第4話 お腹痛い……。僕はここまでかもしれない
僕は、ポイズンスライムに触れてみた。つんつんと突いてみる。
スライムに毒性はない筈だからだ。猫の口の中の方が、よっぽど怖いとネットに出てたな。
――プルルン
「ゼリーみたいにプルプルしてて可愛いな」
つんつんと突くと、プルプルと震える。暴れることもない。
「ああ、そうだった。水をあげないとね」
僕は、いつも飲んでいるスポーツドリンクをポイズンスライムにかけてあげた。
ポイズンスライムの体積が、増える。
気持ち良さそうだな。
ペットボトルをあげると、食べ出した。
何時までも見ていられる。可愛いペットを捕まえた気分だ。
政府に知られると、取り上げられてしまうかもしれないけど、知られなければいいだけだ。
怜奈さんには、口止めをお願いしよう。と言うか、気がついてなさそうだし。
つんつんと突いていると、変化があった。
「つっ……、痛た?」
人差し指から血が出ていた。
「えっ? 噛まれた? スライムに歯なんてないのに?」
指先を見ると、スライムのゼリーが付いていた。スライムを突き破るほど、強く触った覚えはない。軽く撫でた程度のはずだ。
それにスライムに、指を切るほどの硬い組織なんて、あるわけがない。全身が柔らかいんだし。そうなると……。
「ポイズンが、僕の指を食べようとした? 有機物は捕食しないはずなのに?」
このポイズンスライムは、何かが違うのかもしれない。
変異種?
まあいいや、とりあえず絆創膏だな。
僕は、人差し指を舐めて、リビングに移動した。
◇
「相馬さん。ご飯の用意が、できましたよ」
「ありがとうございます。怜奈さん」
僕は、人差し指に絆創膏を巻いた。そして、テーブルに着く。
鍋と、ご飯、みそ汁。そしてサラダだ。とてもいい匂いだな。
「それで……、先ほどの昆虫の卵は捨てたのですか? 外に置いておいたカバンに、卵を産む昆虫がいたなんて……。カバンごと捨ててくださいね」
怜奈さんは、ポイズンを昆虫の卵と勘違いしていたのか。まあ、スライムだと認識していないなら、それでいいか。
それと、寸胴鍋を持って行ったのには、気が付いていないらしい。まあ、二人で暮らしているんだし、滅多に使わない調理道具なんてそんなもんか。
まあいいや、訂正はしない。僕も取り上げられたくないしね。ポイズンは、黙っていよう。
「カバンは、燃えるゴミの袋に入れておきますね」
「おねがいします。それでは、食べましょう」
「「頂きます」」
湯豆腐は、美味しかった。
なんだろう? 味覚が戻ってきた感じだ。
僕にとって、食事は栄養補給でしかないんだけど。
「うふふ。相馬さん。随分と食べましたね。嬉しいです」
「美味しかったので、必要以上に食べてしまいました」
その後、自室に戻る。
ポイズンは、逃げずにいてくれた。ペットとして、飼いやすいかもしれない。
「えーと、プラスチックやアクリル以外の飼育小屋……」
ネット検索で、ガラスの水槽が、目に留まった。小さいけど、重そうだ。だけど、寸胴鍋と同じくらいの大きさだな。
後必要なモノ……。一応エアーポンプも購入しよう。
ネット決済で購入を行う。
明日には、到着するみたいだ。
「ふう~。いいモノが見つかって良かったな。これで、ポイズンを飼えるかもしれない」
安心したのかな?
そして、眠気が襲って来た……。久しぶりの満腹感……。
「僕の体内時計は、滅茶苦茶なんだよな……」
寝たいときに寝る。それだけは、許して貰えていた。
食べたくなくても、時間が来たら食べる。それだけ守れば、医者は何も言わない。僕が食べると、怜奈さんが喜んでくれる。
リハビリを兼ねた運動は、それほど苦にはしていない。まだ、手足は動くんだ。来年には、どうなっているのか分からないけどね。
僕は、寸胴鍋に蓋をして横になった。
すぐに強烈な眠気が襲って来て、意識を失う……。
◇
なんだろう……。まどろみの中、人の声が聞こえる。
「血圧上昇中。心拍数も180を超えています。フルマラソンしている状況です! 心臓が持つかどうか!」
「相馬さん! 相馬さん、しっかりしてください! 目を覚まして!」
怜奈さんの声が聞こえる。
ああ……、そうか。
生体モニタリングしている装置が、僕の異常を病院に知らせてくれたのか。
今は……、多分救急車に乗せられていると思う。
つうか、お腹痛い。それと、体中が熱い。
薄れ行く意識の中。
怜奈さんの手の温もりだけは、はっきりと分かった。
『怜奈さん、好きでした。今までありがとうございました。感謝しています』
数ヵ月の付き合いだったけど、今までで一番いい家政婦さんだった。
料理も上手くて、綺麗な人だったしね。
僕は最後の力で、怜奈さんの手を握り返した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます