第13話 看護学校の入学式に行きました

「ここが、看護学校になるんだ……」


 僕は、小学校と中学校しか知らない。

 専門学校って、こんな感じなんだな。同じ学校でも、だいぶ違う。

 それと、周囲が五月蠅い。


「なにあれ? 旦那を連れて来たの?」

「姉弟なんじゃない?」

「スライムで若返った親でしょう? 学生までって、どんだけ金額つぎ込んだのよ」


 散々な言われようだ。

 想像していなかったよ。


「あの~。相馬さん……」


「怜奈さん。写真を撮りましょう」


 周囲は無視する。

 でっかい、『入学式』の看板の前で、僕は怜奈さんの写真を撮った。

 晴れ着の人もいるな。怜奈さんは、ビジネススーツだ。僕自身が稼げるのであれば、晴れ着を着せたかったな。


 写真を撮る。

 本当は、二人で写りたかったけど、そんな関係じゃない。

 わきまえよう。



 入学式が始まった。

 校長のありがたいお言葉が、続いている。

 僕は、周囲を確認する。


『着物の人も多いんだな。それと、髪の毛がすっごい人がいる。あれ重くないのかな? 首大大丈夫?』


 ――ピク


 ここで、音を拾った。大分遠くだな。

 それは、悲鳴だった。

 周囲は誰も気がついていない。

 僕は、席を離れた。静かに体育館から出て、建物を駆け上がって行く。


 高い所から、声の方向を見る。


「ちっ。小型のモンスターか」


 このまま行くと、入学式が中止されて、全員避難しないといけなくなる。

 それだけは、避けたい。

 スライム防衛隊も、まだ到着していない。


 僕は、手すりから飛び降りて、モンスターに駆け寄った。ちなみに4階でした。





「牛くらいかな?」


 原型となった動物は、分からない。そんな小型のモンスターだった。動きは遅そうだ。

 看護学校以外に向かわせれば、問題ない。時間稼ぎを行えばいいだけだ。

 それと、この街には、一定間隔で何もない広場が設置されている。


 ――カンカン


 大きな音を鳴らして、注意を引き付ける。

 だけど、牛のモンスターは、逃げ遅れた人に襲いかかろうとしていた。シェルターに入る前に、追い付かれそうだ。

 僕は、横からタックルを食らわせた。全力でダッシュしたら、すっごいスピードが出たんだけど?


 ――ドン


 モンスターが倒れたんですけど? 少なく見積もっても、体重は、300キログラムくらいありそうなんだけど?

 無意識で出来ると思ったけど、僕って、こんなに筋力があったんだ?


「そこの君! モンスターに立ち向かうな! シェルターに向かうんだ!」


 返事している暇はない。僕は、スライム防衛隊が使う広場に移動した。

 牛のモンスターは、憎悪の目で僕を見ている。ついて来てくれた。


『スライム防衛隊は、まだか?』


 汗が、頬を伝う。

 結構、絶体絶命? 何してるんだろう……。


 健康な体を手に入れたけど、結構無茶をする思考も持ったのかもしれない。


「闘牛士って、こんな光景を見ているのかな?」


 僕は牛のモンスターの突撃を躱し続けていた。実際には、時間にして一分も経っていないと思う。一瞬も気を抜けない時間が続く。

 だけど、手詰まりなのは変わらない。一方的に攻撃されているのも、良くないな。


「……時間をかけたくないんだよな」


 僕は、右手で牛のモンスターの頭部を触れてみた。

 すれ違いざまに……、叩いた感じかな。そして、魔力を送った。


「頭部だけの、〈固定〉……」


 ――パン……ボキ


 首から下の勢いに耐えられずに、首の骨が折れたらしい。結構グロい絵面になってしまった。首から上が動かずに、足をバタバタさせている。骨は折れたけど、神経は切断されなかったみたいだ。それでも致命傷だとは思う。しばらくすれば、絶命するはずだ。


 だけど、まだ生きている。油断はできないし、時間が惜しい。

 僕は、次に左手人差し指で、こめかみに触れた……。スライムで変異したモンスターなんだ。回復でもされたらお手上げだ。

 常識で考えてはいけないのが、スライムのモンスターだ。次に何が起きてもおかしくない。


「脳の破壊……」


 針で、脳を刺した感じかな。直径一ミリの円柱形状を指定して、〈崩壊〉させた。

 牛のモンスターは、動かなくなった。

 その後、素早く身を隠して、経過を観察する。

 一分ほどで、スライム防衛隊が来てくれた。もう大丈夫だろう。〈固定〉を解除する。


 急いで、戻らないといけない。

 1ブロック分、来た道と違う道を通って、看護学校の入学式会場に戻る。


「良かった。式は無事に終わったか」


 僕が戻った時は、ちょうど、校長先生に拍手が送られている瞬間だった。

 ちょっと、疲れたかな。精神的にだけど。





「相馬さん? 服が少し汚れていますよ?」


 怜奈さんは、鋭いな。


「少し学校を見学していたので。屋上に行ったので、埃が付いたのかな?」


「もう! 洗濯しますからね。ブランド品なので手洗いしますから!」


 怜奈さんは、少しおかんむりだ。

 笑ってごまかす。


 それよりも、気になっていることがある。スマホで確認すると、小型のモンスターの討伐情報がニュースで流れた。


「どうしたのですか?」


「近くで、モンスターが出たみたいです。怪我人はいませんでした」


「そうですか……。入学式が中止にならなくて良かったです」


 本当にそうですね。

 それと……、僕は一つの可能性に辿り着いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る