第36話 第六研究所
ホームルームが終わったら、地下の訓練場へ移動する。
「百地さん。変化はありますか?」
百地さんのスキルは、〈発光〉だったと思う。
次の瞬間に、全身が光ったんだけど?
光量も凄い。直視できない。
「……強化されているね」
考え方かもしれない。
僕の魔力が、他者の魔力を強化できる特性――メタルの力か?
「メタル……、体の一部を分離出来るか?」
「きゅっ!」
メタルの一部分が分離された。大きさは、ビー玉くらいだ。
「誰か、これを持ってくれませんか?」
壱岐さんが受け取って、躊躇なく食べる。
怖くないの?
「……ふむ」
壱岐さんのスキルは、〈身体能力強化〉だったと思う。
変化でもあったのかな?
――ヒョイ
「!?」
50キログラムある、重りを片手で持ち上げたんだけど?
漫画のネタであるけど、美少女が怪力の持ち主?
絵ずらが、凄いことになっている。
「お~、壱岐は、新記録更新かい?」
「余裕で記録更新できますね。今なら、チーターよりも速く走れそうです」
これで確定かな。メタルは、〈崩壊〉と〈強化〉を行える。
今度は、常陸さんが僕の腕に絡みついて来た。胸を押し当ててアピールして来る。
「あ~、全員に配りますので、そういうのは要りません」
「え~……。反応薄いな~。皆、結構、美少女じゃない?」
「王寺さんは? 楓さんに気があるとか聞きましたけど?」
「初日に、『やったー! ハーレムだー』と言ったので、皆でボコってクラスカースト最下位だよ。今は他の研究所の巨乳を追いかけているね。三年生なので、後一年でお別れだしね」
王寺さん……。自業自得だけど、不憫だな。
それと、一対五では、勝てないのか。
その後、メタルの一部を全員に配る。だけど、それだけで変化が現れた。
「量は、関係ないんだね。触れるだけで、10分間、それぞれの能力を著しく底上げ……〈強化〉か」
結局のところ、メタルを摂取しなくても、触れるだけで効果が現れたんだ。
ただし、制約というか、条件もあった。
「才羽がメタルに触れた状態で触れないと、効果が出ないなんてね~。触れた状態でないと分裂してくれないし。どれだけ好かれているの?」
一番恐れていた、メタルを取り上げられることは、なくなったかな?
その後、相談した結果、ペットボトルに水を入れて、メタルが分裂した一部を保管して貰うことになった。
長期保管が可能であれば、かなり有用になるはずだ。
◇
数日が過ぎた。第六研究所では、緊急用のスマホは静かだ。全然呼ばれない。訓練と授業が半々かな? たまに美術と音楽、家庭科だな。
家庭科の料理は、酷いことになった。僕を含めた全員が、料理が出来なかった。未経験なのかな……。今度、怜奈さんに簡単な料理を教わろうと思う。
調理の手順書を読んだけど、さじ加減が分からないと、味が変わってしまうことが理解できた。
料理は、経験だな。頭脳じゃない。
それよりも、僕が住んでいる第五研究所の方が危ないな。
今は、自習時間だ。
千本木先生が、テレビをつけて見ている。
「また、第五か~。頻発してんのね」
「理由は、分りますか?」
「誰も分かんないんじゃない? 第一から第四は、ほとんど出ないんだし。第七は、立ち入り禁止だしね」
「『覚醒者』は、いないのですか?」
「いるよ? 黛クラスの才能の持ち主が、スライム防衛隊の駐屯地か研究所で待機してるはず」
情報を集めて行く。
ここで、目の前の空間が歪んだ。黛さんが出て来る。
「才羽! 応援の応援! 戻って来て!」
「行って来ますね」
「うん。こっちは検証を進めておくよ。才羽君、頑張って来てね」
僕は、空間の歪みに足を進めた。
「見ていましたけど、素早いのですね」
「広場から、逃げ回っている。移動範囲が広いので、対処しきれない。今の4人では無理」
「罠は仕掛けない?」
「知能がある。それと、普通の道を塞ぐのは、スライム防衛隊の役目」
考える……。
「メタル!」
「きゅ!」
メタルが、僕の肩に乗った。
「才羽? そのスライムを使役してる?」
「黛さん。触って貰えますか? 危険性はないです。食べても問題なかったです」
黛さんが、メタルに触れてくれた。
「なにこれ? 手が光っている?」
「能力の〈強化〉になります。自分が今まで想像していて、出来なかったことを発想してください」
黛さんが、考える。
次の瞬間に、僕が移動した……。
「何処だ……、ここ?」
移動させられたみたいだけど、裏路地みたいだった。
「きゅっ!!」
メタルの声に反応する。
僕は、両手の魔力を解放した。
そうすると、何かがぶつかって来た。
「……逃げ回っているモンスターか? 先回り出来たのかな?」
魔力を〈無効化〉されたモンスターは、大して速くない。
猿っぽいモンスターだった。
「やっと、視認できたか」
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