第11話 高校受験をすることになりました

 両親が、帰って行った。


「相馬さん……。何故あんなことを」


「少し頭に血が上っていましたね。でも、了承するなんて思いませんでした」


 看護学校もそれなりに学費がかかる。

 だけど、お金で解決する問題なら、僕の両親は二つ返事で受けてくれた。

 取引にもならなかったな。


「それでは、怜奈さんも受験勉強をしないとですね。お互い頑張りましょう」


「はい!」


 怜奈さんが、嬉しそうに微笑んでくれた。





 クリスマスが過ぎて、正月も終わった。怜奈さんは、実家にも帰らない。

 そんな契約だったからだ。最低でも2年間は、僕と一緒にいてくれる。

 どうしようもない時は、僕が病院のお世話になればいい。これは、病院側も了承してくれている。


「ふう~。過去問は全部解き終わった。それと、高校の予習も必要なんだな……」


 改めて、自分の受けようとする学校のレベルの高さが分かった。公立の試験とは、問題のレベルが違う。

 だけど、今の僕なら合格できそうだ。ケアレスミスしなければ、満点もあるかな?


「私も一息入れます。お茶にしますか?」


「お願いします」


 リビングで勉強をする。互いに無言だった。怜奈さんにしてみれば、最初で最後のチャンスかもしれない。次は、二年後になるんだし。だけど、怜奈さんの成績ならば、看護学校の合格は疑いようがなかった。

 僕の方が、危ないだろうな。

 地域で最高の偏差値を誇る学校を、受験しようというんだから。


「ふう~。いい香りですね」


「うふふ。以前の相馬さんは、真水かスポーツドリンク、もしくは経口補水液しか飲まなかったのですけどね~。本当に変わりましたね」


 そう言えばそうだ。もう、食事に気を配る必要もなかった。

 僕がステーキを食べた時、怜奈さんはとても素敵な笑顔を見せてくれた。


「そう言えば、体がガッシリして来ましたね~」


 筋トレの成果かな?

 以前は、ウォーキングだけだったけど、日に10キロメートルを超えると、怜奈さんの方が疲れてしまった。

 医者に相談して、腕立て伏せ、腹筋、背筋などのトレーニングメニューを作って貰った。毎日、必要以上の回数を熟している。その成果が出ている?

 服をまくり上げて、自分の腹を見る。


「見事なシックスパックだよな」


 怜奈さんを見る。顔を真っ赤にしていた。


「あ……。ごめんなさい」


「いえ――眼福でした……」


 それって、男性が使う言葉じゃない?





 受験日は、すぐにやって来た。充実した日々だったみたいだ。

 怜奈さんと共に受験会場に行く。


「それでは行って来ますね。終わったら連絡します」


「あっ……。これを」


 御守りを買ってくれていたのか。僕は用意していないな。


「ありがとうございます」


 お礼を言って受け取る。

 怜奈さんは、敷地に入れないので、近くの喫茶店で待っていて貰う。



 受験する教室を探して、自分の席を探した。気分は、落ち着いている。

 こうして、試験が始まった。


『順調、順調』


 解答用紙を埋めて行く。

 そして、あっという間に最終試験だ。問題の小論文だった。

 開始の合図と共に、お題を読む……。


『スライムの多様性についての見解?』


 スライムって分裂するだけの、単一種じゃなかったのか?

 周囲の空気が変わったのが、分かった。過去問題を解いたけど、これは予想外だ。

 だけど……、僕はポイズンとメタルを見ている。

 『ありえる』を結論として、小論文を組み立てた。





 最後に、簡単な面接を受けて受験は終わりになった。

 結果は、寝て待とう。それと、落ちた場合は、公立高校の受験もある。


 僕は、怜奈さんが待っている喫茶店に向かった。


「あっ、お疲れさまでした」


 怜奈さんを見ると、複数の男性に囲まれていた?

 その人たちが、僕を見ると離れて行く……。


「誰ですか? 知り合いには見えませんでしたけど……」


「ナンパでした。たまにあるんですよ」


 たまに――なのかな……。

 僕の綺麗な家政婦さん。独占している気はないけど、恋人がいても不思議だとは思わない。時間を作ってコッソリ会っているかもしれないと思っていた。


 嫌な考えは、置いておこう。それよりも、今日は寄らなければならない場所がある。


「少し寄りたいところがあるので、頼めますか?」


「いいですけど、疲れていませんか?」


 一緒に喫茶店を出る。

 そして、神社に向かった。


 僕も、御守りを買う。


「今度は、怜奈さんが頑張る番ですね」


 怜奈さんは、嬉しそうにお守りを受け取ってくれた。

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