第7話 魔物が発生しました

 僕には、時間がいっぱいある。

 怜奈さん以外と関わる人が、いないからだ。

 そんなわけで、部屋の中で実験を行う。勉強よりも魔力の実験の方が楽しいしね。


「物を浮かせることは、出来るんだよな。〈浮遊〉が近いな。それと、空気の〈固定〉も可能だ」


 固定した〈空気〉にコップを乗せる。まるで、空間魔法だ。現代の科学で再現できない現象……。応用の幅は、広いかもしれない。


 ここで、大きな音が鳴った。外からだ。慌てて、カーテンを開ける。


ニワトリがスライムを食べたのか……、な」


 ティラノザウルスと見紛うばかりの巨体が、街中で暴れ回っている。中型から大型のモンスターだな。中世に描かれたコカトリスって、あんな感じなのかな? 誰が考えたのか知らないけど。


「神話の時代は、スライムが海底から這い上がって来ていたのかもね」


 バカな思考は、置いておこう……。

 スライム防衛隊が、銃器をぶっ放している。

 市民の避難は……、まあ終わっているだろう。それぐらいの覚悟がないと、この街には住めない。

 それと、街の構造も特殊だ。シェルターがいっぱいあるし。


 ちなみに、スライム研究所は、全国に七ヵ所ある。

 小さな島に作られた研究所が一ヵ所あったけど、今は島ごと立ち入り禁止になっている失敗事例もある。


 僕がこの街に住んでいる理由は、腕のいい医者と設備の整った病院があるからだ。

 まあ、親の本音は分からないけどね。それでも治療費を出して貰っているので、感謝しないといけない。


 ――コンコン


 ドアのノックが鳴った。


「まずい……」


 僕は、宙に浮かせていたモノへの、魔力の供給を全て断ち切った。コップなどが床に落ちる。

 見られてはいけないモノがないことを瞬時に確認して、ドアを開けた。ちなみにエロモノはないです。パソコンにもタブレットにもないです。見たいけど、怜奈さんに見つかって失望される方が、僕にはダメージがある。

 ごほん。話を戻そう。今は、ニワトリのモンスターだ。


「怜奈さん。まだ遠いですよ? この家は、まだ安全です」


「そうですけど、安否確認です。それと、危ないので、地下シェルターに行きませんか?」


 生体モニタリング装置もあるんだし、僕の状態は把握していると思うんだけど。

 それよりも……。


「……一緒に観ませんか?」


「えっ?」


 僕は、怜奈さんの手を掴んで部屋に引き入れた。

 椅子に怜奈さんを座らせて、僕はベットに腰かけた。


「あ、あの……」


 顔の真っ赤な、怜奈さん。

 こんな表情は、初めてだ。新鮮だな。


「なかなか倒れませんね。あのニワトリ


「そうじゃなくて。ここは、相馬さんの私室なんですよ?」


「そうですけど?」


「……」


 僕が不思議そうな顔をすると、怜奈さんは出て行ってしまった。

 一緒に住んでいるといっても、怜奈さんがこの部屋に入るのは稀だ。

 プライベート空間を作ってくれているのかな?

 それと、僕は怜奈さんの部屋に入ったことはない。


「ちょっと強引過ぎたかな」


 そして思う。

 僕の中の何かが、変わっている。

 急激な変化なので、今だけ分かるのかもしれない。

 性欲とは思いたくないけど、これが恋なのかもしれない。

 怜奈さんと、一緒にいたい――それだけだった。


 窓から外を見る。


「広場に誘導して、そこで一斉攻撃みたいだな。何時もの槍衾やりぶすまで終わりかな……。まあ槍じゃなくて、火器だけど」


 ミサイルを使うのは稀だ。飛ばれた時とかだな。

 後始末が面倒だしね。それと、薬莢を拾うと百円で買い取ってくれる。学生には、ちょっとした小遣い稼ぎだ。

 まあ、命の危険のある街なんだけどね。それでも、去年の民間の死傷者は、0人だ。

 危険な街に、優秀な人材だけが住んでいる。





 ニワトリが倒れた。火薬を使ったバリスタみたいなのが、有効なんだよね。素材回収もあるし、できるだけ原型を留めたいのもある。


「税金になるんだもんね」


 モンスターの肉は、美味らしい。特に家畜が変異した場合、今まで食べたことのない味になると聞いた。

 体にいいのは、確認済み。

 若干スライム成分を摂れるので、若返りの期待もあるらしい。

 結構大きかったので、今回は数百キロの肉が取れると思う。


「あれだけで、数千万円が動くんだよな」


 問題のある街だった。

 だけど、それに見合うだけのリターンもある。


 スライム防衛隊だけじゃない。

 民間業者が、家畜にスライムを与えて、モンスターを発生させてから、即座に処分する仕事だってある。


「まあ、活気に満ちた街なのは、疑いようがないよな」

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