第5話 魔力に目覚めました?

 ……目が覚めた。

 周囲を見渡すと、集中治療室みたいだった……? 機材が見える。

 それと、手足が縛られている。カーテンで仕切られているので、自分の周囲以外は見えない。

 周囲の状況と、最後の記憶から、現在を推測する。


『病院だよな……。それと、生き延びられたのか?』


 とりあえず、ナースコールを鳴らす。場所は、良く知っている。

 看護師が、慌てて来てくれた。


「気分はいかがですか?」


「問題ないです」


 僕がそう言うと、酸素マスクを外してくれた。

 それと、手足が拘束されていたけど、それも外してくれた。信頼されているらしい。

 まあ、長い入院生活で、僕は看護師を困らせたことはない。床ずれは避けたいしね。

 体を起こそうとするけど、看護師に制止させられる。まだ、寝ていた方がいいのかな?


「えっと、どれくらい寝ていましたか?」


「数時間ですよ? 何か悪い物でも食べましたか?」


「相馬さん!」


 怜奈さんが、目を腫らして駆け寄ってくれた。


「ゴメンなさい。ゴメンなさい。食事に問題があったみたいで……」


 不思議に思ってしまう。湯豆腐だよ?

 その後、警察が来て事情聴取だ。


「ふむ……。湯豆腐を食べたと。材料に問題はなかったのだね?」


 怜奈さんが疑われていたのか。ここは、擁護しないとね。


「僕にアレルギーはありません。食事には問題なかったと思います。しいて上げるなら、美味しくて食べ過ぎたのかもしれません。胃腸が、受け付けなかったのかな?」


 何が悪かったかは、僕も分からない。そして、何故生き延びられたのかも、誰も分からないだろうな。

 救急車の中では、心臓が異常なスピードで動いていたらしいけど、食事でそんな異常が起きるとは考えられない。アレルギー物質なら、発疹が出るはずだし。


「ふむ……。今の気分はどうだい?」


 言われて気が付く。体が軽い?


「とても……、調子いいです」


 手を、グーパーする。

 力が入る。こんな感覚は、今までになかった。

 ここで、お腹が「ぐ~」と鳴った。


「……食べ過ぎには、注意してね」


 警官は、呆れて帰って行った。人騒がせだよな……。すいませんでした。

 僕は、怜奈さんの手を握る。


「ゴメンなさい。僕の不注意でした」


 怜奈さんは、泣きながら聞き取れない回答をしてくれた。





 一日持たずに病院の出戻りなので、また病室に移される。

 それと、お腹が鳴って仕方なかった。

 看護師が気を効かせて、病院食を持って来てくれたけど、まるで足らない。

 怜奈さんにお願いして、お弁当を買って来て貰った。


「それでも足らないんだよな……」


 怜奈さんは、病室で寝ている。

 僕は、ベッドから降りて立ち上がった。


「どうなってんだ……」


 あれだけ、辛かった内臓の痛みが消えていた。

 体が軽い。

 そして、体中の筋肉に力が入る。


 生まれ変わった気分だ。

 それと……。


「右手の人差し指が光っているんだけど?」


 ポイズンに噛まれた傷だ。もう傷は塞がっているんだけど、淡く光っている。誰も気が付かなかった? 僕にしか見えない?

 ここで思う。


「指先にポイズンの体液がついていて、それを舐めたから倒れたのか? 摂取したことになった?」


 だけど、そんな事例は聞いたことがなかった。それもあんな僅かな量で。

 スライムに病気の回復効果は、なかったはずだ。

 若返りの効果だけが、報告されていた。


「まあ、考え過ぎだよな。今日だけ調子いいのかもしれないし」


 僕は、光る指先で花瓶に触れてみた。取っ手に指をかけて、持ち上げてみる。


「うん、軽い。水が結構入っているのにな」


 筋力が増えた感覚がしたけど、本当に増えているのかもしれない。

 感覚に問題はなさそうだ。だけど、次の瞬間に違和感を感じた。


「!?」


 ここで、声を出さなかったのは、奇跡だったかもしれない。

 宙に浮く花瓶を見ても、声を押し殺した。

 そう……、力を抜いても花瓶が落ちなかったので、そのまま手を離したのだ。


『念動力?』


 もしくは、今だ夢の中にいる可能性……。

 僕は、人差し指をゆっくりと下した。それに従い、花瓶も高度を落として、ゆっくりと棚に着地した。どう考えても自由落下じゃない。


 周囲を見渡す。

 怜奈さんが、寝ているだけだ。


 僕は、好奇心には敵わずに再度の実験を行った。

 なるべくバレないモノを……。

 ごみ箱の枯れ葉で試してみたけど、やはり宙に浮いた。

 でも左右には動かせない。


『これ、念動力じゃないな。〈浮遊〉が正しいのかもしれない。もしくは、〈空間固定〉が近いかな? 重力操作?』


 今だ人類が、獲得できない技術だ。


 そうなると、この人差し指の光は……、魔力?

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