第13話 看護学校の入学式に行きました
「ここが、看護学校になるんだ……」
僕は、小学校と中学校しか知らない。
専門学校って、こんな感じなんだな。同じ学校でも、だいぶ違う。
それと、周囲が五月蠅い。
「なにあれ? 旦那を連れて来たの?」
「姉弟なんじゃない?」
「スライムで若返った親でしょう? 学生までって、どんだけ金額つぎ込んだのよ」
散々な言われようだ。
想像していなかったよ。
「あの~。相馬さん……」
「怜奈さん。写真を撮りましょう」
周囲は無視する。
でっかい、『入学式』の看板の前で、僕は怜奈さんの写真を撮った。
晴れ着の人もいるな。怜奈さんは、ビジネススーツだ。僕自身が稼げるのであれば、晴れ着を着せたかったな。
写真を撮る。
本当は、二人で写りたかったけど、そんな関係じゃない。
わきまえよう。
入学式が始まった。
校長のありがたいお言葉が、続いている。
僕は、周囲を確認する。
『着物の人も多いんだな。それと、髪の毛がすっごい人がいる。あれ重くないのかな? 首大大丈夫?』
――ピク
ここで、音を拾った。大分遠くだな。
それは、悲鳴だった。
周囲は誰も気がついていない。
僕は、席を離れた。静かに体育館から出て、建物を駆け上がって行く。
高い所から、声の方向を見る。
「ちっ。小型のモンスターか」
このまま行くと、入学式が中止されて、全員避難しないといけなくなる。
それだけは、避けたい。
スライム防衛隊も、まだ到着していない。
僕は、手すりから飛び降りて、モンスターに駆け寄った。ちなみに4階でした。
◇
「牛くらいかな?」
原型となった動物は、分からない。そんな小型のモンスターだった。動きは遅そうだ。
看護学校以外に向かわせれば、問題ない。時間稼ぎを行えばいいだけだ。
それと、この街には、一定間隔で何もない広場が設置されている。
――カンカン
大きな音を鳴らして、注意を引き付ける。
だけど、牛のモンスターは、逃げ遅れた人に襲いかかろうとしていた。シェルターに入る前に、追い付かれそうだ。
僕は、横からタックルを食らわせた。全力でダッシュしたら、すっごいスピードが出たんだけど?
――ドン
モンスターが倒れたんですけど? 少なく見積もっても、体重は、300キログラムくらいありそうなんだけど?
無意識で出来ると思ったけど、僕って、こんなに筋力があったんだ?
「そこの君! モンスターに立ち向かうな! シェルターに向かうんだ!」
返事している暇はない。僕は、スライム防衛隊が使う広場に移動した。
牛のモンスターは、憎悪の目で僕を見ている。ついて来てくれた。
『スライム防衛隊は、まだか?』
汗が、頬を伝う。
結構、絶体絶命? 何してるんだろう……。
健康な体を手に入れたけど、結構無茶をする思考も持ったのかもしれない。
「闘牛士って、こんな光景を見ているのかな?」
僕は牛のモンスターの突撃を躱し続けていた。実際には、時間にして一分も経っていないと思う。一瞬も気を抜けない時間が続く。
だけど、手詰まりなのは変わらない。一方的に攻撃されているのも、良くないな。
「……時間をかけたくないんだよな」
僕は、右手で牛のモンスターの頭部を触れてみた。
すれ違いざまに……、叩いた感じかな。そして、魔力を送った。
「頭部だけの、〈固定〉……」
――パン……ボキ
首から下の勢いに耐えられずに、首の骨が折れたらしい。結構グロい絵面になってしまった。首から上が動かずに、足をバタバタさせている。骨は折れたけど、神経は切断されなかったみたいだ。それでも致命傷だとは思う。しばらくすれば、絶命するはずだ。
だけど、まだ生きている。油断はできないし、時間が惜しい。
僕は、次に左手人差し指で、こめかみに触れた……。スライムで変異したモンスターなんだ。回復でもされたらお手上げだ。
常識で考えてはいけないのが、スライムのモンスターだ。次に何が起きてもおかしくない。
「脳の破壊……」
針で、脳を刺した感じかな。直径一ミリの円柱形状を指定して、〈崩壊〉させた。
牛のモンスターは、動かなくなった。
その後、素早く身を隠して、経過を観察する。
一分ほどで、スライム防衛隊が来てくれた。もう大丈夫だろう。〈固定〉を解除する。
急いで、戻らないといけない。
1ブロック分、来た道と違う道を通って、看護学校の入学式会場に戻る。
「良かった。式は無事に終わったか」
僕が戻った時は、ちょうど、校長先生に拍手が送られている瞬間だった。
ちょっと、疲れたかな。精神的にだけど。
◇
「相馬さん? 服が少し汚れていますよ?」
怜奈さんは、鋭いな。
「少し学校を見学していたので。屋上に行ったので、埃が付いたのかな?」
「もう! 洗濯しますからね。ブランド品なので手洗いしますから!」
怜奈さんは、少しおかんむりだ。
笑ってごまかす。
それよりも、気になっていることがある。スマホで確認すると、小型のモンスターの討伐情報がニュースで流れた。
「どうしたのですか?」
「近くで、モンスターが出たみたいです。怪我人はいませんでした」
「そうですか……。入学式が中止にならなくて良かったです」
本当にそうですね。
それと……、僕は一つの可能性に辿り着いていた。
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