第15話 高校の入学式に行きました

 半分モンスター化した……、元動物。原型は犬かな? そんなモンスターだ。

 この街では、動物の放し飼いを禁止している。

 だけど、隣接する森に野生の動物が多いので、苦労しているんだ。


「こうなっちゃうと、もう戻せないんだよな……」


 可哀相だけど、処分するしかない。

 それに、完全にモンスター化すると、銃器なしでは手に負えない。

 僕は、まだ変異途中で動けないそのモンスターを左手で掴んで、銀色の光を纏わせた。


 崩れて行く、モンスター……。可哀相だけど、他に選択肢がなかった。食肉業者も登録のないモンスターは、買い取ってくれないし。そう言えば、美味しいの……、かな?

 その後、地面を崩して穴を掘り、埋葬した。


「こんな土地でなければ、もっと生きられたのにな……」


 俺は、手を合わせた。


「きゅぅ~」


 さて、どうしようか……。僕の腕には、普通の色のスライムが収まっている。

 全力で動いてみたかったので、家から出てみたんだけど、思わぬ拾いモノをしたぞ。

 結局僕は、スライムを連れ帰った。干からびて死なれるよりは、保護したい。動物に食べられると、さっきのモンスターみたいに処分しないといけなくなるしね。





 朝になり、シャワーを浴びる。

 今日は、僕の入学式だ。

 それと、怜奈さんに報告しないとな。


「あ、おはようございます。相馬さん」


「おはようございます。怜奈さん。それで、相談があります」


 寸胴鍋を出す。

 不思議そうな顔をする、怜奈さん。

 怜奈さんが、恐る恐る蓋を開けた。


「……これ、スライムですか?」


「はい、昨夜、庭で見つけました。どうしたらいいと思いますか?」


 本当は、庭じゃないんだけどね。

 怜奈さんが、スライムを見て頭を抱えた。


「今日は……、入学式です。それからで……。スライム防衛隊に連絡しておきます」


「食べないんですか?」


「私が食べたら、相馬さんと同じくらいの年齢になってしまいますよ?」


 怜奈さんは、若さに渇望がないみたいだ。今が一番綺麗な時なのかもしれないけど、それを長く続けたいとは思っていないみたいだ。道徳のある――人なんだろうな。まあ、年老いたら、考えも変わるのかもしれない。


 一定数はいる、スライム反対派の考え方だ。昔は、延命処置すら拒否する人たちが、スライムを摂取することを推奨してしまった。今は、拡大解釈されている。

 一時期、死亡する直前になってから、スライムを摂取して、財産の処分を行う人が多く現れた。死亡直前に豪遊もないだろう……と、非難の的にされていたな。

 親がスライム反対派だったら、僕は資金援助を打ち切られそうだ。親子の縁を切られるのかもしれない。知られないこと、教えないことが、一番平穏だな。


「相馬さん、支度をしましょうよ」


「怜奈さんの学校は? もう始まっていますよね?」


「今日だけは、休みますよ?」


 その後、言い争いになったけど、僕が折れた。入学式について来てくれるんだそうだ。学校を休んでまで来て欲しくはなかったんだけどな。





 学校に着いた。また周囲が騒がしい……。

 まあ、予想してはいたんだけどね。二回目だし。


「あれ――姉弟かよ?」

「美男美女過ぎ。学校間違えてない?」

「母親の方が、スライムで若返ったんじゃねぇの?」


 これからは、行動を共にする場合は、気をつけないとな……。

 校門で写真を撮り、入学式に参加する。

 クラス発表は、明日なんだとか。


 怜奈さんには、ここで帰って貰う。

 午後からだけでも、授業に出て貰いたい。



 入学式は、数時間で終わった。教室の発表はないし、式だけなんだ?

 帰路に着くけど、女子生徒がジロジロと見て来る。

 今だ人の視線には、馴染めない。

 タクシーを呼んでもいいけど、今日ぐらいは歩こう。

 道を覚えたい。


「距離的には、3キロメートルくらいかな?」


 自転車か、バスか……。歩きには時間がかかり過ぎる距離だ。

 商店街を歩いて行く。


「親からの小遣いは、まだあるんだよな」


 入学祝で、纏まった額が振り込まれていた。だけど、この金額は多過ぎだとも思う。

 両親が会社の社長だと、こんなもんなのかな? ここは、地方都市でもあるんだし、物価が安い?

 ウィンドウショッピングで、何を売っているのかを確認して行く。商店街だけでも、把握したい。


「怜奈さんは、何をプレゼントすると喜ぶのかな……。アクセサリーではないのは、理解したんだけど」


 考えていると、悲鳴を拾った。続いて、警報も鳴った。


「またモンスターか? 最近多いな」


 僕は、その場所に向かって走った。

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