第10話 両親が来ました

 数日後、学校に呼び出された。

 なんだろう? いや、中学生だから毎週通うのが普通だと言われると、返す言葉もないんだけど……。

 生徒指導室で、怜奈さんとの二人で、話を聞く。秘密の話なのかな?

 そう思ったんだけど……。


「高校進学ですか? 受験しろと?」


 教師から、突然言われた。


「うむ……。こないだの全国模試一位だっただろう? それで、私立から推薦が来た。公立でもいいと思う。高校は、選び放題だろうし。親元に帰るのもいいんじゃないか? 見た所、健康になったんじゃないか? 通えると思うんだが」


 あのテスト……。全国模試だったんだ。

 だけど、考えてしまう。


「万が一……、倒れたりしたら……、ご迷惑でしょうし……」


「最近の相馬さんは、元気じゃないですか。毎日の散歩も十キロメートルになっているんですよ?」


 隣の、怜奈さんを見る。保護者の代わりで学校に来てくれている。

 だけど、やっぱり考えてしまう。


「中途退学の未来しか見えないですね……」


「相馬さん! 進学したくてもできない人だっているんですからね」


 そうだった。目の前に、その人がいる。

 とりあえず、高校受験は保留にして、帰ることにした。こっから先は、親に相談しないとけない。学費だって発生するんだし。

 まあ、中学校から連絡が行くんだろうな。





 帰り道、今日は歩きだ。怜奈さんとデートになるのかな?

 市街地を雑談しながら歩いて行く。

 でも、途中で怜奈さんが止まった。


 その視線の先を見る。

 服屋……、ブティックでいいのかな?


「ちょっと寄りませんか? 成長期なんですし。洋服を新調しましょう」


 ウィンドウに飾られている値段を見る。


「高いですね。量販店でいいですよ? ショッピングモールに行きましょう」


「ご両親に請求すれば、お金は支払って貰えるんですよ? 数着ぐらいいいモノを買いましょうよ。下着は、安物でもいいので」


 僕がごねても、時間の無駄だ。

 その後、店に入り着せ替え人形にされる。

 とりあえず、三着分の上下の洋服と、コート一着を買うことになった。靴まで売っていたので、革靴を買う。一ヵ月後に履けなくなっていなければいいんだけど。

 スニーカーが欲しかったけど、ホームセンターでもいいかな。後で買いに行こう。


 それと、値段は――大丈夫なのかな。

 僕にブランド物なんて必要ないんだけど。怜奈さんが、支払いを済ませる。


「うふふ。そのまま着て帰りましょうね」


「……はい」



 なんだろう。街中に出ると、ジロジロと見られている気がする。


「美男美女カップル。随分と若いし……、スライムで若返った親子かもね」

「富豪でも、行き過ぎた行動だよね。寄付でもしろって言いたいね」


 すれ違った人の声が聞こえた。

 怜奈さんを見る。


「うふふ。イケメンですね~。相馬さん」


 僕がイケメン?

 ガラスに映った自分の顔を見る。


「……健康そうな顔してるな。僕ってこんな顔していたんだ」


「相馬さんは、素材は良かったんですよ。それに背も伸びましたものね。今は立派なイケメンです」


 もう一度、ガラスに映る自分の顔を見た。


「僕が――イケメン?」





 次の日に、親が来た。両親共にだ。


 三人でテーブルに着く。怜奈さんは、僕の後ろに立っている。座ってもいいと思うんだけど。


「随分と健康そうな顔になったな。それと、その服装も様になっている。みすぼらしい服装でなくて良かったぞ。安心した」


 普段は、寝巻きか病院の患者服で会ってたし。だけど、両親としてもブランド物を着ている息子がいいのか……。

 病院の患者服で会うのが、普通だったしね。


「この一ヵ月は、症状が落ち着いています」


「……時間がない。早速本題だが、高校に進学しろ。地江利ジェリー高校なら私たちも文句はない。もちろん、公立でもいいが、偏差値の高い高校にしてくれ」


 地江利ジェリー高校……。スライム事業に携わる人たちが目指す、エリート進学高校だ。名称はどうかと思うけど。

 入学には、学力以外も必要だと聞いたことがあるな。特に小論文だ。中学生に作文ではなく、論文を求めるらしい。

 僕は、ため息を吐いた。


「倒れたらご迷惑ですし……、この家で静養しています」


「試験だけでも受けろ。受験してみろ」


 まあ、それくらいならいいか。


「あの~、よろしいでしょうか?」


 怜奈さんが、口を開いた。


「何かな?」


 怜奈さんが、前回の模試結果と医師の診断書をテーブルに置いて、僕の近況を説明してくれた。

 両親は、関心がないらしい。興味があるのは、僕の学力だけみたいだ。

 世間体を……、気にしているんだな。


「報告ご苦労。受験には付き合ってあげてくれ。それと、今後も頼む」


「もういいかしら? 結論は、始めから出ていたのだし。それと、最終電車の時間ですよ? 顔も見たんだし、乗り遅れないように移動しましょうよ」


 少しイラっとした。例え実の親だとしてもだ。

 ちょっと、嫌がらせを含めた要求をしてみるか。


「怜奈さんに看護学校受験を許可してくれるなら、僕も高校受験を受けてもいいです。もちろん、合格したら怜奈さんの学費も出してくださいね。その費用を賄えるくらいは、働いて貰っているので。いえ……、それではダメですね。奨学金の保証人くらいなら頼めますか? 社会人になってから返して貰うのであれば、問題ないでしょう?」


 僕の言葉に、全員が絶句した。

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