第34話 体の異変1

「不思議ですね……」


 医者に診て貰ったら、変なことを言われた。


「何処か、悪いのですか?」


「いえ……、若々しい肉体ですよ。血液の数値にも異常は見られない。ですがね……」


 なんだろう? 歯切れが悪い。

 怜奈さんも、心配そうな顔だ。


「長年、患者を診ているのですが、こんなにも瑞々しい皮膚なのに、私には老人の様に感じる……。不思議ですね」


 その後、疲れ過ぎとの判断を受けた。ビタミン剤を処方して貰う。

 医者は、異変を言語化出来なかったみたいだ。


「相馬さん……。スライム防衛隊に協力しているんですよね? 無理をし過ぎでは?」


 まだ、魔力を使い切ったことはない。

 それに、魔力を使ったからと言って、疲労は感じなかった。

 別の何かが……、僕の中で悪さをしている?


 いや……。


「動き過ぎたのかもしれませんね。今日は、安静にしています」


「……そうですか? 安静にしてくれるのであれば、安心なのですが」


 僕の残された時間は――想像以上に短いのかもしれない。

 予想が外れて欲しいけど、悪い予感は当たるんだよな。





 その日は、家で静養した。

 呼び出し用のスマホは、鳴らなかったな。


「4人に負担をかけているのかな……。第六研究所も心配だ」


 毎日、呼び出される訳でもない。

 怪我をしたら、牧先生が回復してくれるとも言っていた。


「いっそのこと、先生に診て貰うか?」


 思いついてしまった。

 牧先生なら、僕の今の状況を把握できるかもしれない。

 まだ、〈回復〉は見せて貰ったことがないけど、知識がある可能性がある。

 学校から貰ったスマホには、先生の連絡先があった。

 チャットを打ってみる。



 午後に、牧先生が来てくれた。


 今は、僕の私室で二人きりだ。怜奈さんは、席を外している。


「鼻血が出たと……。元々体が弱くて、これからが心配――だったね?」


「はい。それで、知っていることがあったら教えてほしいのですが」


 牧先生が、僕の背中に触れた。

 魔力を注がれている感じだ。


「……ちょっと、良くないね。細胞を無理やり活性化させて、病気を抑え込んでいるみたいだ。血液――循環器系に問題があるのかもしれないね。骨髄の異常かな? 先天性なのかもしれないね」


 僕の病気を言い当ててくれた。これだけで、信頼がおける。


「このまま行くと、どうなりますか?」


「……ある日突然、動けなくなるだろうね」


「魔力を使い続けると、進行が速くなりますかね?」


「いや……。魔力は関係がないね。体内のスライムが分泌したタンパク質が、活性化しているけど、こんな症状は見たことがないよ。茜とも焔とも違う。摂取したスライムの種類なのかな?」


 ポイズンは、病気を食べてくれる訳ではなかったんだな。

 抑えてくれるだけだったか。

 でも、それだけ知れただけでも十分だ。


「ありがとうございました」


「その……、才羽が望むなら病院を紹介するけど。君は貴重な存在なんだ。国としても手放せない人材なんだよ。時間をかければ、完治するかもしれないし。それに第六研究所からの報告も聞いた」


「それは……、望みません。病院生活は飽きました。僕は、後3年間生きられれば、後はどうでもいいんです。それに、国からの保証も出るんですよね? 最後にわがままを、少し要求するくらいかな」


 親には悪いとも思うけど、国に貢献したと知れば、喜ぶとも思っている。世間体は、どうなるか分からないけど。


 牧先生は、無言で診察を終えてくれた。

 牧先生が帰る。怜奈さんと、見送りだ。


「才羽君。君の経歴と病気は調べさせて貰ったわ。それでも、生きることを諦めてはいけないよ。スライム防衛隊には、大怪我を負っても仕事を続ける人だっているんだからさ」


「諦める気はないです。今楽しいですしね。楽しむだけ、楽しみたいと思っています」


「……今度、スライム防衛隊基地を見学に行こうか」


「はい、よろしくお願いします」


 牧先生が、帰って行った。


「相馬さん。最後の言葉って……」


「病気は、完治していなかったみたいです。何処まで抑えられるかですね……。その時は、また看病して貰うことになりそうです」


 怜奈さんは、僕の言葉を受けて暗い顔になってしまった。

 スライムは、万能じゃない。それでも、病気の進行を抑えてくれる。ポイズンに出会えたのは、幸運だと思う。

 病院生活を思い返せば、全力で動ける今は、幸せ以外の言葉が出ない。

 魔力を――力を求められてもいるしね。


 本音を言えば、もっと生きたい。欲を言えば、怜奈さんの恋人になりたい。

 でも、自分の体の状況を知れて、より覚悟が決まった。


 短くても、太い人生――楽しんで生きて、そして、笑顔で死のう。

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