第27話 怜奈さんを説得しようと思います2

 とりあえず、最低限の合格は頂いたみたいだ。

 話を聞くと、防御や回避など、怪我をしないことが最低条件なんだとか。

 攻撃方法が多彩な楓さんが、基準設定をしているらしい。

 楓さんは、オールラウンダーであり、独りでモンスターを討伐出来るのだとか。

 初日の、焔さんは――入隊試験だったのかな?


 その後、攻撃力の確認をして貰う。


「ふ~ん。〈固定〉と〈崩壊〉か……。土属性かな?」

「……一概に言えない」

「ちげぇだろ。属性はないんじゃないか? 既存の物理法則にこんな現象ないし」

「……有用とは言える。モンスターを倒していたし」


 牧先生が纏めてくれる。


「今までのデータから、モンスターの能力をキャンセルする能力だと、推測されているわ。もしかすると、雨会婆アメーバ島対策の切り札になるかもね」


 四人が、渋い顔をする。

 雨会婆アメーバ島――僕でも知っている、日本の汚点だ。


「確か、雨会婆アメーバ島って、研究所があったけど、今は立ち入り禁止になった島ですよね」


 突然、モンスターが溢れて、放棄した島だ。第七研究所だったかな?

 ミサイルで平らにしたんだけど、モンスターは討伐出来なかったらしい。

 森を全て焼くか、枯葉剤を撒くかで話題になったけど、元島民が反対していたんだよな。海洋汚染も危惧されていた。そんな議論をしていたら、突然森が発生したんだ。植物の大発生だった。

 その後、放置に決まった。モンスター同士が共食いを行って、数が減るのを待っていると聞いているんだけど……。


「そそ。奪還に何度か精鋭を送り込んだんだけど、敗走を繰り返しているわ」


 奪還? そんなことをしていたんだ?

 更に話を聞くと、スライムが大繁殖して、それを食べた昆虫に支配されてしまったのだとか。

 一般には、公開していない情報だな。それと、『精鋭』ね……。

 『覚醒者』の一番の死亡理由が、雨会婆アメーバ島じゃないといいな。


「黛を除いた三人は、魔法による物理攻撃だからね。でも、才羽を加えたら行けそうじゃない?」


「「「「二度とゴメンです。昆虫は気持ち悪い!」」」」


 この四人が、拒絶するほどのモンスター数が生息しているのか。

 というか、4人は行ったことあるのか……。あの島に。





「下の世代ってどうなっていますか?」


 教室に戻って、疑問に思ったことを聞いてみる。


「私たち以外にはいない……は、正確な表現じゃないね。能力の低すぎる奴が少々かな。前線に出せてない。見いだされる前に能力スキルを使って特攻した奴は、殉職か再起不能がほとんどだね」


 牧先生が答えてくれた。


「4人が引退したら? 義務は22歳までなんですよね?」


 楓さんが、答えてくれた。


「牧先生の例があるじゃない? まあ、残る人は残れるんだよ。スライム防衛隊に入隊してもいいし。それに才羽は才能に目覚めてから一年経ってないんでしょ? 後輩は、いきなりポッと出て来るんだよ」


 再度、牧先生を見る。


「牧先生は、……残った?」


「まあ、そうだね。スライム防衛隊に入隊しても良かったんだけど、黛が心配でね。教職につかせて貰ったわ。これから7年間は、黛と行動を共にするつもり」


 分かる。……若干嘘が混じっているな。

 牧先生は、怪我した防衛隊員を回復するのが、最も貢献できる。でも、黛さんの生存を最優先に考えたのか。

 黛さんを見ると、寝ている。肯定も否定もしないと言ったとこか。

 黛さんは、日本としても失えない、貴重な『覚醒者』なんだな。


「さあ、雑談は終わりにしよう。今日は、過去の変異種のおさらいだ」


「「「私たちは、全部覚えているよ~」」」「……」


「才羽に合わせろ~」


 今後の授業って、どうなるのかな?

 スライム関係のみ?

 魔力制御を教えてよ。





 下校時刻になった。

 僕たちは、部活に入ってはいけないんだそうだ。例え、文科系でもだ。

 金属スライムの摂取は、それほど他を圧倒するんだとか。

 特に僕は、ポイズンスライムも摂取している。運動神経というか、身体能力が普通の人以上だ。

 自転車での競争だけじゃない、陸上部とかの動きを見て、判断した。


「多分だけど、自分の潜在能力を引き出しているんだろうな」


 水泳なんかしたことないけど、一日で泳げるようになるんだろうな。

 陸上大会なんかに参加すれば、大会レコードを更新できるかもしれない。

 でも見せつけて、優越感を得る意味もない。


 運動場を一瞥して、僕は帰路に着いた。



「自転車だと、時間は自由に取れるんだよな……」


 途中で寄り道をしてもいいけど、欲しいモノもない。買い食いもしたくなかった。


 家に着くと、怜奈さんはいなかった。

 僕の方が、授業が早く終わるみたいだ。

 テラスで、経口補水液を飲みながらのんびりする。

 そうすると、怜奈さんが帰って来た。


「お帰りなさい」


「ただいま戻りました」


 食材の入った袋を受け取って、一緒に家に入る。

 怜奈さんは、そのまま夕食を作り始めた。

 僕は、リビングでその光景を眺める。


 手早く、夕飯が作られた。夕食は、またハンバーグだな。僕の好物と思ってくれているのかもしれない。


「頂きます。……美味しいです」


「……よかったです」


 怜奈さんは、怒っているのかな? 無言だ。いや、困惑してるんだろうな。

 ご飯をおかわりして、満腹感を味わいながら夕食を終えた。


「ごちそうさまでした」


 怜奈さんが、無言で食器をかたずける。

 これ……、どうしようかな。

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