第16話 シェルターに閉じ込められました

 広場には、スライム防衛隊がいた。速いな。もう、対峙を始めている。

 だけど、苦戦している?


「銃撃が……、効かないのか?」


 どういう理屈かは、分からない。

 だけど……、銃撃が効かない魔物だった。弾いている。体に穴が空いていない。

 こうなると、跳弾が怖いな。


「君! シェルターに行ってくれ! この街の住人じゃないのか? 野次馬は、命に関わるぞ?」


 ああ……、そうでした。避難訓練は、随分前に受けたきりだったな。

 流れ弾が来ないとも限らない。


 僕は、シェルターに向かった。

 入り口は、地下鉄に近い形だ。大通りに面して一定間隔で作られている。

 階段を降りて行く。


「僕が最後なのかな?」


 後に続く人はいなかった。判断が遅いのかもしれない。この街では、避難訓練は必須だ。

 道が水平になり扉が見えた瞬間だった。


 ――ドカン、ガラガラガラ……


 背後が、揺れた。土煙が襲って来る。


「ゴホゴホ。不味くないか? 入り口が塞がれたぞ……」


 危ない。数秒遅かったら、瓦礫に巻き込まれていた。ミサイルでも使ったのかな? いや、誤爆なら僕はミンチになっていたな。大質量のなにかが、天井を崩したんだろうな……。軍用車両が、飛んで来た?


 その後、土煙が晴れて来た。

 暗闇の中、スマホの灯りでシェルターのドアを開ける。

 100人位が、シェルターの中にいた。

 同じ高校の制服を着た人も見える。


「なあ、さっきの音って……。結構揺れたし」


 僕は、スマホの光を入り口方向に向けた。瓦礫が灯りに照らされる。


「くわ~。参ったな。数日は出れないかもしれないぞ……。まあいい、君も入ってくれ」


 そう言われたので、シェルター内に入る。

 このシェルターには、数日分の食事と酸素があるんだそうだ。

 物資の心配はしなくていいらしい。電力も自家発電機があると教えて貰った。

 それと、電波も繋がっている。


 快適なので、昔は住み着く人もいたのだとか。ホテル代わりにもなるしね。

 その後、無断で食料を消費した場合には、かなり重い罰金刑が科せられるようになると、悪用は減ったのだとか。

 でも浮浪者で、こんな危険な街に住み着く人っているんだろうか?

 一攫千金の『野良スライム』狙い?


「兄さん。空いている場所に座ってくれ」


 考えていると、促された。物色していると、思われたのかな?

 実は、民間のシェルターは、2回目で珍しかったりする。



「皆、スマホで外部に連絡しているんだな……」


 こんな時に、何をすればいいのかが、分からない。周囲を見渡すと、話している人、寝ている人、情報収集をしている人など、人それぞれだ。


 僕も、怜奈さんに連絡すべきか……。今は、15時か。

 確か、怜奈さんは17時まで授業の筈だ。

 少し考えて、連絡しないことにした。

 連絡は、17時以降だな。


 シェルター内は、明るい話題で溢れている。緊張感は、ほとんどない。

 僕は、壁に背を当てて、一人瞑想をする。今は、できることがない。

 耳を研ぎ澄ます……。外の状況が気になる。


『銃撃音は聞こえないけど、放火でもしている音だな。この後に、ミサイルかな……。いや、さっきのはミサイルが軍用車両を弾いて、飛んで来たのかな?』


 僅かな音から推測を立てる。とにかく、スライム防衛隊は、苦戦していそうだ。



 17時半になった。僕のスマホが鳴る。

 怜奈さんに連絡しないとな。もう、誤魔化しもきかない。


 →『今何処にいるのですか?』

 ←『シェルターにいます。モンスターが近かったので』


 しばらくすると、返信が来た。


 →『D-12区のシェルターですか?』

 ←『そうです。まだ、出れないみたいです』

 →『そこは、崩落が起きていませんか?』


 少し考えて、返信する。


 ←『まだ、出れないので分かりませんが、モンスターは倒れていませんか?』

 →『苦戦していて、もう3時間近く戦闘中だそうです。ニュースでやっています』

 ←『帰るのが、遅れそうです。ご飯は食べたいので残しておいてください』

 →『何でそんなに落ち着いているのですか?』


 周囲を見渡す。

 流石に、周囲も焦りが見られ始めたか。スマホで外の状況も分かるんだしね。

 この状態が、数日続くとなると、トラブルも起きそうだな。


「なあ、兄さん……」


 隣を見る。


「なにか?」


「……若いから忠告しておくが、女性を襲わないようにな。重罪になるから忠告だ」


 考えもしなかったよ。今の僕は、そんな風にも見られるんだな……。





 20時になった。モンスターが倒されたとの連絡はない。

 若い女性が、スマホの電池が切れたと騒いだけど、シェルター内は、落ち着いている。充電もしている。

 それと、食事が配られた。普通に幕の内弁当だった。冷凍食品みたいだな。

 前は、ビスケットと牛乳だったけど、改善されているみたいだ。

 僕は怜奈さんに、スマホの電池の消費を抑えたいので、外に変化がない限りは連絡を入れないで欲しいと返信した。


「ちょっと異常だよな」


 モンスター退治に、ここまで手こずるのは、珍しい。スライム防衛隊で無理な場合は、民間が介入して来る筈だ。

 もう5時間だ。

 外で、何が起きているのか……。


 ここで、照明が切れた。

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