第44話 通常運転

 夕食時に、怜奈さんに聞いてみる。


「今日も、スライム防衛隊の病棟ですか? 少し遅かったですよね?」


「そうですけど? 残業にはならないのですけど、引継ぎに時間がかかってしまいました」


 不満しかない。

 学生を働かせているんじゃないか。


「看護学校の生徒の中でも、人気の研修場所になりますからね~」


 ここで、不満を口にしてもいいんだろうか。


「最近は、モンスターの発生も少なくなったと聞きましたけど?」


「一ヵ月で全快する怪我人は、あの病棟にはいないんですよ」


 元気そうに見えたんだけど?

 看護学校の生徒を、追いかけているように見えたんだけど?

 牧先生を取り囲んでいた人たちが、重傷なの?

 ……落ち着こう。嫉妬だ。


「でも、そうですね。僕たちも仕事として、繋がっているんですね」


「この街は、閉じていますからね。人の出入りは監視されていますし、物資の輸送は、自動化されていますもの。全てではないかもしれませんが、繋がって行くんでしょうね」


 スライムの無断持ち出しがあってから、街から出るのには"許可"が必要になった。

 特に『覚醒者』認定された僕は、"許可"が下りないかもしれない。黛さんがいるので、何時でも抜け出せるんだけどね。


 この街に、"入る"のは楽なんだけど、"出る"となると簡単ではなくなっていた。

 五大怪物モンスターなんてのを、生み出しているしね。


 まあいい。

 牧先生を、〈強化〉すれば、短期間で済む話だ。





 夜になり、スマホでニュースを確認する。


「第四で、モンスターが出たのか……。珍しい個体?」


 『珍しい』とか書かれている時点で、変異種だと思う。でも、情報統制とかどうなってんのかな?

 八雲さんが、対峙したのかな?

 いや、変異種とも言い切れないか。


「きゅっ」


 ここで、メタルが僕から離れた。

 体を変形させた突起で、金魚を指している。


「そうだ、餌を忘れているね」


 金魚とメタルに餌をあげる。

 メタルには、知能があるように思えるな……。メタルを抱え上げる。


「お前だけは……、特別なのかな?」


「きゅっ?」


 メタルは、僕にしか扱えない。そして、僕は他者を〈強化〉出来る。

 いや、メタルは僕をも〈強化〉してくれている。

 優位性は……、あるか。


「五大怪物モンスターか……。第一研究所の『覚醒者』次第だよな」


 結局、一番の実力者次第だと思う。

 序列一位……。その人と、僕が組めたら倒せるのかもしれない。倒せなければ、下の年代に期待だな。


 牧先生の考えは、理解できない。

 自分の評価に繋がると言っていたけど、本心ではないことは分かる。

 八雲さんもだ。雨会婆アメーバ島は、『覚醒者』を集めて短期決戦にするべきだ。

 その前に、大森林と世界樹の対策だと思うけど、八雲さんは、ニーズヘッグ討伐に拘っている。


「まだ、僕の知らない、なにかがあるんだろうな……」


 例えば、『核』だ。

 僕はまだ、使い道を教えて貰っていない。

 核を食べると若返るのかもしれない。それならば、理解もできるけど、今だに教えてくれないところを見ると、なにかあると考えるのが、いいだろう。


「若返り以外の効果……。調べなければいけないことが増えて行くな」


 静かに目を閉じる。


「才羽! 寝てるの!?」


 ここで、黛さんが来た。不法侵入もいいとこだ。何回目だよ。

 起き上がる。


「メタル。おいで」


「きゅっ」


 メタルが、僕の肩に乗る。

 僕は、ヘルメットとジャケット、スニーカーを持って、歪んだ空間に踏み込んだ。





 今日は、一学期の中間テストの日だ。

 一応、テストは他のクラスと同じモノを受けるのだとか。


『教科書丸暗記でも、点が取れないように工夫されているんだな……』


 テストの問題は、全国模試と比べても遜色ない。

 他のクラスの人たちは、真面目に勉強してんだろうな。

 悪いとも思うけど、僕たちは変異種のモンスター討伐も請け負っている。そして、授業をしてくれない。

 全部、自習だ。


 僕は、解答欄を埋めて行った。



 数日後、結果が出た。


「一位は、才羽で全教科満点だね~。他の四人も見習うように!」


「「「「今更、教科書は読めないよ! 問題の方をなんとかしてよ!」」」」


 僕も三年後は、この言葉を使うのかもしれない。


「一応、特別クラスなんだからさ~。一位から五位まで独占して欲しいのよ。世間体的にね」


 言いたいことは分かるけど、それなら授業をしましょうよ?

 それに、他クラスは天才と秀才が集まっているはずだ。

 問題が、難し過ぎるし。


 その後、牧先生と4人が言い合いを始める。


『もう、一時間だよ……』


 罵詈雑言を聞くのも飽きるな。眠くなる。

 そうすると、スマホが鳴った。緊急用の方だ。しかも、僕だけ?


 →『暇なら、研究を手伝ってくれないかな? 八雲より』


 前から不思議に思っていたんだけど、他の教室って監視しているのかな?

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