第51話 メタルの実験の続き

 幸いにも、今日のモンスターの発生は少なかった。


 他の『覚醒者』も控えていて、対応出来たのだとか。

 問題は、日本のお偉いさんたちだな。

 Web会議に切り替えたのだとか。

 それと、電車と飛行機での移動にしたらしい。〈転移・転送〉は便利だよね。

 権力を振りかざして、乱用したんだろうな。


「『覚醒者』を、なんに使っていたんだか……」


 〈転移・転送〉を悪用されたら、日本が終わるぞ?

 貴金属や紙幣なんか、盗み放題なんだ。

 今回は、籠城だったけど、資金を持って世界中を逃げ回られたら、捕まえられないよね。


 黛さんは、3日で復帰した。

 当分の間は、牧先生が、スケジュール管理をするらしい。

 今までは、誰が管理してたの? あの無茶なスケジュールを組んでいたのは、誰ですか?





「ふう~。やっと解放されたね~」


 今日は、第四研究所にお邪魔している。

 僕に黛さんの機嫌取りは、出来そうになかったからだ。

 牧先生を含めた4人に任せよう。


 八雲さんは、研究がストップしていたらしい。

 バックアップ要員になるのかな?

 第一、第二、第三の『覚醒者』次第かもしれないけど。

 でも、他人の能力スキルを扱えるのは、羨ましいかもしれない。

 周囲によるんだろうけど、模倣コピーも便利かもしれない。

 八雲さんは、なにか知っているかな?


「黛さんは……、なにも望まないのですかね?」


 それとなく聞いてみる。


「僕らのレベルになるとね、欲しいモノはないね。恋人とか家庭を持ったら終わりかな。まあ、異性好きもいるけどね。現代で、漫画みたく、勇者生活はないかな。ハーレムを望むのは、お勧めしない。風俗の代金は、小銭に感じるしね。アイドルを所望した奴がいたけど……、実現しなかったね。それどころか、罰則を科されていた」


 王寺さんの例がありますものね。

 序列に入れたら、兆円単位の資産を持っていそうだな。

 隠れた、世界長者番付に入っていそうだ。税金の免除なんて、一番始めだろうし。


「黛さんの、男性遍歴は、分りますか?」


「少し擦れた性格だからね……ないと思う。しいて上げるなら、才羽君?」


 どうしようもないな。

 日本の危機は、去っていない。

 日本中の菓子職人に期待だな。



「メタル君なんだけど、君の血を吸うのだよね? 他の人は、興味なしなのかな?」


 研究の続きに戻った。


「どうですかね……。僕は持病を持っていて、それに対応するように変異して貰ったと思っているので」


 メタルを八雲さんに渡したけど、血を吸うことはなかった。興味を示さない。

 スライムの吸血行動は、知られていないらしい。

 食料が、プラスチックだしね。


「ふむ……。才羽君に、薬を投与しているのかもね。吸血ではなく、体細胞を投与が正しいのかもしれない」


「いくら、スライムでもそんなことが出来るんですか?」


「『スライムは、寿命を延ばさない』……って言葉は、どうやって調べたと思う?」


 話を聞くと、白血病患者がスライムを食べたことがあるらしい。

 血液の癌だな。

 若返って、骨髄の時間を巻き戻す――そんな考えだったらしい。


「結果として、骨髄の時間は巻き戻らなかった。時間と共に病気は、悪化して行ったんだ。肉体は若返ったけどね。だけど、不可思議な症状が観測された」


 なんだろう……。想像出来ない。


「体内に、スライムが住み着いていたんだ」


「え……?」


「モンスターの核だね。死後に発見された。その人は、『覚醒者』としての才能があったらしい。その中でも更に特別な人材だったのかもしれない――そんな結論だったよ」


能力スキルは、発現できていない?」


「うむ。末期症状だったからね。あるいは、発現していたかもしれない」


 僕の体内にも、モンスターの核がある。脳と心臓にだ。

 八雲さんは、ないんだな。

 ここは、とぼけるか。


「僕の体内にも、モンスターの核があって、他の『覚醒者』とは違うと? でも、メタルが僕の血を吸う理由には繋がらないかと」


「そうだよね……。ただの直感だ。僕の知る『特別な覚醒者』の一例だったって話なんだ」


 直感――ですか。当たっているから怖い。


「癌以外の末期患者には、スライムを与えていないのですか?」


「実例はあるよ。でもさ、余命1年の人が半年で亡くなっている。余命が延びる事例はなかったんだ。遺産手続きに使われるのが、多かったみたいだね」


 だから、『寿命は延びない』のか。僕は、余命宣告は受けていない。もしかしたら、親が知っているのかもしれないけど。

 死神は、僕の背後から離れてはいないんだな。





 メタルの観察実験を続けた。

 真水、経口補水液、海水、ミネラルウォーター……。メタルは区別なく体に取り込んだ。

 プラスチックも複数種類用意する。

 ポリエチレン、ポリプロピレン、……口が回りません。以下略。


「他のスライムと変わりないね」


 結論として、メタルは色だけが異なるみたいだ。

 ちなみに、知能を高めるスライムは見つかっているんだとか。厳重に管理していて、認められた『覚醒者』に配っているのだとか。そのスライムは、養殖も可能なんだな。僕は、当初そのスライムを食べたと思われていたらしい。



「才羽。帰るよ」


 ここで、黛さんが来た。


「ありがとうございます。黛さん」


「……本当に感謝している?」


「もちろんですよ。第五から第四になんて、往復で何時間かかるか」


 汗が止まりません。


「しばらくは、実験を中止した方がいいかな」


 僕が、第四に移籍できればいいんだけど、それは叶わない。


「メタル。帰るよ」


「きゅっ」


 ポンポンと跳ねて、メタルが僕の肩に乗った。

 黛さんが、メタルを見ている……。


「スライムと意思疎通している……」



 教室に戻って、言われた。

 これから数日間、黛さんがメタルを飼いたい……と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る