第17話 物理法則が異なる魔物

 女性の悲鳴が木霊する。

 正直、五月蠅い。

 耳を塞ぐ。

 それと、気がついた。


『視える……。スマホの僅かな光でもこのシェルター内を把握できる……』


 これ、視力がいいとかじゃない。赤外線を感じるとかだ。

 それと……。

 静かに移動する。

 そして……、僕はシェルターから移動した。


 ドアを静かに閉める。


「完全な暗闇でも視れるんだな。さっきは気がつかなかった」


 崩落した、階段まで移動する。

 瓦礫を登り、天井部分が触れられる位置まで移動した。


 ――コンコン、パラパラ……


 叩いてみて、そのエコーで崩落現場の全体を把握する。


「まるでコウモリだよな……」


 だけど、簡易的に分かった。天井が1メートル程度の長さで落ちただけだ。そんなに深刻じゃない。

 隙間から、外の景色も見える。

 重機が入れば、すぐにでも脱出できそうだ。

 だけど、待つのも時間の無駄だ。

 僕は、左手で天井に触れた。


「人一人分が抜け出せる大きさなら、そんなに難しくもないんだな」


 コンクリート内部の鉄筋を切断するだけで、穴ができた。銀色の魔力で簡単に破壊できる。

 その後、その部分にコンクリートの塊を乗せて、証拠隠滅を図る。

 隠れて、広場を見るために移動だ。

 建物に入り階段を駆け上がる。まずは、三階から観察することからかな。



「まだ、戦っているのか……」


 薬莢が、山になっている。

 それと、ミサイルも使ったみたいだ。ロケット砲も見える。

 耳を澄ます。スライム防衛隊の話し声を拾う……。


「どうなっているんだ? 武器が効かないぞ?」

「とにかく牽制だ。民間が分析を行っている。今は、この広場から出さないことが最優先だ。応援はまだか?」

「あの4人は、他を当たっているそうだ。最悪なことに、同時多発的に発生しているみたいだ。とにかく、時間を稼げ」

「弾薬の補充を! もう持ちません!」


 状況として、最悪だな。

 モンスターを見る。

 弾丸が、当たる前から弾かれている。火炎放射器の炎もだ。


「あのモンスターは、なんか違うな……。物理攻撃が効いていない気がする。バリアみたいな……、魔力が見える」


 何となく、僕に近い気がする。


 僕は、落ちていた石を拾った。それに、右手の魔力を注いでいく。

 紫の魔力は、空間に〈固定〉するだけじゃなかった。動かすこともできる。そして、これでこの石は、どんな衝撃でも〈破壊〉されないはずだ。

 以前であれば、その場に〈固定〉されるだけだったけど、僕はその石を窓から投げた。

 野球のピッチャーの真似だ。それでも、140キロメートルは出ていそうだな。

 その石が、直線の軌道でモンスターに当たる。


 ――パリン


 何かが割れた音がした。

 次の瞬間に、蜂の巣にされるモンスター……。一瞬でミンチだ。

 スライム防衛隊は、困惑の表情だな。


「僕の魔力で何かを壊せたのか? そう考えるのが、妥当だよな。〈固定〉された石が触れると、魔力のバリアが阻害される?」


 逆の場合も考えられる。僕が〈固定〉したモノを、誰かに〈解除〉される可能性……。





 その後、街の復旧作業だ。

 僕は、崩落したシェルターを見つけたと言って、案内した。

 スライム防衛隊にも、連絡は入っていたんだな。

 ショベルカーが待機していた。


「連絡ありがとう。君は帰っても大丈夫だ。それとも送ろうか?」


「近いので大丈夫です。ありがとうございます」


 それだけ言って、その場を後にした。



「ふう~。やっと帰って来れた」


 ドアを開けると、怜奈さんが抱きついて来た。


「心配したんですよ!」


「すいません。明日からは、バスか……、自転車でも買います」


 説教はなかったけど、連絡を途中で打ち切ったのは良くなかったらしい。

 スマホを見る。

 残りの電力が、30%だった。


『もう少し、連絡を取り合っても良かったかな』



 自室に帰り、水槽を見る。


「メタルスライムは……、丸い石ころだな……」


 初日から見ると、擬態に変化がみられる。僕の意思を反映していそうだ。

 カバンから、経口補水液のペットボトルを出す。それと今日はお弁当の容器もある。

 プラスチックは水に沈まないので、指で押してメタルスライムまで届けてあげる。

 そうすると、取り込んで食べてくれた。


「大丈夫か。こんなんでも生きて行けるんだな。不思議な生物だ」


 その後、金魚にも餌をあげる。


「それじゃあ、僕も食べるか」


 お弁当を頂いたけど、怜奈さんの夕飯を食べたい。

 僕は、着替えて自分の部屋を出た。



 リビングでは、怜奈さんが寸胴鍋を見ていた。

 ああ、そうだった。普通のスライムもいたんだ。

 僕も寸胴鍋を見る。


「水が減っていますね。それと、廃棄プラスチックはありませんか?」


「ちょっと待ってくださいね」


 怜奈さんが、台所からゴミ袋を持ってきてくれた。

 僕は、コップに水を汲んで寸胴鍋に入れてあげる。数回は往復が必要だな。


「これでいいですか?」


 食材が入っていたプラスチックを受け取る。

 スライムにプラスチックで触れると、取り込み始めた。


「きゅう~」


「喜んでますね」


「へぇ~……。スライムって声帯があったんですね。それと相馬さんは、スライムの感情が読めるんですね」


 その後、僕もご飯を頂く。

 長い一日だったな。

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