第28話 討伐依頼が来ました1

 怜奈さんが、夕食の片付けを始めた。

 僕は、後ろから抱きしめてみる……。


「……何をするんですか!? 性欲の処理は、契約に含まれていませんよ!?」


「好きです。怜奈さん」


 ――パン


 腕を解かれて、平手打ちされてしまった。

 怜奈さんは、自分の部屋に籠ってしまう。


「間違ったか……。甘えるのは間違いみたいだ」


 その日は、食器を僕が洗った。



 シャワーを浴びて、僕も自室に入る。

 ここで、スマホが鳴った。緊急用の方だ。


「C-2地区? 遠いな……」


 送迎車が来ると思う。準備だけするか。

 そう思ったんだけど。


 目の前の空間が歪んだ……。


「……才羽。準備出来ている?」


「黛さん?」


「ちっ。最中じゃなかったか……」


 何の最中ですか? つうか、不法侵入ですよ?


 話を聞くと、転移魔法なんだとか。

 遠い場合は、黛さんが迎えに来てくれるらしい。なんで僕の家の場所を知っているのかは、後で訊こう。

 そのまま、歪んだ空間に足を踏み入れる。


 空間を抜けた先には、暴れているモンスターがいた。小型だけど、尻尾が長い。


「私は、攻撃力がない。才羽……、後は頼んだ」


 見ると、銃弾が消えている。

 当たる前に、消されているみたいだ。地面もかなり削れている。モンスターが、触れた物質を消滅させている?

 半分消えた銃なんかが、散乱している。鋭い刃物でも、こうは切れないだろう。


 僕は、左右の魔力を展開した。

 モンスターの前に立つと、僕に向かって来る。

 僕は、そのモンスターの突進を受け止めた。


「牧先生の分析通りだな。物理法則の異なるモンスターであれば、僕の魔力でキャンセルできる……」


 分析が外れていたら、僕が消滅していたかもしれないけど、何となくできる気がした。

 結構、危ない思考になっているのかもしれない。


 次の瞬間に、モンスターが拘束された。

 黛さんの魔法のようだ。


「君! 下がってくれ! 一斉掃射する!」


 それでもいいんだけど、万が一がある。

 僕は、モンスターの頭に左手を添えた。

 銀色の〈崩壊〉の魔力を送ると、脳の部分が崩れ落ちる。モンスターの核が見えたので、掴んだ。

 その後に、僕は下がった。


 防衛隊の発砲で、モンスターが穴だらけになる。

 黛さんが、拘束を解くけどモンスターは動かない。討伐完了かな?


「核を渡してくれないか?」


「はい」


 スライム防衛隊員に、モンスターの核を渡す。

 この核……。使い道があるんだろうな。僕にも有効なのか知りたいけど、機密事項になると思う。

 使い方の内容により、世界がまた鳴動するだろうし。


「お疲れ。送る」


 黛さんがそう言うと、歪んだ空間が現れた。

 疑う理由もないな。

 そのまま、歩を進める。

 そして、自室に戻って来た。


「便利なんだな……。〈転移〉になるのかな? それと、靴も用意しておこうか」


 今日はスリッパだったけど、スニーカーくらいは必要だと思う。

 黛さんは、僕の部屋に入って来ずに、歪んだ空間が消えた。

 労いも、祝勝会もない。スライム防衛隊ってのは、淡白なんだな。



 その日は、そのまま寝ることにした。もう一度シャワーを浴びてもいいけど、怜奈さんに気取られたくない。

 眠りにつきながら、色々考える。


「牧先生と黛さんが、防衛の要なんだな。僕を含めた残りの4人は替えが効く。それと他の研究所は、どうなんだろうか……」


 この街だけ、変異種のモンスターが現れるというのは理屈に合わない。

 まだ数の少ない『覚醒者』。

 『覚醒者』の数が増えて、防衛態勢が整うのが先か、モンスターに研究所付近の土地を取られるのが先か……。

 最悪、日本の国土が、人の住めない土地になるかもしれない。



 朝目が覚めたので、シャワーを浴びる。怜奈さんは、何も言わない。

 無言で、朝食を頂く。


「ごちそうさまでした」


「……お粗末さまでした」


 これ、どうしようかな。

 どうしたら、機嫌を直してくれるのか。


 ――ピンポーン


 ここでインターホンが鳴った。


「僕が出ますね」


「お願いします」


 ――ガチャ


「「「「おっはよ~」」」」


「楓さん? っと、皆も?」


「その他、一纏めにされた……」


 朝から、4人が僕の家に来た? 牧先生はいないんだけど……。


「えっと……、お友達ですか? 朝から?」


 背後から怜奈さんが、声をかけて来た。


「ク、クラスメイトです」


「まあまあ……」


 やばい、絶対誤解している。



 その後、怜奈さんはすぐに準備して看護学校に行ってしまった。

 僕は……、頭が痛い。


「え~と、朝からどうしたのですか? つうか、もう遅刻ですよね?」


 一応、お茶を用意する。


「うちらさ、授業はもう意味ないじゃん? そんで、昨晩、まゆっちが、才羽の家に遊びに行ったから、私たちも来たの。そんで、さっきの人だれ? モデルみたいだったんだけど? お姉さん?」


 遊びじゃないでしょうに。


「家政婦さんですよ。看護学校に通いながら、僕のお世話もしてくれています」


「ふ~ん。いい生活してんだね~」

「だから、私たちにも興味がない……と」

「綺麗な人だった」


 すっごい、誤解しているな。


「ゴホン。皆が想像していることは、なにもないですよ?」


「私たちを口説いて来ない時点で、信用できないんだよな~」


 全員美少女と言えるけど、僕は異性として興味がないかな。

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