第46話 社会科見学
「八雲の奴。なんで教えてくれなかったのかね……」
消滅系と反射系は、第五のメンバーでは苦戦してたから、不満があるみたいだ。
「まあ、楓さん主体の作戦になりますしね。八雲さんの必勝戦法なんだと思います」
飛ばれない限りは、楓さんの有利は変わらないよね。
「そうじゃなくて、なんで才羽にだけ教えたのか!」
牧先生は、不満なようだ。
この後、直接八雲さんに文句を言っているし。
八雲さんは、「メタルの実験に付き合ってくれたお礼」と返して来た。
隠していたんじゃなくて、何時か伝える気でいたのかな?
命がかかっているのに、研究所間で諍いでもあるのかな……。
牧先生と八雲さんの関係なのかもしれない。
牧先生が、一方的にライバル視してるとも思える。
他の4人は、話し合いを始めている。
フォーメーションって言ってたな。
今更だけど。
学校に帰って来た。
簡単なレポートを書いて、今日は終わりだ。
だけど……、黛さんだけは、何処かに行ってしまった?
「うん? まゆっちは、24時間フル稼働だよ? 毎日、日本中を移動してんの」
「モンスター討伐以外にも、呼ばれているのですか?」
「そそ、便利過ぎる
沖縄から、北海道まで一瞬だもんね。指揮系統次第だけど、誰を運んでいるのか……。
黛さんが倒れたら、日本が麻痺しそうだな。
◇
数日間は、静かだった。
通常のモンスターの発生すらない。
牧先生の授業が続く。
正直、眠いな~。
「なぁ~。牧ぃ~。他の研究所に行こうぜ~」
焔さんからだった。でも、僕も賛成だな。こんな普通の授業では、僕たちには時間の無駄だ。
「う~ん。保健体育がいい? 才羽も加わったから、楽しいかも?」
「却下!」
なにをさせる気だよ。
4人の白けた視線が、僕を襲う。いや、学校でなにさせる気ですか?
黛さんだけがいないけど、同じ反応だろうな。
「ごほん。黛さんは、今なにをしているのですか?」
牧先生が、パソコンを操作し始めた。
スケジュール帳が、テレビ画面に映し出される。
「今は、アメリカ国防長官が来ているから、護衛だね。ニュースの時間になれば、映るかもね」
「他国の要人の護衛? なんの任務ですか?」
「まあ、あれだ。スライム関連以外でも引っ張りダコな訳よ」
「他国に、超能力の存在が知られてしまうのでは?」
「黛は、そこまでアホじゃないよ」
信頼されているんだな。
その後、特秘回線の映像を見せて貰う。
アメリカ国防長官が、スライムを食べる映像が流れた。
当たり前だけど、外交にも使われているんだな。
交渉に料理が使われるのは、普通か。
「そんな、おっさんの食事シーン見てても、つまんないよ。精肉業者にでも、社会科見学しに行くのがいいんじゃない? 才羽は、行ったことないでしょ?」
精肉業者って……。家畜にスライムを食べさせている人たち?
確かに見たことがなかった。
「見学できるんですか?」
「そんじゃ、決定! 牧先生、運転よろしく!」
楓さんのアイディアが採用されたみたいだ。
◇
車で10分。
家畜業者? 精肉業者? の建物に着いた。
牧先生のIDだと、フリーパスなんだな。社長っぽい人が、走って来て頭を下げているし。
その後、建物を案内して貰った。
「鳥、牛、豚、羊もいるんですね……」
綺麗な街だったけど、こんな泥臭いこともしてんだな……。
当たり前のことに、気がついていなかった。
飼料と家畜の匂いは、僕にとって新鮮だった。普通は臭いのかな? 僕は消毒液の匂いに慣れてしまったので、感覚が分からない。
興味深く、観察して行く。
他の3人は、馬に乗りに行ってしまった。乗馬が、したかったらしい。
牧先生は、接待を受けている。
「君は、新顔だね。『覚醒者』なのかい?」
突然話しかけられた。
スライム防衛隊のエンブレムのついた、ジャンバーを着ている。
階級章は、僕には読めない。偉い人なのかな?
まあ、僕の情報は、知られていると思おう。
「4月からお世話になっています。才羽です」
「山本だ。よろしく」
握手をする。
その後に、僕だけ別室に連れて行って貰った。
「……寒い。食糧庫ですか?」
冷凍庫?
大量の肉が、保管されている。
「スライム肉だ。この倉庫だけで、数百億円ってとこかな?」
「えっ!?」
お宝の宝庫じゃないですか。
「スライム肉にも、若返りの効果がある。月に10人に入れない富豪たちは、この肉を欲しがるんだよ。しかも、いくら食べても、『太らない』と来たから、需要が凄くてね」
……太らない? 詳細を聞くと、体を最適化するみたいだ。
肥満や拒食症に効果が見られるのだとか。
「この肉に、肥満対策が含まれていたのですね……」
「うむ、1ヵ月に一回食すだけでも、ダイエット効果があるみたいだ。体脂肪率を15%前後だったかな? そんな状態にしてくれるらしい」
スライムは、凄いな。人類が抱えている問題を、3個も解決してくれている。
「まあ、病気の改善には、ならないんだけどね」
糖尿病とかには、効かないみたいだ。結局、食べ過ぎには効果ないのか。それでも、脂肪を落とせるのであれば、需要はあると思う。
それとポイズンが、悔やまれるな。病気の抑制だけでも、新しい需要になっただろうに。
最後に、家畜がスライムを食べて変異する様子を、映像で見せてくれた。
「……巨大化していますけど、何処から質量が来ているんですかね?」
以前からの疑問を口にしてみる。
「大気中と考えられているが、こればかりは、未解明だよ。研究者に期待だね」
研究されているけど、分からないのか。ファンタジーだよな。
ここで、スマホが鳴った。
牧先生からだ。
→『才羽。帰るよ? 今何処?』
「今日は、ありがとうございました」
「こちらこそ、若者と話せて楽しかったよ。また会おう」
山本さんと、握手して別れた。
今日の社会科見学は、有意義だったな。
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