第46話 社会科見学

「八雲の奴。なんで教えてくれなかったのかね……」


 消滅系と反射系は、第五のメンバーでは苦戦してたから、不満があるみたいだ。


「まあ、楓さん主体の作戦になりますしね。八雲さんの必勝戦法なんだと思います」


 飛ばれない限りは、楓さんの有利は変わらないよね。


「そうじゃなくて、なんで才羽にだけ教えたのか!」


 牧先生は、不満なようだ。

 この後、直接八雲さんに文句を言っているし。

 八雲さんは、「メタルの実験に付き合ってくれたお礼」と返して来た。

 隠していたんじゃなくて、何時か伝える気でいたのかな?


 命がかかっているのに、研究所間で諍いでもあるのかな……。

 牧先生と八雲さんの関係なのかもしれない。

 牧先生が、一方的にライバル視してるとも思える。


 他の4人は、話し合いを始めている。

 フォーメーションって言ってたな。

 今更だけど。



 学校に帰って来た。

 簡単なレポートを書いて、今日は終わりだ。

 だけど……、黛さんだけは、何処かに行ってしまった?


「うん? まゆっちは、24時間フル稼働だよ? 毎日、日本中を移動してんの」


「モンスター討伐以外にも、呼ばれているのですか?」


「そそ、便利過ぎる能力スキルも考えモノだよね」


 沖縄から、北海道まで一瞬だもんね。指揮系統次第だけど、誰を運んでいるのか……。

 黛さんが倒れたら、日本が麻痺しそうだな。





 数日間は、静かだった。

 通常のモンスターの発生すらない。


 牧先生の授業が続く。

 正直、眠いな~。


「なぁ~。牧ぃ~。他の研究所に行こうぜ~」


 焔さんからだった。でも、僕も賛成だな。こんな普通の授業では、僕たちには時間の無駄だ。


「う~ん。保健体育がいい? 才羽も加わったから、楽しいかも?」


「却下!」


 なにをさせる気だよ。

 4人の白けた視線が、僕を襲う。いや、学校でなにさせる気ですか?

 黛さんだけがいないけど、同じ反応だろうな。


「ごほん。黛さんは、今なにをしているのですか?」


 牧先生が、パソコンを操作し始めた。

 スケジュール帳が、テレビ画面に映し出される。


「今は、アメリカ国防長官が来ているから、護衛だね。ニュースの時間になれば、映るかもね」


「他国の要人の護衛? なんの任務ですか?」


「まあ、あれだ。スライム関連以外でも引っ張りダコな訳よ」


「他国に、超能力の存在が知られてしまうのでは?」


「黛は、そこまでアホじゃないよ」


 信頼されているんだな。

 その後、特秘回線の映像を見せて貰う。

 アメリカ国防長官が、スライムを食べる映像が流れた。

 当たり前だけど、外交にも使われているんだな。

 交渉に料理が使われるのは、普通か。


「そんな、おっさんの食事シーン見てても、つまんないよ。精肉業者にでも、社会科見学しに行くのがいいんじゃない? 才羽は、行ったことないでしょ?」


 精肉業者って……。家畜にスライムを食べさせている人たち?

 確かに見たことがなかった。


「見学できるんですか?」


「そんじゃ、決定! 牧先生、運転よろしく!」


 楓さんのアイディアが採用されたみたいだ。





 車で10分。

 家畜業者? 精肉業者? の建物に着いた。

 牧先生のIDだと、フリーパスなんだな。社長っぽい人が、走って来て頭を下げているし。


 その後、建物を案内して貰った。


「鳥、牛、豚、羊もいるんですね……」


 綺麗な街だったけど、こんな泥臭いこともしてんだな……。

 当たり前のことに、気がついていなかった。

 飼料と家畜の匂いは、僕にとって新鮮だった。普通は臭いのかな? 僕は消毒液の匂いに慣れてしまったので、感覚が分からない。

 興味深く、観察して行く。


 他の3人は、馬に乗りに行ってしまった。乗馬が、したかったらしい。

 牧先生は、接待を受けている。



「君は、新顔だね。『覚醒者』なのかい?」


 突然話しかけられた。

 スライム防衛隊のエンブレムのついた、ジャンバーを着ている。

 階級章は、僕には読めない。偉い人なのかな?

 まあ、僕の情報は、知られていると思おう。


「4月からお世話になっています。才羽です」


「山本だ。よろしく」


 握手をする。

 その後に、僕だけ別室に連れて行って貰った。



「……寒い。食糧庫ですか?」


 冷凍庫?

 大量の肉が、保管されている。


「スライム肉だ。この倉庫だけで、数百億円ってとこかな?」


「えっ!?」


 お宝の宝庫じゃないですか。


「スライム肉にも、若返りの効果がある。月に10人に入れない富豪たちは、この肉を欲しがるんだよ。しかも、いくら食べても、『太らない』と来たから、需要が凄くてね」


 ……太らない? 詳細を聞くと、体を最適化するみたいだ。

 肥満や拒食症に効果が見られるのだとか。


「この肉に、肥満対策が含まれていたのですね……」


「うむ、1ヵ月に一回食すだけでも、ダイエット効果があるみたいだ。体脂肪率を15%前後だったかな? そんな状態にしてくれるらしい」


 スライムは、凄いな。人類が抱えている問題を、3個も解決してくれている。


「まあ、病気の改善には、ならないんだけどね」


 糖尿病とかには、効かないみたいだ。結局、食べ過ぎには効果ないのか。それでも、脂肪を落とせるのであれば、需要はあると思う。

 それとポイズンが、悔やまれるな。病気の抑制だけでも、新しい需要になっただろうに。


 最後に、家畜がスライムを食べて変異する様子を、映像で見せてくれた。


「……巨大化していますけど、何処から質量が来ているんですかね?」


 以前からの疑問を口にしてみる。


「大気中と考えられているが、こればかりは、未解明だよ。研究者に期待だね」


 研究されているけど、分からないのか。ファンタジーだよな。


 ここで、スマホが鳴った。

 牧先生からだ。

 →『才羽。帰るよ? 今何処?』


「今日は、ありがとうございました」


「こちらこそ、若者と話せて楽しかったよ。また会おう」


 山本さんと、握手して別れた。

 今日の社会科見学は、有意義だったな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る