第18話 高校入学1

 さて……、今日から本格的に授業開始だ。


 朝食を食べて、登校する。時間もあるので、一応、シャワーも浴びるか。

 怜奈さんの方が授業開始時間が遅いので、僕が先に出ることになった。


「行って来ますね」


「いってらっしゃい」


 怜奈さんの勧めで、今日はバスに乗ることにした。

 通学方法は、まだ決めかねている。歩きでもいいんだけど、怜奈さんの負担になりかねない。早く出ないといけないしね。


 そう言えば、怜奈さんには原付バイクがある。買い物に便利だと言っていたな。

 平屋の家には、駐車場が二台分あるので、軽自動車を買ってもいいのだけど、怜奈さんは、原付バイクを選んだ。

 まあ、僕はタクシーが主な移動手段だったので、怜奈さんがなにを選んでも変わりはないんだけどね。


「晴れの日は自転車で、雨の日はバスかな~」


 考えているとバスが来た。停留所は、家から近くていいな。

 そのまま、バスに乗り込む。


『色んな制服を着た人が、乗ってんだな』


 学校は集中しているのか?

 方角が同じだけ?

 僕は家と病院を往復しかしていなかったので、ここ最近は新鮮なことが多い。住み慣れた街だけど、知らない情報を得られる。嬉しいな。

 僕は、一人席に座った。まだ、座れる人数だ。バスが揺れて出発する。



「席を変わりましょうか?」


「ありがとうございます」


 妊婦さんだった。

 僕にも席を譲るくらいの常識はある。体力はなかったけどね。

 バスが進むにつれて、乗客が増えて行く。結構、乗るんだな。


 もう、満席だ。

 僕は、両手で吊り輪を掴んだ。痴漢には間違えられたくない。

 でもバスが揺れる度に、女子高生がぶつかって来るんだけど?


「ご、ごめんなさい」


「いえ……」


「あ、あの……。その制服って地江利ジェリー高校ですよね!」


「……そうですけど?」


 短い会話をするけど、僕に話を続ける度胸はない。愛想笑いをしてやり過ごす。

 その後、足を踏まれたりもした……。また、別な女子高生だ。謝礼って……、要らないよ。席を譲ったのは、失敗だったかもしれない。

 もしくは、立ち位置を考えないとな。


 途中から、下車する人が増えて来た。

 住居区と商業区、学業区が分かれた街だったんだな。一年以上住んではいるけど、街の構造は知らなかったな。

 それと、制服から学校が分かるので、調べておこう。この街の高校の数と共に調べておけば、どんな学部が多いのかも分かるだろう。





「ふう~」


 最後の停車場で、高校前に着いた。

 バス通学も辛いな。帰りに自転車を買ってみようか。


 同じバス停で降りたのは……、5人か。

 そのまま、昇降口へ向かう。

 視線が気になるけど、怜奈さんと一緒の時ほどじゃない。怜奈さんは、美人だからな……。一緒に行動すると目立つんだ。



 えーと……、僕は、五組か?

 アナログな掲示板に、紙が張り出されていた。大型テレビではないんだな。


「一年五組……」


 掲示板を見て、違和感を感じる……。他の四組は、25人前後のクラスだけど、五組だけは、5人?


「特別扱いとかないよな……。でもこの偏りは異常だよな……」


 ポツリと呟いて、僕は教室に向かった。





 ――ガラガラ


 ドアを開けて、入室する。


「……おはようございます」


 一礼して、教室に入った。入ったんだけど……。

 なんでこんなに、机が少ないの?

 その教室には、五席しかなかった。本当に5人みたいだ。


「おはよう。最後の一人だね」

「そうだね……、追加の人だね。最後の人おはよう」


 女子から、挨拶を返して貰えた。

 どうやら、僕以外は、女子4人の教室みたいだ。残りの2人は、挨拶してくれなかった。名前を見た時に気がつくべきだったな。


「机は、真ん中ね」


「あ……、はい」


 女子一人は、寝ている。もう一人は、窓から外を見ていた。

 席に座り、入学案内のパンフレットを見る。

 ここで、女子二人に話しかけられた。


「ねえ? 5人の教室は不思議だと思う?」


「まあ、そうですね。20~30人のクラスだと思っていました。違和感があるというか……」


 たまに行けた中学の教室は、そんな感じだった。それに、男子一人だけっておかしくない?


「あはは。そうだよね~」

かえで……。からかい過ぎ」

「ちっ……」

「……」


 背後から舌打ちが聞こえた。

 振り向くけど、視線は合わせてくれない。

 なんだろう? 気に障ることでもあったのかな?


「ねえ……。入学テストの小論文は何て書いたの? 君の回答が、気になってるんだよ」


「スライムの多様性について……、ですか?」


「そそ。結構チェックされているんだよ~」


 全員、入学テストは受けているんだよな? 話題作りって感じかな?

 まあ、秘密にする必要もない。


「可能性は『ある』としました。理由はないんですけどね。あ……、でも、色が異なるスライムを見かけたことがあって……。単一種である理由は、ないと思いました。確か海底から発見されたはずですけど、探せば変異種もいるんじゃないかなって」


 僕の答えに、女子生徒たちが笑った。

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