第37話 応援の応援が来て、戻りました

 魔力が途切れたモンスターは、それほど動きが速くはなかった。僕の魔力に触れると〈無効化〉されるからね。魔力なしなら、普通の猿程度だ。

 だけど、モンスターはビルをよじ登って、逃げようとしている。

 ここで、3人が来た。


「「「才羽?」」」


「上です。捕まえてください!」


 全員の視線が、モンスターに集中する。

 まず、焔さんの炎が、上空を覆った。

 モンスターは、炎に遮られてこれ以上登れなくなった。そのまま水平に移動しようとする。

 そこに、茜さんだ。

 暴風が襲いかかり、モンスターが落下した。


「最後に落とし穴ですかね……」


 楓さんが、アスファルトを破壊して作った穴で、モンスターを閉じ込めた。


 ――ボキボキ、グシャ……


 落とし穴から嫌な音がする。その後、核だけが浮き上がって来た。核のあるモンスターだったんだ?

 楓さんが回収して終了だ。


「才羽、帰って来てくれたんだ。嬉しいよ」


 楓さんが後ろから抱き着いて来て、胸に頭が埋まる。

 慌てて、引き剥がす。こんなことをするから、王寺さんが勘違いしたんだな。まあ、あの人は他にも前科がありそうだけど。

 ここで、他の3人も来た。


「「「才羽、助かったよ~」」」


「まだ、出張中です。王寺さんが復帰していませんので。第五が苦戦しているから、黛さんが来たんですよ」


 僕を他の研究所に売ったのは、あなたたちでしょうに。


「才羽……。その銀色のスライム、使える」


「ちなみになにをしました?」


 黛さんが、メタルを摂取するとどうなんだ?


「視線の先に、歪んだ空間ゲートを発生させられた。『指定した物質を、指定した空間に飛ばせた』が近い表現かも。瞬時ってのが大きい」


 僕の知識では、〈転送〉だな。黛さんは、〈転移・転送〉時に時間がかかっていた。空間の指定と、発動時間の短縮になりそうだ。

 それと……、メタルは、知られていないんだな。


 その後、牧先生も来た。

 全員で、スライム防衛隊の車に乗る。

 バスまではいかないけど、大型軍用車両だな。リムジンくらいの大きさだ。



「ふむ? 第六研究所で、そのメタル――の検証をしているの?」


「他の人間の魔力を〈強化〉してくれるみたいです。モンスターに関しては、〈無効化〉ですけど」


「〈強化〉と〈無効化〉は、〈崩壊〉の方?」


「そうなります」


「〈固定〉の方を、人間に使うと?」


「……まだ、なにも起きていません。ですが、何かあるかもしれません。もう少し時間をください」


 ポイズンは、もういない。魔力を合わせる方法での検証しかないな。


「きゅっ?」


 僕が困った表情をすると、メタルが鳴いた。心配してくれているみたいだ。

 撫でで、落ち着かせる。


「才羽が、第六にいると、第五うちと勝負になるかもね……」

「失敗だったかも。楓を売るべきだった」

「どの道、知られるんだし。戻って来て貰えれば、問題ないんじゃない?」

「勝負しようぜ? 今なら楽しめそうだ」


 話を聞くと、第一研究所に最強の『覚醒者』がいるんだとか。第五研究所の5人が束になっても勝てないのだとか。

 研究所が出来た順番が、そのまま強さの順番になっているみたいだ。

 たまに下剋上もあるみたいだけど。


「研鑽の年数が違うからね。あの人は、魔法も最強系だし」


 勝気なこの5人が、ここまで言うのか。

 まあ、補助系の僕は、興味がない。直接対峙するこはないと思いたい。

 雑談していると、スマホが鳴った。

 僕のだけだ。


 →『終わったなら、第六に帰って来てね。君はまだ、こっちの所属だよ?』


 千本木先生からだった。


「戻りますね。黛さん、お願いします」


「むう~」

「気になる娘でもいたの?」

「楓の胸でも反応しなかったんだろう? 女じゃないね」

「こっちよりも、居心地がいい? ハーレムを享受していそう」


「才羽ぁ~。あくまで出張だからね。移籍は認めないよ? あっちの人にならないでね」


 散々に言われた後に、歪んだ空間を作ってくれた。

 空間に踏み込むと、第六の教室に戻って来た。


「才羽君は、本当にまじめだね~。楓の巨乳に反応しないなんてね~」

「どうやったら、堕ちるんだろう?」

「引き抜きの方法を考えないとね」

「第六に来てくれれば、第五にも勝てそうなんだけどな~」

「王寺とトレードはどう?」


 う……。引き抜き? 競争でもしているのか?


 それよりもだ。ポイズンを死なせてしまったのが痛いな。

 僕のもう一つの紫色の魔力……。

 他者に与えると、どんな効果を及ぼすんだろうか?


 競争とか下剋上よりも、僕は自分の魔力に興味がある。

 それと、ハーレムには興味がない。僕は、怜奈さん一筋だ。知られると、不味いので言わないけどね。

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