第42話 第四研究所

 その後、僕だけ移動させて貰った。

 第四研究所だ。

 施設を案内して貰う。


「おお、才羽君。来てくれたのか」


「あっ、八雲さん。挨拶に来ました」


 なんか……、ラボっぽいところで、研究しているのかな? 若いと思ったけど、研究者?

 個室を貰えているだけで、室長クラスなんだろうな。

 いや、スライム関係の仕事をしているんだ。外見からでは、実年齢は推測できない。



 第四研究所の状況を聞くと、至って平穏なんだとか。


「スライムの敷地外発生は、ほぼないのですか……」


「最近は、第五と第六だけが異常発生していたね。原因は、今もって分からないよ」


 不思議に思ってしまう。


「第一から第三はどうですか?」


「う~ん。変化ないかな。安定しているね。それよりもさ、第七だ。これを見て欲しい」


 第七研究所は、モンスターに支配された島だ。

 テレビ画面が、切り替わった。


「うわ……。でっかい昆虫ですね。樹が倒れそうだ」


雨会婆アメーバ島と言えば、伝わるかな? 一日でモンスターが大量発生してね。撤退を余儀なくされた。それと、五大モンスターも居座っているね」


 ニーズヘッグだな……。

 蛇っぽい外見なんだけど、昆虫の甲羅を鱗の様に纏っている。

 生物学者曰く、「自然発生の生物ではない」とのことだ。


「一度、ミサイルで平らにしましたよね?」


「そうだね。島の全てを焼き払った。だけど、一ヵ月で、島中が大森林に生まれ変わったんだ。スライムが、植物にも影響を与えるように変化したんじゃないかって、AIが予測してね……」


 そこまでは、民間にも知られている。まあ、千年木みたいなのが、一ヵ月で出来上がれば、隠しようがない。森単位での発生だしね。

 今では、島の中央にある山の山頂に『世界樹』と呼ばれる樹が立っている。観光名所にもなっているほど、立派なんだな。

 島の外から、眺めるだけだけど、とても美しい。これも、植物学者は、「存在自体が、ありえない」と言っている。地球の重力下では、あんな大きな植物は育たないんだとか。

 高さが、1,000メートルを超えてるし、スライムが関与していなければ、美しい大森林の象徴とも言えるんだけどな。


「俺は、こいつをなんとかしたくてね……。手伝ってくれるのであれば、その前にベヒーモスでもいい」


 ……いきなりだな。

 使命感を持っているみたいだ。過去に因縁でもありそうだな。


「討伐計画を練っているんですか?」


「まあ、そうなるね」


「方法があるのですか? 炎で焼く度に、森が増えて行ったのに……」


 スライムの、『若返る』特性が、『樹木を急激に成長させる』に変化したと考えられているはずだ。樹木が、スライムを吸収した結果だと、推測されている。

 島の外に、その種子が飛んで来たら世界が終わるとされていたけど、数年間変化がなかった。

 立ち入りはもちろん、手を出さないことで、事なきを得たわけだ。


 対処手段を間違っていたら、地球が全て森林になっていたかもしれない。


「ちょっと待ってね。これを見て欲しい」


「雷? 森林火災? 雨会婆アメーバ島の?」


「そそ。一年前だ。台風が通った時に起きた火災なので、延焼はなかった。それで、現在が、こちらだ」


 別の画面に、同じ位置が映し出された。


「……。森が回復していない」


「自然災害だと、回復しないみたいなんだ。これを、どう取るか――だね」


「……硝酸とか、ガソリンみたいな燃料がないと、回復しない?」


「それも、一つのアイディアだね。スライムは、『二酸化炭素』をエネルギーにするからね。でもさ、雷の火災でも二酸化炭素は発生するわけだ。再生しない理由にはならない」


 その後、議論が始まった。

 八雲さんの書いた論文を読ませて貰って、意見を出す。

 八雲さんは、スライムが『人間の意志』に感応しているとの結論を出したんだけど、スライム学会では、否定されているらしい。

 スライムに、脳の器官がないからだ。


「きゅぅ~」


 ここで、メタルが擬態を解いてしまった。何かを感じ取ったみたいだ。

 八雲さんは、歓喜しているよ。


「変異種を使役しているのかい?」


 譲って欲しいと来たけど、メタルは僕以外には懐かなかった。そして、僕の血液を養分にしないと、〈強化〉が発生しないというと、諦めてくれた。

 でも、八雲さんの研究は面白いと思う。なにか協力して、成果をみて見たいな。


「メタルを分裂・増殖させてみませんか? 上手く行けば、八雲さんの血液で生きられるようになるかもしれません。初めに会ったのが僕だっただけだろうし」


 僕がそう言うと、第四研究所が動き出した。

 八雲さんは、権力者というか、責任者でもあったみたいだ。



「才羽、時間」


 黛さんが、迎えに来てくれた。

 楽しくて、時間を忘れていたな。まだ、作業途中なんだけど。


「才羽君。明日からも頼むね」


「はい。今日は楽しかったです」


「とても有意義な時間だったよ。どうだい? 第四に移籍しないかい?」


 また、勧誘か……。


「才羽ぁ~。そんなに第五の授業を受けたくないのか?」


 牧先生も来た。どうも、他の研究所にいる時は、監視されているみたいだ。


「それに、八雲~。第五の生徒に手を出したら承知しないと言っただろう。もう忘れたのかい?」


 八雲さんは、苦笑いだ。牧先生とも面識があるんだな。



 こうして、メタルの分裂・増殖実験が開始されることになった。

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