第38話 五大モンスター

 一ヵ月くらい第六研究所の地江利ジェリー高校にいたけど、〈固定〉の魔力は他者に影響を与えなかった。

 だけど……、勘違いしている可能性がある。

 もう少し検証を重ねたかったけど、時間切れだった。


「やあ、皆待たせたね」


 王寺さんが戻って来たんだ。

 皆の冷ややかな視線が、とても怖い。

 そうすると、黛さんが来た。


「才羽、出張終わり」


「え~! こっちの人になってよ」

「王寺とトレード!」

「まゆっち! 後生だよ!」

「離れられない!」

「渡せないよ~!」


 全員が、僕に抱き着いて来た。

 黛さんの、冷たい視線が僕を襲う……。


「ちっ…………。才羽、帰るよ」


 声のトーンが低くて、すっごい怖いです。


「……はい」


 全員を振り解いて、黛さんの空間に踏み込んだ。


「なにかあったのかな?」


 王寺さんの、むなしい疑問が最後の言葉になったな。





「もう、才羽を第六に送るのは、止めた方がいいね。本当に取られそう」


「魅了でもしてたの? 随分と好かれていたけど?」


 皆見てたの? 教室間の映像が、繋がっている?


「能力の底上げが出来るのであれば、好かれもしますよ。数匹ですけど、第六のメンバーだけでモンスターを倒せましたしね」


 連携が決まれば、彼女たちだけでも倒せた。

 力を得られたらと、考えてはいたんだろうな。

 それと、メタルの分身は、3日ほどで朽ちてしまった。ドーピング剤になるかなと思ったけど、生きられないみたいだ。

 こうなると、メタルを分裂させて数を増やした方がいいかもしれない。


「そんで、才羽自身はなにしていたの?」


 ちょっと、検証結果を見せておくか。


「きゅっ!」


 メタルが、体の一部を分離させてくれた。それを掌に乗せて見せる。


「『覚醒者』がこれに触れると、能力の底上げになります。黛さんは、経験していますよね?」


「うん。それは、知っている」


「それと、これをモンスターに触れさせると、魔力を〈無効化〉できます。実際は、魔力の流れを〈混乱〉させるみたいですけど、まあ、似た意味ですね」


 直接触れなくても良くなった。

 投げて、モンスターに当てるだけでも、モンスターの魔力を止められるのは大きい。前に、石に魔力を纏わせて投げたけど、10分間は続かないと思う。

 今僕は、スリングショットを常備している。ゴムの力で撃ち出す武器だ。


「才羽は、いい人材だね。第六も刺激を受けてやる気になっている。嬉しいよ」


 牧先生が纏めてくれた。

 だけど、4人は不満なようだ。





「才羽が来たからさ、五大怪物モンスターいけそうじゃない?」


「……」


 いきなりだな。席に着いたら、牧先生が突然言い出した。


「「「「「行かない」」」」」


 ですよね~。


 現在の日本には、数年間討伐できていないモンスターがいる。

 日本を困らせているモンスターだ。

 埋立地に居座っていたり、上空を飛び回っていたりしている。有害物質で、近寄れない地域まである。


 結局のところ、日本はそのモンスターを迂回することで安全を確保している。


「第五メンバーで、一番相性がいいと思うのが、東京湾のベヒーモスだと思うんだよね」


 日本にいるモンスターなのに、西洋の怪物の名前をつけるのもどうかと思うんだけど。

 巨大なら、ダイダラボッチとか、つければいいのに。xxxスライムは、著作権に引っかかりそうだけど。


 それにしても、あれか……。ごみの埋め立て地に居座ったモンスター。巨大化を続けているんだけど、排泄物の回収も大量なので、日本の重要な収入源にもなっている。

 問題点としては、東京湾が使えなくなったことだ。

 羽田空港も閉鎖に追い込まれている。


 そして、他国がスライムの研究を手放す理由になった、モンスターの一体だ。


「討伐すると、エネルギー問題が起きませんか?」


 僕がそう言うと、全員の視線が集まった。


「エネルギー源となる排泄物は、十年分くらいは山積みにされているんだよ? それに二酸化炭素を出すからさ、世界的には推奨されていないんだ。それと、東京湾の沿岸部分の形を変えるほど、排泄物があるんだよ」


 そうなんだ?

 先人たちは、どんだけ廃棄プラスチックの扱いに困っていたんだろう。

 スライムが発見される前の世界……。想像がつかないな。


「黛がさ、5人をベヒーモスの体内に〈転移〉させてさ、4人で内部から核を探してさ……」


 怖い発想だな~。それで勝算あるの?

 黛さんを見ると、寝ていた……。


「頼むよ~。私の評価に繋がるんだからさ~。五人集まれば、文殊の知恵ってさ~。才羽も加えれば、もう無敵じゃん!」


「それが本音ですか!」

「鬼畜教師! 生徒を何だと思ってるんだ!」

「サイテー……」

「……帰って、寝る」


「おいおい、言葉が汚いぞ~。才羽が引いているぞ~」


 黛さんは、起きていたか。

 無言だったのは、一回でも試したことがあるんだろうな。


「僕は……、行きたくありませんね。反対です。五大怪物モンスターが討伐されたら、世界中に知られそうだし」


「情報統制は、完璧なんだよ? もしかして、倒せる自信がある?」


 情報もないのに、自信などあるわけない。


「……自信はありません。僕は、街の防衛を優先したいだけです」

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