第40話 休日2

「怜奈さんは、スライム防衛隊の病棟に行ったことはありますか?」


「……いきなりどうしたのですか?」


 夕食時に聞いてみた。

 4月は、授業スピードがとても速くて、5月に入ったら現地実習になったのだとか。今は、スライム防衛隊の病棟で研修中なのだとか。

 とにかく、看護学校は忙しいらしい。


「時間外だと、賃金も発生するのですか……」


 まだ治療には、携われないけど、仕事は多いのだとか。

 それでも、辞める人は少ないらしい。やりがいのある仕事なんだな。


「それと、将来のパートナーを探しているみたいです」


「ごふっ……」


 そりゃそうか。スライム防衛隊員なんて、高収入だろうしね。

 マッチョも多い。

 死亡しなければという条件は付くけど、女性にしてみれば、優良物件だよね。


「心配しなくても、毎日帰って来ますよ。ただ、来年には、夜勤の研修があります。その時は、病院に泊ってくださいね」


 健康になったけど、そんな契約だ。従わないといけない。親にも啖呵を切ったんだし。


「無理はしないでくださいね」


「相馬さんこそです。あんな大怪我負って帰って来られたら……、私……家政婦を続ける自信がないですよ」


「怪我には、気をつけます」


 こないだ、死にかけたとは言えなかった。

 それと……。


「きゅっ?」


 メタルが、僕のベルトからテーブルに移動した。


「何時話してくれるか待っていたのですけどね……。当日でしたか」


 やっぱり、噂になってんだな。

 病棟で、メタルを出したのは、問題だったかもしれない。


「なんて言われていますか?」


「う~ん。詳細は、誰も分からないらしいです。牧先生に、何かを渡したらしいですね。それで、牧先生の治療がスピードアップして……、防衛隊員が憎悪の目で見ていたとか? 容姿から、相馬さんだと伝わって来ました」


 んっ? 憎悪?


「僕が、飼育しているスライムになります。変異種でして……、若返り以外の効果があります。色からメタルと呼んでいます」


「以前、病気を食べるとか言っていませんでしたか? それが世間に知られたら……」


「それは、別な個体ですね」


「……何匹飼っているんですか? 少し前に、スライム防衛隊に引き渡したのに」


「今は、こいつだけですよ」


 怜奈さんが、そっとメタルに触れた。


「きゅ~」


 怜奈さんの手に変化はない。怜奈さんに、『覚醒者』としての才能はなさそうだ。

 これを確認したかった。


「その……、メタルちゃんは、取り上げられないのですか?」


「僕の血液を栄養にしているみたいです。その……活用方法があって、それが僕以外に使えないみたいなんです」


 生きるだけなら、水を与えればいい。

 だけど、他人を〈強化〉するのであれば、僕の血を僅かでも与える必要がある。

 この一ヵ月間の検証結果だった。

 意思疎通が出来るのは、僕だけだしね。


「怪我だけは、注意してくださいね」


「はい」





 夜になり、スマホでニュースを確認する。

 そうすると、空間が歪んだ。


「才羽。準備して!」


 今日は、冗談なしか……。

 黛さんは、急いでいるみたいだ。

 ジャケットとヘルメット、今日はスニーカーも用意してある。

 僕は、空間に歩を進めた。



「何処ですか、ここ?」


「第四研究所。変異種の核を抜き出せなくて困っている」


 目の前を見る。

 人型のモンスター?


「君が、第五研究所の新人だね」


 20代後半と思われる人が、対峙していたみたいだ。

 黒いジャケットを着ている。僕たちと同じ『覚醒者』だな。


「挨拶は抜きで。状況を教えてください」


「実体がないっぽいんだ。もしくは、霧状か気体なのかもしれない。ガスと言えば伝わるかな?」


 モンスターを見る。陽炎のように輪郭が、ぼやけている。風魔法と空間魔法で閉じ込めているのかな?


「試すしかないか……」


「んっ。拘束はする」


 僕はモンスターに近づいて、触れてみた。スリングショットは、まだ使わない。

 魔力を送って行く。今日は、〈固定〉の魔力だ。

 気体が液体・固体になるみたいに、体積を減らして行く……。


 ――ポト


「「「……」」」


 最後に核が落ちた。

 僕は、核を拾った。

 余りにも、あっさりと倒してしまった?


「なんだったんですかね?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る