第44話 通常運転
夕食時に、怜奈さんに聞いてみる。
「今日も、スライム防衛隊の病棟ですか? 少し遅かったですよね?」
「そうですけど? 残業にはならないのですけど、引継ぎに時間がかかってしまいました」
不満しかない。
学生を働かせているんじゃないか。
「看護学校の生徒の中でも、人気の研修場所になりますからね~」
ここで、不満を口にしてもいいんだろうか。
「最近は、モンスターの発生も少なくなったと聞きましたけど?」
「一ヵ月で全快する怪我人は、あの病棟にはいないんですよ」
元気そうに見えたんだけど?
看護学校の生徒を、追いかけているように見えたんだけど?
牧先生を取り囲んでいた人たちが、重傷なの?
……落ち着こう。嫉妬だ。
「でも、そうですね。僕たちも仕事として、繋がっているんですね」
「この街は、閉じていますからね。人の出入りは監視されていますし、物資の輸送は、自動化されていますもの。全てではないかもしれませんが、繋がって行くんでしょうね」
スライムの無断持ち出しがあってから、街から出るのには"許可"が必要になった。
特に『覚醒者』認定された僕は、"許可"が下りないかもしれない。黛さんがいるので、何時でも抜け出せるんだけどね。
この街に、"入る"のは楽なんだけど、"出る"となると簡単ではなくなっていた。
五大
まあいい。
牧先生を、〈強化〉すれば、短期間で済む話だ。
◇
夜になり、スマホでニュースを確認する。
「第四で、モンスターが出たのか……。珍しい個体?」
『珍しい』とか書かれている時点で、変異種だと思う。でも、情報統制とかどうなってんのかな?
八雲さんが、対峙したのかな?
いや、変異種とも言い切れないか。
「きゅっ」
ここで、メタルが僕から離れた。
体を変形させた突起で、金魚を指している。
「そうだ、餌を忘れているね」
金魚とメタルに餌をあげる。
メタルには、知能があるように思えるな……。メタルを抱え上げる。
「お前だけは……、特別なのかな?」
「きゅっ?」
メタルは、僕にしか扱えない。そして、僕は他者を〈強化〉出来る。
いや、メタルは僕をも〈強化〉してくれている。
優位性は……、あるか。
「五大
結局、一番の実力者次第だと思う。
序列一位……。その人と、僕が組めたら倒せるのかもしれない。倒せなければ、下の年代に期待だな。
牧先生の考えは、理解できない。
自分の評価に繋がると言っていたけど、本心ではないことは分かる。
八雲さんもだ。
その前に、大森林と世界樹の対策だと思うけど、八雲さんは、ニーズヘッグ討伐に拘っている。
「まだ、僕の知らない、なにかがあるんだろうな……」
例えば、『核』だ。
僕はまだ、使い道を教えて貰っていない。
核を食べると若返るのかもしれない。それならば、理解もできるけど、今だに教えてくれないところを見ると、なにかあると考えるのが、いいだろう。
「若返り以外の効果……。調べなければいけないことが増えて行くな」
静かに目を閉じる。
「才羽! 寝てるの!?」
ここで、黛さんが来た。不法侵入もいいとこだ。何回目だよ。
起き上がる。
「メタル。おいで」
「きゅっ」
メタルが、僕の肩に乗る。
僕は、ヘルメットとジャケット、スニーカーを持って、歪んだ空間に踏み込んだ。
◇
今日は、一学期の中間テストの日だ。
一応、テストは他のクラスと同じモノを受けるのだとか。
『教科書丸暗記でも、点が取れないように工夫されているんだな……』
テストの問題は、全国模試と比べても遜色ない。
他のクラスの人たちは、真面目に勉強してんだろうな。
悪いとも思うけど、僕たちは変異種のモンスター討伐も請け負っている。そして、授業をしてくれない。
全部、自習だ。
僕は、解答欄を埋めて行った。
数日後、結果が出た。
「一位は、才羽で全教科満点だね~。他の四人も見習うように!」
「「「「今更、教科書は読めないよ! 問題の方をなんとかしてよ!」」」」
僕も三年後は、この言葉を使うのかもしれない。
「一応、特別クラスなんだからさ~。一位から五位まで独占して欲しいのよ。世間体的にね」
言いたいことは分かるけど、それなら授業をしましょうよ?
それに、他クラスは天才と秀才が集まっているはずだ。
問題が、難し過ぎるし。
その後、牧先生と4人が言い合いを始める。
『もう、一時間だよ……』
罵詈雑言を聞くのも飽きるな。眠くなる。
そうすると、スマホが鳴った。緊急用の方だ。しかも、僕だけ?
→『暇なら、研究を手伝ってくれないかな? 八雲より』
前から不思議に思っていたんだけど、他の教室って監視しているのかな?
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