第55話 ベヒーモス3

「モンスターの核は、魔力では破壊できないのですか?」


 これまでの常識を、教えて貰って驚いた。

 僕が出来たことは、世界初らしい。


「〈崩壊〉か……。言葉にすると簡単だが、これまでの問題を一気に片づけるとはね」


 話を聞くと、昔は、モンスターの核の処分方法で悩んでいたらしい。

 研究の結果、ある特定条件で変化が見られた。しかも制御できる方法で。

 それで、発電の可能性を見出して、設備投資をしたらしい。


 まあ、その話は置いておこう。


「時間をかけないと、モンスターの核は、処分出来なかった。それを、問答無用とはね……」


 マジですか……。


「一応説明しておきます。僕の銀色の魔力は、普通の物質を〈崩壊〉させます。モンスターに使うと〈無効化〉になります。回復系、消滅系、反射系を一時的に混乱させます。最後に、他の『覚醒者』が触れると〈強化〉になります」


「ふむ……。資料には、紫色の魔力もあるとあるが?」


「そちらは、〈固定〉になります。物質であれば、運動を停めます。空気ですら、固体程度には硬度が増します。それと、宙に浮いた状態での固定となりました。重力をも〈固定〉します。モンスターに使うと〈無効化〉になるのは、同じですね。ただし、他者に使っても効果が見いだせないでいます」


「要検討といったとこかな?」


「まあ、そうですね。検討中です」


 山本さんが考える……。

 正直、余計なことを言ったのかもしれない。


「才羽君が飼っている、スライムを見せてくれ」


「メタル」


「きゅっ」


 メタルを掌に乗せる。


「意思疎通が出来るのだね……」


「まあ、犬程度の知能だと思っています」


「犬猫に食べられた経験は、ないかな?」


「ないですね。小動物や昆虫のモンスターも現れません」


「了解した……。上に議題として挙げてみるよ」


「ありがとうございます」


 牧先生が、敬礼した。


「礼を言うのはこちらだ。良くぞ、才羽君を見出してくれた」





 帰り道で、聞いてみる。


「なにか、決まりました?」


「才羽が、東京湾に行くことかな……。年単位かけてもいいからさ、ベヒーモスの質量を減らせるのであれば、希望が見えるんだよ。五大モンスターを討伐出来たら、序列にも入れるだろうね」


 本当に、余計なことを言ったみたいだ。



 学校に帰って来ると、地下に移動となった。

 第五にも訓練場があったのか……。


「半分を射撃場にしているんですか?」


 第六は、広い体育館みたいだったけど、第五は、射撃場が半分を占めている。


「黛を筆頭として、全員遠距離型だからね。初期は酷かったんだよ。いくら撃っても当たらなかったからね」


 射撃の素人? まあそんなもんだろうな。

 ここで、3人が着替えて来た。


「それ……、弓道着ですか?」


「そだよ~」


「才羽! 言うことがあるだろう!」


 牧先生を見る。


「え~と、似合っています? 可愛いです?」


「「「む~」」」


 3人が白い目で見て来た。牧先生は、呆れ顔だ。


「才羽は、もうちょっと女心を学ぼうな」



 3人は、弓を射っている。

 僕は、牧先生に連れられて、実験だ。


「〈固定〉と〈崩壊〉を交互に繰り返すのですか?」


「そそ、まず回数が知りたい」


 とりあえず、空気の〈固定〉と、牧先生が持って来た石の〈崩壊〉だ。


「10回で、魔力切れだね……。少し休んだら、外に出ようか」


「はい……」


 外に出て、学校の畑に連れて行かれた。

 麦でも育てるのかな? そんな広さだ。

 今年は、使わないと聞いた。休耕地だな。


「地面を最大規模の範囲で、〈崩壊〉させてみて」


 全力か……。試したことがなかったな。

 左手を地面につけて、魔力を注いで行く……。


「牧先生……。この休耕地以上に広げられそうです」


「それならば、深さで試してみて。最大の体積が知りたい」


 ……これくらいかな。


 ――ドスン


 地面が揺れた。その後地面に亀裂が入る。

 牧先生は、魔力を感知出来るみたいだ。深さを理解しているんだろうな。

 これ危なくない? 黛さんに人の住んでいない場所に運んで貰って、試した方が良かったと思うんだけど。

 牧先生は、考えている。


「次はさ、空気の〈固定〉を行ってみて」


 言われるがまま、空気を〈固定〉する。

 その〈固定〉された空気の上に、牧先生が、土を乗せた。


「思った通りだね。才羽の魔法は、量には依存しない、回数タイプみたいだ」


 話を聞くと、そもそも魔力に量はないのだとか。

 体力とは違うんだな。魔力は物質じゃない。固定概念に、捕らわれていたみたいだ。


「どんなに小規模でも、10回で魔法が撃てなくなると……」


「そそ。代わりに大規模な範囲を指定しても、10回は続けられる。それと、最後にキャンセルをしてみようか」


 魔力を注いで、発動させない……。

 魔力が霧散したのが分かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る