第9話 塵になりました
少し観察するけど、金魚が巨大化することはなかった。
大丈夫そうだ。
「スライムは生きているんだよな?」
僕は、水槽に左手を突っ込んで、ツンツンしてみる。
――プルルン、プルルン……
大丈夫なようだ。
水槽から手を引き上げる。そして気が付いた。
「指先が、銀色に光っているよ……。また、スライムの体液かな?」
さっき抱きかかえた時は、何の変化もなかったけど、濡れているスライムに触れると、皮膚が変色するみたいだ。皮膚から吸収しているんだろうな。
これって、学会に発表できる内容かもしれない。あ~でも、若返りの効果が発見された事例もあるか。流石に知られているよな。
メタルスライムを取り上げられたくないので、誰にも言わないことにした。
「この、淡い光……。これも魔力かな?」
ポイズンとは違う光。
もしかすると、効果も違うのかもしれない。
少し考える。
やっぱり、衝動に駆られて舐めてみた。そうすると、体に変調が見られる。
左手の指先から銀色の光が、発光していた。
いろいろなモノに、銀色の光を纏わせる。これは、ポイズンスライムの時と同じだ。
「だけど、変化がないな?」
暫く待つけど変化がない。試しに持ってみたら……、崩れた。
「強度を失っている? 破壊? 分解? ……崩壊?」
その後、全てのモノの強度が失われることが分かった。不用品を、塵にした結果だ。少し考える。
「スライムの……、プラスチックを分解する特性? それが、全ての物質に影響する可能性……」
台所で、ガラスを探す。
試しに、ガラスのコップを銀色の光で覆ってみた。
――パキ、サラサラ……
「やっぱり、ガラスすらも影響を受けている。ガラスって酸にも強いはずなのに」
慌てて自室に戻った。
水槽をコンコンと叩いてみる。
金魚が、ピクンと跳ねた。
「メタルスライムに破壊する意思がなければ、大丈夫かな?」
メタルスライムに、スポーツドリンクのペットボトルをあげると、嬉しそうに食べている。
金魚にも餌をあげる。大丈夫そうだ。
僕は、水槽を眺めながら、左手の銀の光も体内に循環させるためのイメージトレーニングを始めた。
「……」
感覚で分かる。今度は、核になるモノが脳に移動したらしい。
――カラン
水槽で音がした。そして、それを拾い上げる。
「やっぱり、ダイヤモンドだ」
磨けば、光るかもしれないけど、検証が必要になるかもしれない。
それに、人工ダイヤモンドなんて安いしね。
僕は二個目のダイヤモンドを机の引き出しに仕舞った。
◇
「相馬さん。そろそろ勉強をしませんか? テストが近いですよね?」
夕飯の時に、怜奈さんから言われた。
怜奈さんは、家庭教師も兼ねてくれている。
「では、夕飯後にお願いします」
正直、僕に勉強など必要ないけど、今の成績だと親の面目が問題になるらしい。
進学する気もない僕に、学力を求められてもな……。
だけど、生活費を出して貰っている。家すら与えて貰っているんだ。従う以外の選択肢が、ないんだよな。
教科書を開いて、怜奈さんに解説して貰う。
僕はノートを取った。
――カリカリ……
「今日はどうしたのですか?」
突然言われて、顔を上げる。
「何か変ですか?」
「随分と集中されていますね? 様になっていますよ。集中している相馬さんは、カッコいいですね」
だって、怜奈さんの話が全部理解できるんだし。
なんだろう……。頭が凄い冴えている感じだ。ポイズンは、僕の病気を食べてくれたけど、メタルは脳神経を強化してくれるのかな?
これ……、知られたら大問題だよな。
その後、数日かけて中学の全ての教科書に目を通した。
「暗記力が、向上しているよ」
今ならば、教科書の暗唱すら可能だ。一回読んだだけなのに。
完全記憶能力と言ってもいいくらいに、頭が冴えている。
数学や理科の応用問題も理解できる。空間把握能力、認識力の向上?
練習問題を解くと、怜奈さんは、驚愕の表情だ。だけど、模擬テストの点がいいので喜んでくれた。
◇
今日は、二ヵ月に一回の試験の日。
僕だけの教室で、テストを受ける。
その前に、学生服が、小さいんだけど……。
でも後数ヵ月しか着ない。破らないように着ればいいか。無用な出費だと思うし。
不満なんて口にし出したら、僕は誰にも相手にされなくなる。
余計なことは考えずに、試験を終わらせよう。
『……今日は、教科書を読んだ部分が思い出せるな』
次々に、解答欄を埋めて行く。
計算問題も問題なし。引っかけ問題も、出題する意図が読めてしまう。
教師は、僕の異常を感じ取ったみたいだ。僕の目の前に立つけど、何も言えないよね。カンニングは、していないんだし。
頭が冴えているだけだ。
そのテスト結果は、全教科満点だった。
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