第33話 他の研究所が危機みたいです3

「えーと、独りでモンスターに挑んでいた人は、どうなりました?」


 一応、聞いてみる。


「王寺か~。牧先生次第なんじゃない?」


「全身打撲だったよ。骨折とか、体の損傷は回復したんだけど、精神こころが折れかけているね……。楓ぇ~。また、頼めないかな~?」


「嫌です! 二度とゴメンです」


 楓さんが、プイッと横を向いた。


「いいじゃん。ちょっとその巨乳を揉ませてやれば」


「セクハラ」

「最低」

「自分のがあるでしょ」

「……どうせ貧乳だよ」


 『覚醒者』も、一枚岩じゃないんだな。


「そうするとさ~。第六研究所の『戦える覚醒者』がいなくなっちゃうんだよ~」


「自分の評価のために、生徒を売るんですか?」


「〈洗脳〉は、昔失敗してさ~。人格変わっちゃうんだよね」


 なんだろう? この交渉は? 真面目な話なんだろうけど、その対価が問題だよな。

 つうか、王寺さんは、楓さんの胸で立ち上がれるのか?


「う~ん。そうなると、第六研究所のスライム関連事業が継続出来なくなるんだよな~」


 それ……、億単位の損失じゃない?


「……一人、出向く。出張。昔、私がしてた」


 そうなるか……。僕は、無理かな? 親にバレてしまう。そう思ったんだけど。


「楓か才羽だね~。黛が、毎日送り迎えする感じかな~」


 僕も候補に入るの?

 次の瞬間に、空間が歪んだ。


「才羽……、逝って来て」


 強制ですか?





 とりあえず、僕に拒否権はなかった。

 空間を通ると、また教室に出た?

 そして……。


「良く来てくれました~。え~と、才羽君だね」


 そこには、5人の生徒と教師がいた。

 聞いていたの?


「とりあえず、座って。席は、今日は王寺の席ね」


 教師に、指定された席に座る。


「え~と、皆さん『覚醒者』? 変異スライムを摂取しているんですよね?」


「そうなるんだけど、楓とかと比べないでね。空飛んだりとかは、できないから。討伐には加われないレベルの才能しかないんだ」


 隣の女子生徒から教えて貰った。

 詳細を聞くと、魔法のレベルアップは、相当な時間をかけないと無理なんだとか。初期にどれだけの奇跡を起こせるかで、待遇が変わるらしい。この教室は、王寺さん以外は、二軍だと言っている。

 それと、国は魔力の測定方法が出来次第、ランク付けする予定だとも聞いた。

 まあ、物質以外の測定なんてそう簡単に出来ないよね……。


「僕は経験が浅いので、独りでのモンスター討伐は無理ですよ?」


「それでさ、さっきの戦闘だよ。炎と風の威力を底上げしただろう? 私たちも、試してみたいんだ」


 この教師は、まともだな……。

 名前は、千本木先生だそうだ。この教室の教師も女性なんだな。



「地下に訓練場があるんですか……」


「人目に晒せないからね」


 一緒に来てくれた、クラスメイト。高校一年から三年まで、同じ教室なんだとか。世間は、どう思っているのかな?


「え~と、百地ももちさん、万波まんなみさん、北億きたおくさん、壱岐いきさん、常陸ひたちさん、ですね」


「「「「「よろしく」」」」」


 全員女子だ。

 その後、能力スキルの確認だ。


「光る」

「水を生み出す」

「温度を変えられる」

「身体能力強化」

「摩擦力のコントロール」


 僕の魔力と組み合わせると、効果が上がるのを確認した。

 〈崩壊〉の方だな。銀色の魔力は、他人の力を底上げするみたいだ。これは、新発見だ。

 モンスターに対しては、〈無効化〉になって、人間の魔力だと底上げ――〈強化〉になるのかな?

 後は、応用を考えればいい。


 まあ、LED電球くらいの光が、直視できないくらいの光量になるとかだったけど。

 彼女たちは、このままではモンスター討伐には出せないな……。だけど、考え方次第かもしれない。

 5人を組み合わせれば……。





 時間になると、黛さんが迎えに来た。

 もう少し検証したかったけど、明日にしよう。

 こうして、一日目が終わった。



 家に着くと、怜奈さんが待っていた。今日は、僕の方が遅くなったか。


「お帰りなさい」


「ただいま戻りました」


 汚れた服を渡すと、受け取ってくれた。制服のクリーニングは、学校が請け負ってくれている。


「何かあったのですか?」


「ちょっと、汚してしまいまして……」


 怜奈さんは、何も言わずに受け取ってくれた。

 その後、夕食を食べる。


「美味しいです」


 ――ポタ


 ここで、何かが落ちた。

 テーブルを見る。血だ。

 鼻を抑える。


「鼻血が出たか……」


 無理がたたったのか、疲れたのか……。他の要因か……。


「相馬さん?」


 怜奈さんが、ハンカチで拭いてくれる。

 その後、横になった。

 膝枕を要求したいけど、座布団の枕だったな。


「……明日、病院に行きましょう。最近は、定期健診も受けていませんし」


 そう言えば、明日は土曜日だった。

 牧先生に、今日中に連絡を入れておけば、緊急の呼び出しもないだろう。


「分かりました。お願いします」


 その日は、ソファーで寝かされた。

 怜奈さんは、テーブルで仮眠をとってくれた。

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