第32話 他の研究所が危機みたいです2

 この辺のはずだ。

 映像からの推測だけど、王寺さんと言う人は、この辺に墜落したはずだ。

 モンスターは、動かない。

 理由は不明だけど、4人が確信を持って、モンスターの足元に向かっている。踏み潰されることは、ないんだろうな。僕は、彼女たちの後に続いた。


「……いた」


 楓さんが見つけたみたいだ。

 その場に行くと、ビルの狭間で休んでいる人物がいた。


王寺おうじ……。生きているか?」


「か、楓……か」


「ほい、強制送還」


 黛さんが、いきなり〈転移〉させてしまった。


「……いいのですか?」


「あいつは、楓に惚れててね。ことある毎に、抱きつくんだ。巨乳好きなんだよ」


「それはいいよ。襲われても、撃退できるからね。ちょっと揉ませてやるくらいなら……ね」


 王寺さんも大変だな。報われそうにない。

 顔を上げる。


「これ、倒せますかね……」


 ここまで巨大だと、僕の魔力だけでは無理だな。


「モンスターの核がある……はず。それを壊すしかない」


 戦法は、確立されているんだ? でも、……はず?





 〈転移〉で安全な場所に移動する。

 とりあえず、僕はまだ何をするのか分かっていない。

 4人が、スライム防衛隊に話を聞きに行った。


「風魔法で切れなかった。そして、ミサイルだと僅かだけど効果が見られたと……」


 茜さんが、纏めてくれる。


「モンスターの核は、見当たりますか?」


「不明だけど、ありそうだね。再生の仕方から、頭部だと考えられている」


「……ん。〈転移〉からの一斉攻撃。首を刎ねて」


「「「そうだね」」」


 何かが決まったようだ。

 僕も会話に混ざりたかったな。でも今回は、サポート役で良さそうだ。



 話し合いが終わって、討伐開始だ。

 黛さんを護りながら、5人で進むんだと思う。


「……行くよ」


 目の前に歪んだ空間が現れた。その空間に飲み込まれて行く……。

 次の瞬間に、モンスターの頭部の上にいた。

 4人が、攻撃を開始する。全員飛べるんだ? 隊列を整えて……、てなことはなく、ランダム転移みたいだ。

 皆と逸れてしまった。


「あ……」


 僕は飛べない。自由落下だ。

 これ、地面に叩きつけられたら、終わりじゃない? とりあえず、モンスターにしがみつかないといけない。


「あ、才羽を忘れていた」


 楓さんの独り言が聞こえた。

 今回は、サポート役だと思ったのだけどな……。いきなり最前線もないだろうに。

 今度、空中での方向転換を考えよう。〈固定〉の魔力なら、足場がなくても多少は移動出来るはずだ。


 ここで振動が、僕を襲う。モンスターの身震いが、攻撃になっているのか……。咆哮とか、怖そうだ。

 モンスターの目の前に落下中の僕と、モンスターの視線が合う……。

 そして、長い舌に巻き取られた。


「「「才羽!?」」」


 その後、僕は食べられてしまった。



 モンスターの口の中で、左右の魔力を解放して行く。


「舌を〈固定〉して絞め殺されないように。歯を〈崩壊〉させて潰されないように……」


 モンスターの口の中を破壊して行く。

 特に〈固定〉の方だ。血流が止まっただけで、血管が破裂している。血栓になるのかな? 大型の生物の破壊には向いているかもしれない。力を入れて血流を増やそうとすると、血の行き場がなくなり、爆発する。

 僅かだけど、時間ができた。絶体絶命だけど。

 顎を破壊して、口を開かせる。


「ふう。これで呼吸が出来る……」


「才羽……。生きているか?」


 焔さんと、視線が合う。


「状況は酷いですけど、生きています。怪我も今のところありません」


「……凄いんだな」


 何が凄いの?

 その後、モンスターの口から出て、〈固定〉した空気の上に立つ。そして、観察だ。

 三人が、攻撃しているけど、効果が薄い。黛さんの拘束も効き目が弱いな。


 モンスターが、両手を振り回すと、3人が離れる。僕も合わせて、距離を取った。


「空気を連続で固める……。川の飛び石みたいな感覚だな」


 僕は飛べないけど、空中に留まることは可能みたいだ。

 全員が離れると、スライム防衛隊の一斉射撃が始まった。


 ――ドドドドドド……


「ぐおぉぉぉ……」


 モンスターが、苦しそうな咆哮を上げる。


「効果がある?」


 モンスターは、結構ダメージを受けている。


「才羽がさ、魔力を使ったからじゃない? まゆっちの報告にあったしさ。モンスターの魔力を一時的に〈無効化〉させられるんでしょ?」


 まだ、曖昧だ。検証の必要があるな。でも、モンスターが倒れた。

 それを見た、4人が突撃する。


 破壊する目的の場所は、頭部だ。

 黛さん以外の、3人が全力の魔力を放った。


「炎で火をつけて、風で酸素を供給しながら、土の竈を作ると……」


 連携技は、鮮やかだった。竈の口からもの凄い炎が噴き出している。

 モンスターの頭部が、炭になったと思う。

 倒したと判断したのか、竈が開かれる。


「小型なら、終わりだったんだけど。大型だと頭部だけでも苦労するんだよね。茜ぇ~、半分に割って」


「今日は、才羽がいるじゃん?」


 僕は、地上に降り立った。

 黛さんが、モンスターを拘束してくれている。

 嫌な匂いがした。肉を焦がした匂い……。でも、時間がない。思ったほど燃えていなかった。モンスターの頭部は、その形を保っている。

 僕は、左手で触れた。


「頭部全体を、〈崩壊〉の魔力で包み込むイメージ……」


 徐々に塵にして行く。

 ここで焔さんが隣に来て、魔力を放った?


「なにを?」


「試しに――ね」


 〈崩壊〉のスピードが上がる……。

 〈炎〉と〈崩壊〉の組み合わせ? さっきは、〈炎〉と〈風〉、〈土〉で『竈』みたいになっていたけど、僕とも組み合わさるんだ? そう思っていると、楓さんが来た。


「ふむふむ……。こうすると?」


 茜さんが、〈風〉の魔力を発すると、ドリルみたいな風が発生した。モンスターの頭部を削って行く。


「才羽の魔力って、私たちの魔力を底上げするみたいだね~。掛け算になんのかな?」


 そうなの?

 いきなりこんな大型じゃなくて、検証から始めようよ?

 さっき、僕は死ぬとこだったんだけど?

 今ね、モンスターの唾液とか血液を浴びて、僕は酷い状態なんだよ?

 そもそも、上空に飛ばすって、ほとんど殺人じゃない?


 いっぱい、突っ込みたいことがある。

 ここで、核が見えた。楓さんが取り出して終了だ。



「おつかれ~」


 牧先生が、満面の笑みで労いを送って来た。

 僕は、すっごい不満です。

 その後、新しい制服を貰って、学校のシャワーを浴びた。下着は……、どうしようもないな。

 そう思っていたら、新品を買って来てくれたみたいだ。


 着替えて、教室に戻ると、今回の顛末の報告書を書くように依頼された。

 不満をいっぱい書いて行く。

 僕の報告書を読んだ、牧先生の表情が曇る。


「……才羽だけは、初心者扱いで行こうか。結構、死にかけているね」


 今更ですか?

 死んでからは、遅いんですよ?

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