたりしない。

 生きながら解体されても、反応がないんだ。痛覚を持っていないと考えられている。


「問題は、才羽の魔法が解けた後だよ。黛は、準備だけしておいて。場合によっては、再度行くから」


「んっ」


 牧先生が、注意を促して来る。その瞬間を見逃すなってことかな?

 1分くらいで、〈崩壊〉が止まった。

 その後、〈再生〉する気配がない……。変化なし?

 牧先生は、計測器の値を確認して、スライム防衛隊員と話を始めてしまった。

 だけど、全ての値が予測値内?

 そんな話をしている……。


「この後は、どうするんですか?」


「一週間後に期待だね。でも、最終的な判断は、これからだけど、これは行けそうだね。今までで一番期待出来そうだ」


 僕の魔力……、いや、相性の問題なのかもしれない。

 メタルは、ベヒーモスの天敵になりえるんだな。

 世界で唯一の存在なのかもしれない。僕は、メタルを撫でた。


「きゅっ?」





 一時間変化がなかったので、教室に戻って来た。


「「「お帰り~」」」


「よくやった、才羽! 先生は、嬉しいぞ」


 学校に戻って来た。

 牧先生に肩を掴まれて、胸に顔を押し付けられる。

 牧先生も、巨乳だな……。

 とりあえず、引き剥がす。

 それと、4人の視線が痛いです。この、女性が大半を占める環境……。

 八雲さんは、逃げたのかな?


「まだ、結果が出ていませんよね?」


「期待できそうだよ! そんな観測結果が出てた!」


 五大モンスターの討伐……。行けそうなのか。

 僕でもできることが見つかった気がする。それも、僕にしかできないことが……。


 ――ポタ


 ……また、鼻血が出た。

 ハンカチで、拭う。


「興奮……、したんじゃないよな?」


「ちょっと、疲れたのかもしれません」


「今日は、授業はいいからさ、休んでな。保健室に連絡しておく」


 一日の、魔法の使用回数……。気をつけよう。

 今日は、練習も含めて15回使用した。

 連続使用は、10回が限界。

 一日の上限は……、もう少し行けそうだけど、なるべく使わないに越したことなない。



 保健室で横になる。

 怜奈さんには、連絡を入れないで貰った。迎えに来て欲しくない。


「きゅぅ~」


 メタルが、擬態を解いた。

 僕の胸の上に乗る。

 そのメタルを触ると、手に噛みついて来た。吸血だな。


「ありがとう……、メタル。少し楽になったよ」


「きゅっ!」


 僕の病気は、どうすれば落ち着くのか……。一応、不治の病とは言われていた。

 完治の難しい病気だと。

 理屈は分からないけど、何故かスライムが症状を抑えてくれている。


「まだ、二ヵ月程度なんだよな……」


 残り、二年十ヶ月程度……。

 持つのかどうかも、分からない。牧先生の診断では、突然動けなくなる――だったし。


 眼を閉じて考える。



「遺言書でも作っておくかな」

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