第4話 お腹痛い……。僕はここまでかもしれない

 僕は、ポイズンスライムに触れてみた。つんつんと突いてみる。

 スライムに毒性はない筈だからだ。猫の口の中の方が、よっぽど怖いとネットに出てたな。


 ――プルルン


「ゼリーみたいにプルプルしてて可愛いな」


 つんつんと突くと、プルプルと震える。暴れることもない。


「ああ、そうだった。水をあげないとね」


 僕は、いつも飲んでいるスポーツドリンクをポイズンスライムにかけてあげた。

 ポイズンスライムの体積が、増える。

 気持ち良さそうだな。

 ペットボトルをあげると、食べ出した。


 何時までも見ていられる。可愛いペットを捕まえた気分だ。

 政府に知られると、取り上げられてしまうかもしれないけど、知られなければいいだけだ。

 怜奈さんには、口止めをお願いしよう。と言うか、気がついてなさそうだし。


 つんつんと突いていると、変化があった。


「つっ……、痛た?」


 人差し指から血が出ていた。


「えっ? 噛まれた? スライムに歯なんてないのに?」


 指先を見ると、スライムのゼリーが付いていた。スライムを突き破るほど、強く触った覚えはない。軽く撫でた程度のはずだ。

 それにスライムに、指を切るほどの硬い組織なんて、あるわけがない。全身が柔らかいんだし。そうなると……。


「ポイズンが、僕の指を食べようとした? 有機物は捕食しないはずなのに?」


 このポイズンスライムは、何かが違うのかもしれない。

 変異種?


 まあいいや、とりあえず絆創膏だな。

 僕は、人差し指を舐めて、リビングに移動した。





「相馬さん。ご飯の用意が、できましたよ」


「ありがとうございます。怜奈さん」


 僕は、人差し指に絆創膏を巻いた。そして、テーブルに着く。

 鍋と、ご飯、みそ汁。そしてサラダだ。とてもいい匂いだな。


「それで……、先ほどの昆虫の卵は捨てたのですか? 外に置いておいたカバンに、卵を産む昆虫がいたなんて……。カバンごと捨ててくださいね」


 怜奈さんは、ポイズンを昆虫の卵と勘違いしていたのか。まあ、スライムだと認識していないなら、それでいいか。

 それと、寸胴鍋を持って行ったのには、気が付いていないらしい。まあ、二人で暮らしているんだし、滅多に使わない調理道具なんてそんなもんか。

 まあいいや、訂正はしない。僕も取り上げられたくないしね。ポイズンは、黙っていよう。


「カバンは、燃えるゴミの袋に入れておきますね」


「おねがいします。それでは、食べましょう」


「「頂きます」」



 湯豆腐は、美味しかった。

 なんだろう? 味覚が戻ってきた感じだ。

 僕にとって、食事は栄養補給でしかないんだけど。


「うふふ。相馬さん。随分と食べましたね。嬉しいです」


「美味しかったので、必要以上に食べてしまいました」



 その後、自室に戻る。

 ポイズンは、逃げずにいてくれた。ペットとして、飼いやすいかもしれない。


「えーと、プラスチックやアクリル以外の飼育小屋……」


 ネット検索で、ガラスの水槽が、目に留まった。小さいけど、重そうだ。だけど、寸胴鍋と同じくらいの大きさだな。

 後必要なモノ……。一応エアーポンプも購入しよう。

 ネット決済で購入を行う。

 明日には、到着するみたいだ。


「ふう~。いいモノが見つかって良かったな。これで、ポイズンを飼えるかもしれない」


 安心したのかな?

 そして、眠気が襲って来た……。久しぶりの満腹感……。


「僕の体内時計は、滅茶苦茶なんだよな……」


 寝たいときに寝る。それだけは、許して貰えていた。

 食べたくなくても、時間が来たら食べる。それだけ守れば、医者は何も言わない。僕が食べると、怜奈さんが喜んでくれる。

 リハビリを兼ねた運動は、それほど苦にはしていない。まだ、手足は動くんだ。来年には、どうなっているのか分からないけどね。


 僕は、寸胴鍋に蓋をして横になった。

 すぐに強烈な眠気が襲って来て、意識を失う……。





 なんだろう……。まどろみの中、人の声が聞こえる。


「血圧上昇中。心拍数も180を超えています。フルマラソンしている状況です! 心臓が持つかどうか!」


「相馬さん! 相馬さん、しっかりしてください! 目を覚まして!」


 怜奈さんの声が聞こえる。

 ああ……、そうか。

 生体モニタリングしている装置が、僕の異常を病院に知らせてくれたのか。

 今は……、多分救急車に乗せられていると思う。


 つうか、お腹痛い。それと、体中が熱い。


 薄れ行く意識の中。

 怜奈さんの手の温もりだけは、はっきりと分かった。


『怜奈さん、好きでした。今までありがとうございました。感謝しています』


 数ヵ月の付き合いだったけど、今までで一番いい家政婦さんだった。

 料理も上手くて、綺麗な人だったしね。



 僕は最後の力で、怜奈さんの手を握り返した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る